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底から出てもそこは底  作者: 三頭脳
二回目の少年院を出て
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喜連川少年院を出院して

 

 喜連川少年院のみんなの前から去った後は水府学院の時と同じで院長室に行き、暗記した特別順守事項を読み上げた。

 両親が迎えに来ていたので俺は両親と共に浦和の保護観察所に顔を出してから自宅に戻った。

 保護司は引き続き同じ人が担当だった……。


 兄は喜連川少年院に一回面会に来てくれたが、外で会うのは二年ちょっとぶりだったので、すごく懐かしい感じがした。

 もうすぐ二十歳となる兄は、すっかりシンナーをやめて水道設備屋で真面目に働いていた。

 兄から聞いたところ、上尾には

 「クラッシャーズ」

 というチームがあり、俺と同じ歳の元太平中の頭の大島が頭だという。

 別名

 「大島ーズ」

 と言われて同じ歳ばかりで二十人くらいいたらしい……。

 俺は大島は嫌いだったので、特に会いたくなかった……。


 今回は約一年半も少年院にいたので、軽く浦島太郎になった気分だった。

 捕まった時、俺の同世代は高一の夏だったのに、出てきたら高二の終わりになっていたのだから当たり前だった……。

 とりあえず、俺がやるべき事は分かっていた。

 通信制高校の一年生の課程をやりきる事だ……。

 さすがにこれを台無しにしたら、今までの苦労が水の泡になるのでもったいなさ過ぎるから必ず行くと決めていた。

 それまでは誰にも連絡するつもりもなかった……。


 一年生の課程を終えるまでは栃木に通い、二年生になったら、埼玉の大宮中央高校(通信制)に転校する事に少年院にいる時から決めていた。

 電車で毎週栃木に通う為、当然上尾駅を使うわけだが、上尾の駅前は俺が捕まる前と雰囲気がかなり変わっていた。

 駅からの歩道橋が延びており、大型スーパーに直接行けるようになって便利になっていた。

 「やっちまーズ」

 があった頃はあんなに閑散としていた駅前が若者で溢れていた。

 何と言っても一番驚いたのは女子高生の姿が激変していた事だった。

 ミニスカートにルーズソックス、日焼けサロンで焼いた肌に茶髪、いわゆるコギャルファッションになっており、俺は違う世界に迷い込んでしまったのかと思った。

 もちろん全員というわけではないが街中に溢れていた。

 若い男も腰でズボンを履く、腰パンスタイルが流行っており、ロン毛が多かった。

 特に驚いたのはカチューシャを男が普通に付けていた事だった。

 俺は全くついていけなかったが、四月までは誰にも連絡しないと決めていたので、適当に買った帽子を深く被ってコソコソと毎週栃木に通った。


 これは少年院あるあるだと思うが、街中に音楽が流れていると、つい癖で音楽に左足を合わせて歩いてしまった。

 また、俺の前を歩いてる人がいると、その人の手のフリと歩くリズムを合わせてしまった。



 母が四月からの通学用に原付バイクを買ってくれたので原付バイクの免許を取りに行った。

 勉強慣れしていた俺は一回で簡単に取れた。

 

 大宮中央高校は大宮駅前からけっこう離れていたので、上尾からなら原付バイクで通う方が楽だったのだ……。



 誰とも連絡を取らなくても充分楽しかった。

 テレビは見れるし、外の飯はうまいし、捕まる前に読んでた漫画はいなかった間にかなり進んでいたし、退屈はしなかった……。



 俺は三月までしっかり通って、一年生の課程を無事修了させた。


 調べたら二年生課程を終えれば、大検の四科目が免除になる事が分かった。

 必須科目は全て満たしていたので、何でもいいからあと一科目取れば大検合格になる事が分かり、一科目なら余裕だと思ってやる気が出てきた。


 

 四月になり元サッカー部の今町と親友エバにだけ連絡した。

 流行りの服が分からなかったので、一緒に付き合ってもらいたかったからだ。

 二人とも、久し振りの再会を喜んでくれた。

 喜連川少年院でずっと偏った敬語ばかり使っていたせいか、軽い言語障害みたいになってしまって、タメ口を話すのがぎこちなくなってしまっていた。

 俺は二人について行っただけなので、都内のどこだか忘れたが服を買いに行った。

 一番会いたかったようじの事を聞くと、あの強盗事件以来、地元にはいなく、親戚んちかなんかに行ってしまったと聞きショックだった。

 俺はようじが一番気が合ったので残念で仕方がなかった。

 そして俺のせいだと思った。

 俺のせいで大切な友達を一人失ってしまったのだ……。


 今町が、俺が中学生の時に恋した蛍が、俺らと同じ中学の同級生と付き合っているからショックだと言っていた。

 まだ未練があるのかと、俺は今町を感心した。

 俺はあんなに好きだった蛍だが、この時には遠い昔の事のように感じて何も思わなかった。

 合計二年間も女のいない生活をしていたのだから、当然なのかも知れなかった。

 

 エバは高校を卒業してダンスの専門学校に通っており、今町はエバの通っていた橘高校の三年生になっていた。

 俺が通信制高校に通ってる事は言わなかった。

 サプライズにしたかったわけでもなく、なんとなく言いたくなかったのだ。


 服を買いに行ったが、二人ともデザインよりメーカーばかり気にしていた。

 嫌な時代になってしまったな、と思った。

 買った服は上下とも赤いナイロン生地の物以外、あまり気に入らなかったが、流行ってるなら仕方がないと思ってまだよく分からないのでとりあえず受け入れた。

 エバが俺が買った服の一つを自分の持ってる服と交換して欲しいと言ってきた。

 なんだか胡散臭い話だと思ったが、付き合ってくれたしよく分からないので交換してあげた。

 後で分かった事だが、エバから受け取った服は元太平中の一個上のとも先輩とカブッていたのだ。

 俺が着ていたのでとも先輩が妥協して着なくなったからよかったものの、こういうエバのこずるい所が俺は嫌いだった。

だが嫌な所のない人間なんていない。

嫌な部分より、俺にとっていい部分の方が多いからこうして付き合い続けていられるのだ……。



 俺の住む団地の商店街で、中学の同級生のボコボコの元彼女の直子とばったり会って話し掛けてきたが、女のいない生活を一年半もしていたので、何話していいか分からなくて素っ気なく接してしまった……。

 きっと嫌ってると勘違いしただろう……。

 悪い事をした……。



 鑑別所で一緒だった熊谷の平川の先輩(最初に同じ部屋になった方の人)に連絡した。

 彼は普通に電話に出た。

 多摩少年院に入っていたらしく、鑑別所や少年院の話を軽くした後

「今度、遊ぼう!」

 と言って電話を切ったが、歳が二つ離れている事もあってか、その後連絡する事はなかった……。

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