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底から出てもそこは底  作者: 三頭脳
一回目の少年院を出て
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同じ温度の男

 

 どういうわけか黄色とは偶然よく会った。

 家が近いと言えば近いが、それにしてもこんなに会うものなのかってくらいドラマみたいによく出会った。

 団地で会うのはもちろん、駅で会ったり駅に行く途中で会ったり、本当にびっくりするほどよく会った。

 焼きそば頭も女が出来たので、その点では黄色と付き合っても何の問題もなかった。

 焼きそば頭に許可取ってもきっと許してくれただろう。

 だが付き合いたい気持ちはあったが、チームのみんなと遊んでいる事が楽しくて後回しにしてしまっていた。

 というより無職という事が、自分を後押しできなかったのかもしれないが……。



 持っていた金が尽きて、俺達はまたカツアゲするようになった。

 カツアゲは警察に捕まった事がないので、なぜかバレないと思い込んでいたからだ。

 主にようじと竜を誘ってカツアゲしていた。

 少年院で鍛えてきた俺は、もはや、そんじょそこらの奴には負ける気はしなかった。


 竜とカツアゲしようとしていると、ターゲットとなる高校生がいたので俺達は自転車で追いかけた。

 相手も自転車に乗っていた。

 もう中学を卒業したので中学生はカツアゲしなかった。

 間違えて中学生に声を掛けても、中学生だと分かった瞬間見逃してやった。

 さすがにそこにはカツアゲ職人?

 としてのプライドがあったのだ……。

 

 俺がターゲットの高校生に追い付いた時、なぜか竜は通過して行ってしまった。

 どうしたんだ?

 あいつ?

 とは思ったが、まあいいや!

 と思っていつもどおり

 「どこ高だ?」

 と聞くと

 「◯◯高校」

 とぶっきらぼうに答えて来たので、イラッとしてとりあえず

 顔をぶん殴ってやった。

 「ドカッ!」

 自転車ごと倒れたそいつに

 「金出せよ!」

 と言うと

 「くそが!」

 と反抗的な言葉とは裏腹に金を差し出してきた。

 

 事が終わった後、竜が戻ってきたので

 「どうしたんだよ?竜?」


 「いや、ごめん、さっきの同じ中学の二個上で知り合いだったからさ……」

 それを聞いてそういう事なら仕方ないなと思って、それ以上何も言わなかった。

 

 ようじもそうだが、カツアゲに関しては竜もいつも俺のサポート役ばかりだった。

 別に構わないんだけど、俺的には一人でやってるのと変わらないので微妙な感じではあった……。

 つまり極論を言うと、分け前が減るだけだという事だ。


 この話の一部始終を親友エバに言ったら

 「くそが!って言われてよく殴らなかったな!」

 って言われて

 そこかよ?相変わらず、ずれてんなこの人!

 って思った。


 元太平中の頭の大島に会った時、突然俺に

 「うちの親が、おまえはうち出禁だと言ってたからごめん」

 と言ってきた。

 俺はいつまでも四万円を返さない大島が嫌いだったのでどうでもよかった……。

 

 団地内を歩いていると、兄の友達数人が溜まっており

 「この原付バイク危ないからやるよ!」

 と意味がよく分からなかったが、原付バイクをもらった。

 捨ててあったバイクだと言うが、これももちろん窃盗になる……。


 この原付バイク、何が危ないのかというと、スロットルを全開にまわした状態に常になっている為、エンジンをかけると、いきなり全速力で進み出すのだ。

 その為、ブレーキをかけながらエンジンをかけないといけない。

 ブレーキでは停めきれないので、停まる時はエンジンを切らないと停まれない。


 俺はこれは逆に面白いと思って乗り回していた。

 上尾市の市民体育館に行くと、元太平中の頭の大島と茶坊主達がいた。

 俺は面白がって、何も教えず

 「大島!この原付バイク乗って見ろよ!」

 と乗らせてみた。


 「ブオオオ!ガシャン!ズザザザ……」

 大島がエンジンを掛けた瞬間、原付バイクが思いっきり走り出したので、大島は少し引きずられながら転んでしまった……。

 俺が思ってたよりひどい状態になってしまったが、思わず笑ってしまった。

 大島はキレながらポケットに入ってたポケベルを取り出した。

 ポケベルは少し割れていた。

 「おまえ!これ交換して貰ってこい!」

 と茶坊主にポケベルを手渡した。

 俺は本人じゃなきゃ無理じゃね?

 って思いながら見ていた。

 大島は嫌いなので、俺は別に謝らなかった。

 大島はどこかに歩いて行ってしまった。

 残された俺達はなんとなく気まずい空気になった。

 なんだか俺が悪いみたいな空気だった(実際そうだけど……)。

 そこへ、何も知らない焼きそば頭が陽気に現れた。

 「おう!三頭脳!何してんだよ?」

 女と仲良くやってるようで調子良さそうだった……。

 俺は、いいよ!いいよ!どうせおまえも事情を知ったら大島側になるだろ……

 と思って無視して歩いて帰った。

 もらった原付はもういらないので、市民体育館の端に置いてきた。

 トボトボ歩いていると、大島が自身の原付に乗って現れ、

 「何、暗い顔してんだよ?元気出せよ!送ってってやるから乗れよ!」

 と言って来たので乗った。

 俺は無言だった。

 俺んちに着くと大島は

 「また遊ぼうぜ!三頭脳!」

 と言って去っていった……。

 俺は意味が分からなかった。

 そして、市民体育館に連れ戻すならまだしも、なぜに俺を家まで送って行ったんだと不思議に思った……。




 この頃

 「やっちまーズ」

 のメンバーは、上尾の西口駅前に出来たばかりの大型ゲームセンター前を拠点に集まっていた。

 このゲームセンター、一階から三階までゲームセンターという、今まで上尾にはなかった最大規模のゲームセンターだった(一フロアも体育館より広いくらい)。

 俺らは通る同世代の女、男関係なく何かと絡んでいたせいで、その内、びっくりする程、同世代の人間が駅前なのに、このゲームセンター前を通らなくなっていった。

 


 そんな中、駅前でたまたま元太平中の頭の海岸先輩と会った。

 俺は、俺の金を盗んだ大島がこの先輩が苦手なのを知っていたので、仲良くしたかった。

 みんなでは会っていたが二人きりというのは初めてで

 「先輩カツアゲしにいきましょうよ」

 と誘うと

 「おっいいぜ!やるか!」

 と即答だった。

 

 お手並み拝見と海岸先輩についていくと、同じく駅前だが、大型ゲームセンターではなく、元々ある「高技術」と呼ばれるゲームセンターに入っていった。

 海岸先輩は、メダルコーナーのスロットをやってる人の後ろポケットに、長財布が刺さっている事に目をつけ、近寄ったかと思うと

 「バッ!」

とその長財布を奪って走り出した。

 おお!すげぇ!やべえ、この人!

 とは思ったが、これはカツアゲでは断じてないとも思った。

 俺も追いかけていったが、長財布の小銭入れのチャックが開いた状態になっていたので、小銭がばらまかれていた。

 俺はその小銭を拾いながら追いかけたので、被害者が追い付いてくるかと思っていたのに、不思議な事に追いかけて来なかった……。


 俺はこの海岸先輩の行動を見て、地元で兄以外に初めて俺と同じ温度の人間に出会ったと思って感動した。

 少年院では、猫かぶってるだけで、同じ温度、それ以上の人間がゴロゴロいたが、地元にはいなかったのだ……。

 ちなみに少年院の中で一緒だった、同級生の熊谷の平川も同じ温度の人間だった……。


 海岸先輩と合流し、今度は俺が見せる番だと思い、海岸先輩が乗ってるXJRは置いていって、海岸先輩を後ろに乗せて自転車でカツアゲのターゲットを探した。

 上尾駅西口の駅前通りを走っていると、高校生と見られる三人組を発見した。

 ところが、真っ直ぐ行くと市民体育館へと続くこの道、登り坂になっていて、体格のいい海岸先輩を後ろに乗せていると、めちゃくちゃきつくて全く追い付けなかった……。

 上り坂を越えてどうにか追い付いた時には、少年院のマラソンで鍛えたはずのスタミナが切れかかっていた……。


 「ハアハアハア……」

 追い付いたが、俺が呼吸を整えている間に海岸先輩が

 「おい!おまえら〜〜!」

 と怒鳴り出した。

 俺も含めて高校生三人もビクッとなった。

 なんだ?このカツアゲの仕方は!

 俺はびっくりした。

 

 「おまえら金を出せ!」

 と続けて海岸先輩は怒鳴った。


 少し呼吸が整ってきた俺は、ここからが俺の出番だと思った。

 先輩はカツアゲ慣れしていないとプロ?

 の俺にはすぐ分かったのだ。

 

 「バキ!」

 戸惑ってる相手をとりあえず殴った。

 これがカツアゲの基本であった。

 もう金を出せと海岸先輩が意思表示を示してる以上、一発殴れば、もう殴られたくないので本能的にすぐ金を出して来るのだ。

 三人とも財布をすぐ出してきた。

 本来は一人殴ればいいのだが、海岸先輩の前だから三人とも殴った。

 先程のひったくりは分け前をもらえなかったが、このカツアゲの金は二人で分けた。

 

 この日、駅前にいた三森さんという兄の同級生がモンキーを貸してくれた。

 三森さんは身長が百八十二、三センチくらいあり、スキンヘッドなので、作業着姿でなければ反社会的勢力の人にしか見えなかった……。

 なんで、こんな大きい人がモンキーなんて乗ってるんだって思ったけど、この時はモンキーが流行っていたのだ……。


 海岸先輩がXJRに乗り、俺が三森さんに借りたモンキーに乗って駅から団地の方へ帰っていると、男子高校生が自転車に乗って走っていたので、俺が意味もなく思いっきり蹴っ飛ばした。

 するとその高校生は、よろけて標識にぶつかりそこにあった空き地の柵を越えて空き地の中まで体だけすっ飛んで行った。

 自転車だけ標識の所に残ってる形になった。

 本当はカツアゲしようと思っていたが、柵を越えてしまったので面倒になったのでやめた。

 ある意味、運のいい奴だと思った。

 

 その出来事を悲しむかのごとく、

 「ポツポツ……」

 と雨が振り出し、次第に強くなって土砂降りになった。

 土砂降りの中、海岸先輩と俺はまたも男子高校生がいたので、捕まえて止めた。

 俺がいつものパターンでカツアゲしようとしたら、海岸先輩がその高校生の後ろポケットに刺さっていた財布を奪って走り去っていってしまった……。

 先輩!それはカツアゲではなく、ひったくりです!

 と思いながら、俺とその取り残された高校生は

 「…………」

 と気まずい空気が流れた。

 俺は仕方がないので

 「ありゃねえよな?ちょっと待ってろ!取り返してきてやるから!」

 と言って海岸先輩を追い掛けた。

 もちろん、嘘なので戻る気など全くない。

 彼は雨の中、本当に待っていたのか?

 いつまで待っていたのかすら知る由もなかった……。

 

 

 モンキーの鍵を失くしてしまった……。

 三森さんに怒られると思ったが、五千円出せば俺の住む団地の近くの鍵屋が作ってくれるので

 「作ってきてくれればいいよ!」

 と言ってくれた。


 カツアゲして五千円は持っていたので、モンキーを鍵屋まで持っていった。

 軽いモンキーでよかったと思った。

 鍵屋に頼むと本当に五千円で新しい鍵を作ってくれた。

 特にモンキーも調べられなかったので、盗んだバイクでも鍵を簡単に作ってもらえるではないか!

 と思ったが結局実行しなかった……。

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