チーム結成
仕事をやめた俺は、無駄にした金髪だけが残ってしまった。
たまたま初めてやった仕事の拘束時間が長過ぎただけなのだが、仕事はきつ過ぎるものだと思い込み、働く気がなくなってしまった。
親友エバと同級生のようじとよく遊ぶようになった。
三人でコンビニに行くと、駐車場にいたマグナに乗った金髪の人が
「よお!出てきたらしいな!久しぶりじゃねえか!」
笑顔で言ってきた。
見た事ない人だったのだが、あきらかに俺を知ってて先輩口調なので敬語を使った。
「はあ。そうなんですよ!」
誰だ?この人?やたらフレンドリーだけど俺は知らないぞ!
その後、親友エバとも仲良さげに話していたが、全く誰だか分からなかった。
エバと話した後、マグナの人はどこかに去っていった。
「今のは、どちら様ですか?」
とふざけてエバに聞くと
エバが
は?何言ってんだ?こいつ!
という顔をした後
「坂上だよ!坂上!」
え?
坂上先輩?
なんで坂上先輩がいるんだ?
中学時代に巨漢の仁村先輩グループと対立していたトド先輩グループのナンバー二の筋肉マッチョの坂上先輩だった。
格好と雰囲気が全然違ったので別人だと思ったのだ。
あんな笑顔は見た事がなかった……。
エバの話によると、何があったかは分からないが、最近巨漢の仁村先輩グループとツルんでるという……。
ちなみにトド先輩は高校に行ったら、高校の同級生にぶっ飛ばされたとの事。
俺はそれを聞いて悲しくなったが、マッチョの坂上先輩が仲間になったのは心強かった。
次第に、たまたま会ったおしゃべり好きの山先輩やら巨漢の仁村先輩、元太平中の先輩達とも遊ぶようになっていった。
ちなみに元太平中のナンバー二の純先輩は女の人と別の街に行ってしまったとの事だった……。
先輩達はどこから手に入れたのかCBRやらFZR、SR、XJR等に乗っていた。
盗んだものではないらしいが、借り物のSR以外、ナンバープレートは付いていなかった。
この日はイケメンの高先輩もいた。
巨漢の仁村先輩が俺に単車を乗せてみたいと言い出し、SRに乗せてもらった。
SRはセルではなくキックでエンジンをかけるので、エンジンをかけた後から教えてもらった。
走り出して途中までは快適だったのだが、住宅街でエンストしてしまった。
誰か助けが来るまで待とうと思ったが、さっきI先輩がキックでエンジンをかける様子を見ていたので、とりあえず真似してみた。
ところが一速にギアが入っていた為か、キックした瞬間前にバイクが動いてしまい、俺は慌ててハンドルを両手で掴んだ。
やばいやばい……掴んだけど、バイクが倒れていく力に勝てず、徐々にバイクが倒れていった。
すごくゆっくり倒れていったので、大丈夫かと思ったら最後に
「パキッ!」
って嫌な音がしたので見てみたら、クラッチレバーが折れていた。
やべえ!やっちまった!
「ドドドドドド……」
スティードでイケメンの高先輩とおしゃべり好きの山先輩がやってきた。
「すみません、やっちゃいました」
というとイケメンの高先輩が
「おまえ、これ絶対に傷付けないからって約束で無理言って借りてきたんだぞ!」
と言ってきた。
それなら無免の俺に乗せないでくださいよ……って思ったけど、そんな事は言えるはずもなかった。
イケメンの先輩が弁償を立て替えてくれたが、結局俺はこの金は払っていない……。
団地内のグラウンドで、イカつい顔の竜と元石南、太平中の先輩達と花火をしていた。
花火といっても、爆竹やらロケット花火といった、どちらかというとうるさい系の花火ばかりやっていた。
ロケット花火の棒を外して、どこに飛ぶか分からないようにしたりして遊んでいると
「うるせえんだよ!クソガキどもがあ!」
「カランカラン……」
グラウンドの近くの団地の五階から、男の人が空き缶を投げてきた。
その場にいたみんなは知らなかったと思うが、俺は知っていたのでうっかりしていた。
そこには反社会的組織に属してる四十代くらいの人が住んでいたのだ。
しょっちゅう近場で揉め事を起こしている、とてもおっかないイケイケな人だった。
巨漢の仁先輩が、おしゃべり好きの山先輩に首で
おまえ!何かしゃべれ!
と合図すると山先輩が
「すみませんでした!」
と謝った。すると
「この近くで(花火を)やってんじゃねえよ!」
「分かりました。すぐいなくなります!」
と山先輩が返事をして、なんとか収まった。
みんな、仕方がないから移動するか……、
という雰囲気の中、俺はある事を閃いた。
俺は爆竹一束とライターを持って
「ちょっと根性試し行ってきますよ!」
と言って反社会的組織に属している人が住む階段を登った。
みんな、こいつ、まさか!?
という顔をして、すぐ逃げれる状態にして俺の行動を見守っていた。
元太平中の頭の海岸先輩がニヤニヤと楽しんでる様子なのが見えた。
俺も咄嗟の思い付きなので、何階まで登るか決めていたなかったが、みんな期待と不安の入り交じった顔をしているので後に引けなくなった。
四階と五階の間の踊り場にたどり着き、みんなに爆竹を見せながら導火線に火を付けた。
その瞬間、みんな蜘蛛の子を散らしたように逃げ出した。
海岸先輩が
「上尾はあいつにやる!」
と言ったのを聞き逃さなかった。
え?上尾はあなたのだったの?
って不思議に思ったがそれどころではなかった。
さすがに五階まで行く勇気はなかったので、四階と五階の踊り場から導火線に火がついた爆竹を五階に投げて俺は一気に下に降りていった。
「バババババババン!」
俺が階段を降りているとものすごい音が鳴り響いた。
今度はさっきの男の人ではなく、女の人が怒鳴ってきた。
爆竹の音が凄すぎて何を言ってるのかは分からなかったが、下まで行くと、みんな逃げ出して行く中、イカつい顔の竜だけが下で普通に立って待っていてくれた。
俺が竜の所に行くと
「後ろ乗って!」
と言って自転車のスタンドを外して乗り出した。
後ろに乗った俺は上から何か降って来ないか気になったが、もう怒鳴り声もなかったし何事もなかった。
俺はやりきった感があったので満足した。
この頃上尾西口は、警察よりも反社会的組織に属している人達から
「バイクのノーヘルは禁止」
だの
「バイクの二人乗り禁止」
と言われて困っていた(ちなみに俺が爆竹投げ込んだ人とは組織が違う)。
俺ら若い者の面倒を見ていた反社会的勢力の人は元石南の四つ上の人で兄の一つ上だった。
俺は小学生の時に通学班が一緒だったが四つも離れている為、ほとんど話した事はない。
兄とは仲がよかった。
その反社会的勢力の人から、悪い事がしたいならチームを作って一人月一万円払うように言われた。
そこまでダイレクトではないかもしれないが、巨漢の仁村先輩がそのように俺らに説明してきた。
月一万なら余裕だという話になり、とりあえずその場にいた巨漢の仁村先輩、マッチョの坂上先輩、おしゃべり好きの山先輩、海岸先輩、とも先輩、タイ米先輩がチームに入る事になった。
おしゃべり好きの山先輩が
「もちろん三頭脳も入るよな?」
と言ってきたのが、俺は無駄にもったいぶって
「いや、俺はいいっすよ!出てきたばっかだし!」
それを言った瞬間、みんな露骨に冷たくなり
「は?入らねえならあっち行けよ!」
と俺をのけ者にして輪を作り出した……。
「いやいや、冗談すよ!冗談!入るに決まってんじゃないすか!」
とりあえず、チーム名を決めようって事になり、俺が少年院に
「ぶっとばース」
ってチームの人がいたって言ったからか、元々有名で誰かが知ってたのかは忘れたが、それに対抗してチーム名は
「やっちまーズ」
にしようぜ!
って事になってこれに決まった。
俺はそんな単純な事でいいのかと思ったが
「やっちまーズ」
は俺的には気に入ったので反論しなかった。
チームの頭は、反社会的勢力の人の友人の四つ上の守さん、この人も石南の卒業生だった……。
この後、海岸先輩が誘った大谷中の一個上の代の頭の藤村さん、イケメンの高先輩、イカつい顔の竜、元太平中の頭の大島、俺が誘ったようじとなぜかこのチームには親友エバも参加した。
ちなみに焼きそば頭は女が出来てべったりで、俺が知る限りでは
「やっちまーズ」
には入っていない。
なぜかこのメンバー、ほとんどが金髪だったんだけど、微妙に赤みがかってたり、茶髪っぽかったり、髪質とブリーチによってこんなに色が変わってくるんだなって思ったのがすごく印象に残っている……。
この頃ゲームセンター内のスピーカーから、発売されたばかりの
「岡本真夜のtomorrow」
が流れており、俺はこの曲が好きだった……。
あまり明日を見ていない俺には、歌詞的には合っていなかったかもしれないが……。




