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底から出てもそこは底  作者: 三頭脳
一回目の少年院を出て
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五万だ!

 

 「ドドドドドドド……」

 なんか、アメリカンな音がすると思って窓の外を見ると、イケメンの高さんがスティードに乗ってやってきた。

 俺は外に出ていって

 「お疲れっす!どうしたんですか?(そのバイク)」

 

 「いや、出てきたって聞いたから来てやったよ!」

 俺はバイクの事を聞いたつもりだったけど、まあいいやって思って、少し話をした。

 イケメンの高さんはいつの間にか免許もバイクも持っていた。


 その後、焼きそば頭が後輩の河童先輩の弟と俵と共にやってきた。

 河童先輩の弟が俺と会うなり

 「祭りの時はT先輩(茶坊主の事)に止めるように頼まれたんですよ!」

 と言ってきた。

 そんな事は分かっていたけど、気にしてたんだなって思って

 「分かってるよ!」

 と言っといた。

 少し話して、履くかどうかは分からないが、俵に俺が持ってるボンタンを全てあげた。

 十本くらいあったと思う。

 沢山あったけど、別に俵一人にあげたつもりではなく、みんなで履けよ!って意味だったが、俵がどうとったかは分からない……。

 「ありがとうございます!」

 と笑顔だったが、俺はこんなに沢山いきなりもらっても置場所に困るだろうな!

 って思った。

 学ランは、セミ短と例のデカい短ランが二つちょうどあったのだが、苦労して手にいれたので、なんとなくまだあげたくなかったから渡さなかった……。

 セミ短と言えば、不思議な事があって、捕まる前には銀のボタンが五個絶対に付いていたはずなのに、なぜか少年院から出てきたらボタンが全てなくなっていたのだ。

 俺は不思議で仕方なかったが、不思議過ぎて怪奇現象かもしれないので、親にも恐くて聞けなかった……。


 親友エバに会いに行くと、挨拶よりも先に

 「なんだ、おまえ!その格好は!やめろやめろ!もうヤンキーの時代は終わったんだ!リーゼントももうやめろ!」

 と言われた。

 「だってこれ(ヤンキー服)しか持ってないし!」


 「買いに行くぞ!」

 と言われた。

 エバと高校が一緒で、最近エバとツルんでるというヨウジという俺の同級生も誘った。

 ヨウジはヤンキー化しそうな奴だったのだが、俺が中学二年生の時に理由は忘れたけどキレて蹴っ飛ばして以来、ずっと疎遠だった。

 捕まる少し前くらいに謝ってきたので、和解はしていた。

 ヨウジは百七十五センチくらいあって体格もいいのだが、気が弱いというか、優しすぎるところがあり、ヤンキーには向いていなかった。


 日曜日に三人で、電車に乗って池袋まで服を買いに行った。

 その際、俺は上尾駅が自動改札になっていた事に驚いた。

 FILAとかカールカナイが流行ってるらしいが、俺はクロスカラーズのハーフパンツの色が濃い赤紫色でカッコいいと思ったのでそれを買った。

 これから夏なので、主にハーフパンツとTシャツばかり買った。

 Tシャツは、どこのメーカーかは忘れたが、首吊り自殺してる絵がプリントされてる物を一番気に入った。

 親に言えば服代なら出してくれただろうが、金なら家に隠し持っていたのだ。

 付き合ってくれたお礼に、ご飯を二人におごってあげた。


 フスマ軍団の一人に連絡を取って、俺の金の五万円の内、一万円を使った元大谷中の頭に連絡してもらった。

 使い込んだのは一万円だが三万円にして返すのと、これから会いに行くから指定した場所に来るように伝えてもらった。


 指定した場所に行くと、元大谷中の頭はすでにいた。

 なんか顔を見た瞬間ムカついたので、片手をパーにして

 「五万だ!」

 と言うと

 「五万?分かった!」

 とあっさり了承した。

 この男はこの後、一回では厳しいからと二回に分けて払ってきたが、きっちり五万円ちゃんと払ってきた。

 これで一応元は取ったので、太平中の頭の大島に四万円返してもらえば、逆に儲かる事になる。


 

 イカつい顔の竜を呼んで、例の元野球部の曽明の家放火計画を相談した。

 てっきり手伝ってくれるかと思っていたら


 「え?絶対やめた方がいいよ!だってそれって死んじゃうじゃん!」


 「そうかもしれないけど、バレなきゃ平気でしょ?」


 「いや、絶対にバレるからやめた方がいいよ!」


 と、まさかの竜が至極まともな事を言い出した。


 「それに放火殺人って罪が重いよ!」

 と言われ、なんだか急にやる気がなくなったのでやめる事にした。

 復讐したかったけど、他には何も思い付かなかったのだ。

 


 団地内を歩いていると、元吹奏楽部のボコボコの彼女の直子(後で聞いたらこの時にはもう別れていたらしいが……)が

 「お〜い!三頭脳!」

 と遠くから声を掛けてきた。

 俺はその時、ある予感がした。

 例えとしてあってるか微妙だが、車で走っていたら車道にボールが転がって来たので、次は子供が飛び出して来るような、そんな感じの予感がしたのだ。

 つまり、黄色が現れる予感がしたのだ。

 走ってきた直子に対して、遅れてゆっくり歩いてやっぱり現れた。

 黄色との再会を果たした。

 嬉しかった。

 黄色も喜んでくれた。

 もう時間も経ってるし焼きそば頭も許してくれるだろう……。

 俺は仕事を見つけて落ち着いたら黄色に告白するつもりでいた……。




 高校も行けなかったので、求人募集のチラシから仕事を探した。

 体力には自信があったので、体力を使う仕事を選んだ。

 ただ俺はまだ十五歳だから、原付の免許も取れないので、自転車で行ける距離か送迎ありの仕事じゃないと厳しいと思った。

 目に止まったのは、建築現場の足場の解体の仕事だった。

 解体は面白そうだし、上尾市内なら送迎ありと書かれていたので、ここに応募する事に決めた。

 辛かった少年院生活を送ってきた俺なら続けられると思った。

 電話すると、その日の内に上尾市内のファミレスまで社長が来てくれた。

 社長はまだ二、三十代で若くてイカつくカッコいい、少しヤンキーチックな人だった。

 即採用になり、その日が何曜日かは忘れたが、次の月曜日から働く事になった。

 迎えに来て欲しい場所を聞かれたので、俺が住む団地の前のコンビニ(以前にフスマと元野球部の曽明にお好み焼きパーティーに誘われた場所)の前にしてもらった。

 「金髪にしても大丈夫ですか?」


 「ああ、ヘルメット被るから髪の色は自由でいいよ!ロン毛は駄目だけど……」


 「分かりました!」

 俺は中学三年生の時は劇団スクールに通っていた為に金髪に出来なかったから、ずっと金髪にしたかったのだ。

 ちなみに、休校にしてもらっていた劇団スクールは結局やめてしまった。

 

 あれ?ヘルメットするならロン毛でも別にいいんじゃないか?

 と思ったが、きっとこの社長がロン毛が嫌いなだけなんだろう……。

 「月曜日、朝四時半にスカイラインに乗ってる奴が迎えに行くからよろしく!」


 「はい!分かりました!」

 え?四時半?早っ……。

 

 俺は次の日、美容院で金髪にしてもらったので、すごくきれいな金髪になった。

 やっぱり当たり前だが、自分でやるより全然ムラがなかった。

 


 月曜日、四時に起きて作業着等を着てからコンビニに向かった。

 コンビニの近くに、黒いスカイラインが停まっていたので近付いていくと

 「ガチャッ」

 と運転席の人が降りてきた。

 社長がヤンキーチックな人だったので、てっきりイカつい人を想像していたが、いたって普通の人だった。

 「今日からよろしくお願いします」

 と声を掛けると

 「こちらこそよろしく!」

 と感じも悪くなかった。


 俺が後ろに乗り

 「とりあえず、浦和に行くから!」

 と運転席の人が言うと、ものすごいスピードで走り出した。

 

 途中でもう一人拾ったが、その人も太ってるが真面目そうな人だった。


 浦和に着くと、親方っぽい人に紹介させられたので挨拶した。


 浦和で六、七人合流すると、ワゴン車に乗って今度は千葉の方へ向かった。

 運転手と助手席以外の人はみんな寝ていたので、俺も真似して目をつぶった。


 七時半前くらいに現場に着いたが、まだ早いようで誰も車から降りなかった。

 八時五分前くらいにようやく、のそのそとみんな起き出したので俺も真似して車から降りた。

 俺を迎えに来てくれた人から仕事道具を受けとると、朝礼の場所に行った。

 ざっと百人はいそうな大きな現場だった。

 ラジオ体操して現場の責任者の人が話をして仕事開始となった。

 仕事内容は、ベテランが解体していった鉄パイプを運んだり、金具を袋に入れてったりして単純作業だったので楽しかった。

 体力的にも全然余裕だった。

 昼休憩はもちろん、その他に十時と十五時に休憩があり、その内の四、五人が賭け花札をしていた。

 

 ただ、俺を迎えに来てくれた人が二重人格かってくらい仕事中はすぐぶちキレる人で、その人が入れてる袋に金具を入れようとしたら

 「そっちにも袋あるだろうが!」

 とか、しょっちゅう怒鳴られた。

 初めての仕事だったので、仕事って金をもらうからこういうもんなんだろうなって思って、気にしなかった。



 仕事が終わって、浦和に寄ってから家に帰ると、八時をまわっていた。

 俺はさすがにこれは無理だと思った。

 日曜日しか休みがないし、少年院よりきついと思った。

 仕事内容が楽しかっただけに残念だが、二週間でやめてしまった。


 二週間の間、朝コンビニに行くと、俺の記念すべき初めての彼女の理美の母親がそこのコンビニ店員だったようで

 「おはよう!ご苦労様!」

 と毎日声を掛けてきた。

 理美とあのまま付き合っていたら、この仕事をやめる事は出来なかっただろう……。

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