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底から出てもそこは底  作者: 三頭脳
中学一年生まで
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警察の世話になる②

 

 二度目に警察の世話になったのは夏の真っ只中、上尾市内にある水上公園での出来事だった。

 俺は、俺と同じ大石南中に通う、一つ年上の小太りの江林先輩という先輩と水上公園で置き引きを毎日のようにしていた。


 大石南中の俺の一つ上の学年には二つの不良グループが存在していた。

 一つは兄が面倒みている例の三人(巨漢の仁村、イケメンの高、おしゃべり好きの山先輩)を中心とした七人くらいのメンバーだ。


 もう一つのグループはサッカー部を中心とした、巨体(トドと陰では言われていた)のリーダーのトドとナンバー二の筋肉マッチョの坂上のコンビ、さらにナンバー三、四の双子の橋本兄弟をを中心とした十人くらいのグループだった。

 俺はこのトドと坂上コンビが苦手だった。

 入学早々呼び出されてリーダーのトドにぶっとばされ、それ以来俺を見かける度にこの二人は何かと因縁をつけてくるからだ。

 だがこの二人のイケイケな性格は好きだったので苦手ではあったが嫌いではなかった。


 この二つのグループはとても仲が悪かった。

 一年の頃は仲がよかったらしいのだが揉めて二つに分離したらしい。

 詳しい事は知らない。


 これは俺の勝手な考えだが、この二つのグループがもし一体化していたなら、俺の代と一個下も影響を受けて数多くのヤンキーが、誕生していたと思っている。


 小太りの江林先輩も不良だがどちらのグループにも属していなかった。

 この先輩、俺が小学六年生の時、下校中に通学路を歩いていると、たまたま通りがかり、目立つ格好をしていたので彼を見ていたら

 「何、見てんだ!てめぇ!!」

 といきなり殴られた。

 兄に殴られ慣れているはずの俺でもかなり痛く、今まで経験した事のない重いパンチだった。

 そのパンチの痛さにより、中学に行ったらこんな人達にしょっちゅういじめられるんじゃないかと思わされ、精神的にも効いていた。


 小学校の卒業間近、兄から

 「俺の後輩で巨体のデブがいるから仲良くしろよ」

 と言われた時、俺はてっきりこの小太りの江林先輩の事だと思っていた。

 入学して巨体の仁村先輩を見た時は驚愕した。

 まるで関取みたいな体格だ。

 これにより、普通ならデカいはずの江林先輩は小太りの江林先輩(勝手な俺の中の話だが)に降格したのだ……。


 中学生になり団地内の商店街のテレビゲームで遊んでいると突然江林先輩が現れたので

 やばい、またやられる!

 と思ったのだが、にこやかな顔で

 「おまえ、三頭脳さんの弟何だって?」

 と話しかけてきた。

 「そうですけど」

 と言うと

 「やっぱりそうか!俺、江林っていうんだ、仲良くしようぜ、よろしくな!!」

 と握手を求めてきた。

 俺を殴った事はどうやら全く覚えていないようだが、その時の恨みよりも、いじめられると思っていたこの男からまさかの友達申請があった事の嬉しさの方が上だったので快く握手した。

 と同時にそれなら殴られた時に名乗っとけばよかったと少し思った。


 どうやら小太りの江林先輩は兄に憧れているようで、「武丸みたいな頭をした人が校門の所で先生二人を殴ってさぁ……」

 と兄について楽しそうに話し出した。

 もちろん弟だからほとんど知っている内容だったが、後輩から見た兄という角度は新鮮で聞いてて面白かった……。


 それからというもの、俺はこの小太りの江林先輩とツルむようになり、先輩後輩の関係でありながら敬語も使わない親友となり、エバと呼ぶようになっていった……。


 小太りのエバはなかなかひどい男だった。

 商店街で格闘ゲームをしている中学生を見かけると

 「一回やらせてくれ」

 と言って話しかけた。

 格闘ゲームは二回勝つと次のステージに行けるが二回負けるとゲームオーバーになる。

 逆に言えば一回は負けても大丈夫なので、小太りでコワモテのエバに言われると、渋々ではあるがほとんどがやらしてくれた。

 だが一回終わっても返したのを俺は見た事がなかった。

 当然一回終われば返してくれると思っていた彼らは文句を言う。

 だがエバが

 「うるせんだよ」

 と脅すとほとんどはビビって諦める。

 たまにしつこいヤツがいると、リアル格闘ゲームが始まりエバはぶん殴った。

 俺はエバのパンチの痛さを知っていたので

 可哀想に……と同情した。

 殴られて諦めて帰るヤツ、半べそかきながら少し離れた所から恨めしそうにずっと見ているヤツなどさまざまだった。


 そんな小太りのエバと市内の水上公園に遊びに行った時に、まわりに置いてあるたくさんの荷物を見て俺は思い付いた。

 「財布を盗もうぜ」

 とエバに持ちかけると

「いいけど作戦を練ろうぜ」

 暴力的なエバだが盗みには慎重なようで、プールで泳ぎながら各々考えた。


 しばらく考えた結果、俺はいい方法を思い付いた。

「帰る時に近くに置いてあるバッグごと持って帰るってのはどうだ?」

「なるほど、それはいいな!」

  とエバも了承してくれた。


 俺達は荷物を持って移動しながら狙い目を探した。

 男子高校生っぽい三人組がいるベンチの横のスペースが空いてるのを確認すると、そこに荷物を置いてすぐに泳ぎに出た。

 なるべくターゲットに印象を持たれたくなかったからだ。


 荷物が見える位置で泳いでいると、しばらくして三人組は泳ぎへと出掛けた。

 中央の流れるプールに入っていったのでラッキーだと思った。

 そのまま流れて行ってくれれば完全に姿が見えなくなるからだ。

 見えなくなったのを確認すると、俺達は荷物の場所に戻り自分の荷物を持った後、自然な流れで三人組のバッグを一つずつ取った。

 一瞬、バッグは三つあるので俺だけ二つ取ろうかとも思ったが、さすがに三つ(自分のバッグをいれて)持ってるのは不自然かと思い諦めた……。


 ロッカーに荷物を預けない人は沢山いるし、浮き輪や空気いれ、弁当などさまざまな物を持ち込める所なのでバッグを二つ持ってても別に不自然ではない。

 俺達はそのまま堂々とロッカーまで行って素早く着替えると、水上公園を後にした。


 水上公園から大分離れてから盗んだ荷物の中身を見た。

 泳ぎに来ているのだから当然だが、財布以外はバスタオルとか着替えとかで金目の物は入っていなかった。

 なので財布だけ取ると適当にそこら辺に捨てた。

 考えるのはワクワクしながら財布にいくら入ってるのかという事だけで罪悪感はまるでなかった……。


 水上公園用なのか安っぽいビニール製の財布で現金以外は何もなく、中には千円札二枚と小銭が少し入っていた。

 小太りのエバの方も似たような財布だったが小銭しか入っていなく

 「なんだよ、全然入ってねぇよ」

 とガッカリしていた。


 俺達は分け前を山分けする事にしたので、一人千五百円弱ぐらいの儲けだった。

 それでも中学生の俺らにはちょっとした小遣いにはなった……。


 小銭しか入っていなかった事がよっぽど悔しかったのかエバは

 「明日もやろうぜ」

 と言ってきた。

 夏休み中で学校もないし、塾も次の日はなかったのだろう……。

 断る理由はなかったので

 「いいぜ!」

 と返した。


 それから塾以外の日は毎日のように水上公園に行き置き引きをした。

 犯行もだんだんと大胆になっていき、最後に持ち帰るだけでなく、自分の荷物を持ってターゲットの横に行き財布だけ抜き取り、自分のバッグに移しかえた。

 一日、二、三回ほど行った。

 入っていた金額はやはり二千円前後くらいがほとんどだ。

 プールに行くのにそんなに大金は持って来ないのが普通なので当然である。

 最高でも六千円代で一万円を超えた事はなかった。

 家族で来ている者達なら沢山入っているかもしれないが、だいたいそういう人達はレジャーシートで場所を作っていたり、椅子をまるごと占領しているので、そこから取ると周りから盗んでいるのがバレバレでリスクが高いのでやめておいた。


 手に入れた金はほとんど、飲み食いするかゲームセンターで使った。

 夏なので団地内の祭りがやってると、学校の友達や女子に食べ物をおごったりもした。

 その中には、俺とは違うクラスだが、明るくて面白くて目立っている(けい)という女子がいた。

 顔は舞ほど美人ではないのだが、キャラで可愛く見えるタイプだ。

 いつか話してみたいとは思っていたが、なかなか機会が得られず、話した事はなかった。

 そんな矢先、この祭りでチャンスが訪れたのだ。

 蛍は俺と同じ小学校だった女子と二人でいて、その女子が俺に話しかけてきたのだ。

 話し掛けてきた内容は俺の兄が向こうで女の人とイチャついていたという内容で、そこにはあまり興味がなかったので

 「そうなんだ……」

 と適当に相槌を打っておいた。

 話を聞いた後、俺だとビールを売ってくれないと愚痴ると、

 「それなら代わりに買ってきてあげるよ」

 と同じ小学校だった女子が言い出したので、本当かよ?

 と思いながら半信半疑でビール代を渡したら本当に買ってきてくれた……。

 俺は驚いたが、さすがは俺と違って見た目の信用度が違うんだなって思った。

 お礼に二人に千円ずつあげた。

 すると蛍は、ニコッと笑って俺に近付き、右手で俺の左肩をポンポンポンと三回叩いてきた。

 蛍とは会話は出来なかったが、喜んでくれたようだから俺はそれで満足だった……。

 だが一周回って再び蛍達に遭遇すると、さっきとは打って変わって神妙な顔をしている蛍が立っていた。

 俺が通り過ぎようとした時、

 「三頭脳君、すみませんでした」

 となぜか謝ってきた。

 俺は突然の事過ぎて、何も答える事が出来ずに通りすぎた。

 きっと、一緒にいた俺と同じ小学校だった女子が、何か勘違いして蛍に言ったのだろう……。


 置き引きの回数を重ねていくに連れ、当然のように肌が黒くなっていった……。

 そして、いつものように小太りのエバと水上公園に行ってターゲットを探していると放送が流れた。

 「最近、置き引きが多発しているので荷物から離れる時はご注意ください……」


 それを聞いた慎重派のエバは

 「もうやめとこうぜ」

 と言い出した。

 俺は

 「じゃあせっかく来たんだし、最後に一回だけやってやめようぜ」

 と提案したがエバはのってこなかった……。


 結局その日は置き引きは行わず普通に泳いで帰った。


 次の日、俺は昨日、置き引き出来なかったストレスもあって、一人で水上公園へ出掛けた。

 これで最後にしようと決めた……。


 その日はスムーズに四個の財布を盗みだし自分のバッグへと移した……。

 キリのいい所でもう一回やってやめよう

 そう思ってプールには入らずに続けてもう一個狙った。

 ターゲットを見つけ五個目の財布を取ろうとした時だった。

 制服を着た警備員がこっちに近付いてくるのが見えた。

 俺は取るのをやめてしばらくやり過ごそうと思った。

 だが嫌な予感がした……。

 こっちにまっすぐ歩いて来ているように見えたのだ。

 やばい……と思った。

 更に近付いてくると、警備員は男で歳は五十代くらいなのが分かった。

 警備員は俺を見ているので目的は俺だと確信した。


 警備員の男は俺に近付くと

 「さっきからあっちこっち行って何してんだよ!」

 と言ってきた。

 「…………」

 咄嗟に何も言い訳出来なかった俺に対し

 「ちょっとこっちに来い」

 と園内の入り口の方にある建物の二階へと連れていかれた……。

 この状況から逃げ出すのは不可能だと思って観念して抵抗しなかった。


 二階はスタッフ専用なのでもちろん来た事ないし、こんな所がある事すらも知らなかった……。


 小部屋に入ると、六人掛けの長方形のテーブルの真ん中に座らされ

 「ちょっと待ってろ」

 と言って警備員は出ていった。

 逃げるか迷ったが、決断出来なかった……。


 程なくして、警備員は戻って来ず、代わりに首から笛をぶら下げ海パン姿で上着を羽織ったプール監視員が入室してきた。

 男は二十代と見られる爽やかそうな男で、入室するなり

 「ごめんなぁ、こんな所に連れてきちゃって」

 と言いながら俺の正面に向かい合って座った。

 座るなり

 「何も悪い事してないんだろ?」

 と言ってニコっと笑った。

 つられて俺も笑顔で

 「ハイ!」

 と嘘をついた。


 このパターンはイケるかもしれないと思った。

 というのも兄から聞いた話で、兄の友達が万引きして見つかった際に、バッグの中身を見せろと言われて

 「どうぞどうぞ!」

 と自信たっぷりに言ったら見るのをやめて助かった事があったというのだ。

 もし探して何も出てこなくて大事にされたら店側としても厄介な事になるので、やめたのだと予想される。


 この時も確証はなかった……。

 だから監視員も、疑って何も出てこなかったら困るからこの態度なのだ。


 監視員が

 「ごめんなぁ、一応疑われてるからさぁ、悪いけどバッグの中を確認させてもらってもいい?何も出てこなければすぐに帰すからさぁ」

 と案の定言ってきた。

 俺はまたも笑顔で

 「はい、いいですよ」

 と言って自らバッグを差し出した。

 すると監視員は躊躇する事なく俺のバッグの中を調べ始めた……。

 俺はやばい、話がちが……と青くなっていたら、すぐに財布を五個、テーブルの上に出された。

 盗んだのは四個だが、俺自身の財布も入ってたので五個だったのだ……。


 並べられた財布を一瞥した後に

 「これはなんだ?」

 と言ってきた。

 さっきまでの爽やかな感じは消え、怒り顔になり、口調も厳しくなっていた。

 俺は二つの財布を一つずつ指差して

 「これとこれは俺の……」

 と消え行くように言った。

 もちろん片方は俺のではなかった。

 それが精一杯だった。

 空しい言い訳で何のごまかしにもならなかった……。


 監視員は立ち上がり部屋を出ていった。

 しばらくして戻ってくるなり

 「警察が来るから待ってろ!」

 と言ってきた。

 財布がこんなに出てきた上に連日の置き引き事件、見逃してくれるわけはなかった……。


 一時間もしないうちに警察が現れ、俺はパトカーで警察署へ連れてかれた……。

 この時は犬顔の黒海の姿はなかった。

 俺は二回目なので、気持ちは落ち着いており、こないだみたいな感情の高ぶりはなかった……。


 後はこないだの万引きの時と一緒だった。

 警察署に黒海がいて

 「またおまえか!こんな事ばかりしてると逮捕するからな!」

 と言われ、これは逮捕ではないのか?

 と思い、よく分かっていなかった……。


 前日までの置き引きも、かなり疑われたが俺は 「今日、初めてやった」

 と言い通した。

 なので万引きの時より日にちがかかったが証拠もないので書類送検されたのは、この日の件だけで済んだ……。


 今回は正面、斜め、真横の俺の全身の写真と指紋を取られた……。

 指紋は、黒いインクを指に付けて、一本ずつ両手の全ての指と、親指以外の四本の指を一緒に、そして指を広げて指も含めた手の平、まぁ簡単に言えば手形だ……。

 うまく写らないとしっかり写るまでやらされた……。


 取り調べが終わって両親と家に帰ると、またも父から説教された……。

 この時も暴力は振るわれなかった……。

 兄が中学生の頃はこんなもんじゃ済まなかったのに、兄が通り道を作ってくれたようで、父にも耐性が出来て知らず知らずのうちに慣れてしまったのかもしれない……。


 後日、小太りのエバに捕まった事を報告した……。

「え?まじで?」

 とかなり驚いていた。

 俺はてっきり

「だからもうやめとけ!って言ったのに、馬鹿だなぁ!!」

 と小馬鹿にされるかと思っていたが、エバは意外な事を言い出した。

「俺の事、黙っててくれてありがとうな!」

 え?そっちかよ!

 と俺は思った……。

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