表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
底から出てもそこは底  作者: 三頭脳
一回目の少年院
67/117

水府学院 その⑤ (読書感想文発表会)

 

 俺はついに一級上生(青バッチ)になった。

 一級上生になって二週間したら出院準備寮に移る事が出来るが、それより四寮で最上級生になった事に気分がよかった。

 

 他の院生より若いと言っても、最上級生は発言力や先生からの信頼が違うので、よっぽどの事がない限り逆らって来るものはいない。

 「長い物には巻かれよ」

 という事である。

 

 早く出院はしたいが、未知の世界である出院準備寮に行くのは不安もあるので、この期間が少年院生活では一番楽しい時期なのかもしれない。

 

 それと同時に、読書感想文発表会の発表する順番が俺にもまわってきていた。

 意見発表だったら、生まれつきの心臓病の事にしようと思っていたが、読書感想文発表では、まず何の本にするか選ばなければならない。

 

 俺は悩んだ挙げ句に

 「水滸伝」

 という小説にする事にした。

 理由は、俺の家にこの本の漫画があったので、内容が大体分かるからだった。


 かつて本を読むのが嫌いな院生がいて、宮沢賢治の

 「よだかの星」

 という本で発表に挑戦した人がいたが、俺はあんな短い小説で感想文五枚以上書いた事が、逆にすごいと思って感心してしまった。

 賞は二つだけあり、優秀賞が二人に最優秀賞が一人だけだった。

 この賞を取ったからといって、出院が早まるわけではないが、成績には影響するかもしれない……。

 もし

 「最優秀賞を取ったら一ヶ月早く出院出来る」

 というルールなら、いったいどれだけみんな頑張る事だろうか……。


 原稿用紙五枚以上に本の感想を書いたら、先生に内容をチェックしてもらわなければならず、許可が降りないと練習には移れない。


 許可が降りたらホールと洗面所の間にある中庭のような場所で発表者が壁に向かって練習する。

 その光景は俺はもう見慣れているが、最初は異様な光景に見えた。

 全て暗記するのがこの少年院の習わしなので、かなり練習するから、同じ四寮の院生にはほとんど内容がバレてしまっていた。

 

 俺も練習に練習を重ね、全て暗記する事が出来た。


 選んだ本があまり感動する話ではないので、俺は賞はもらえないだろうと思っていた。

 だいたいみんな、病気の本や戦争の本とか

 「お涙頂戴な内容」

 なので、俺は聴いてくれる人達の心を打てる自信がなかった。


 だけど

 「賞は狙えないだろう」

 という事が逆にリラックス出来て、本番で間違えたり忘れたりせずに発表する事が出来た。

どんなに内容がよくても、間違えたり忘れてしまえば、今までの経験上、賞には選ばれない。

 かなり練習したので、本番は思ったより緊張しなかった。


 冒頭だけは今も覚えていて

 「この本は字も細かく、上・中・下に分かれていて、とても読み切るのが大変そうに思えましたが、あえて挑戦してみようと思い、この本を選びました」

 だった。


 結果、どういうわけか優秀賞に選ばれた。

 期待していなかったので、めちゃくちゃ嬉しかった。

 

 最優秀賞に選ばれたのは


 「二十歳もっと生きたい」


 という筋ジストロフィーの少女の話を読んで発表した院生だった。

 俺が優秀賞だったからという事もあるだろうが、この時、内容で完全に負けたと認めたので憶えていたのだ。



 こうして俺は、一級上生になってから二週間が経ち、ついに出院準備寮へと移る事になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ