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底から出てもそこは底  作者: 三頭脳
一回目の少年院
61/117

初めての鑑別所 その① (しくしく……)

 

 浦和の鑑別所に護送車で連れていかれると、まず入退の手続きを行う部屋に連れていかれて、とりあえず、一旦全裸にさせられた。

 そして、おしりの穴とかは調べられなかったけど、先生(鑑別所、少年院では法務教官の事を先生と呼ぶ)から局部の竿を持ち上げるように指示された。

 それが済むと、支給された作業着みたいな紺の衣服に着替えさせられ、持ってきた物の手続きを行う。

 ほとんど持ち込めないが、洗面道具とコンタクトレンズ類(コンタクトレンズの洗浄剤等)は許可されたので、残りを預ける手続きをした。

 この手続きの仕方は、留置場に入れられた時と一緒である。

 

 手続きが済むと、三階の東側(多分)の部屋に入れられた。

 そこは個室で、三畳半くらいのスペースしかない。

 奥には格子の入った窓があり、そこに洋式のトイレがあるので、実質、生活スペースは二畳くらいだった。

 小さい洗面台と鏡も端にあった。

 とりあえず、右も左も分からないので

 「鑑別所のしおり」

 みたいな物を読み、鑑別所生活の流れを知った。

 

 俺はこれを読むまで鑑別所とは何なのか、いまいちよく分かっていなかった。

 鑑別所とはあくまでも、ここで色々な事を調査されて、起こした事件に対してどのような処分を受けるのかを鑑別される所であって、ここの生活自体は罰とはならない。

 審判の日に処分を言い渡すのは裁判官だが、ここでの生活も処分に関わってくるようだった。


 処分の一つ目が不処分、これはここまで来た以上、滅多にないが、無実が証明された場合にこの処分となる。

 

 二つ目が保護監察官処分、これは監察官の指導の下、地元の比較的社会的地位が高い人がなる(どうやってなるのかまでは知らない)保護司に月に二回くらい会いに行って生活状況を伝えなくてはならない。

 保護監察官にも二ヶ月に一度、下手すれば毎月顔を出さないといけない。(保護司もそうだが、生活態度によって回数が変わってくる)

 基本的には成人するまで続くが、真面目にやってれいば途中で終わるらしい……。


 三つ目が試験観察処分、これは在宅と委託があるらしいが、俺が知る限りでは、あまりこの処分になる人は少ないと思う。

 まず在宅の方は、自分の家に戻って生活して、半年だかの期間を終えてから再び審判を受けて、そこで処分を受ける事になる。

 委託の方は、家から離れてこの制度を受け入れている業者の元で住み込みで働いて、やはり半年だかの期間を終えて再び審判を受けるというものだ。

 俺的には社会に適応させるにはこれが一番いい方法だと思うので、制度を理解して受け入れてくれる業者が増えればいいと思っている。


 四つ目が少年院送致である。

 少年院という塀に囲まれた場所で、一定期間過ごし、社会に適応出来るように職業訓練やら講習を受けて更正する場所である。


 五つ目が検察官送致といって、成人近い容疑者が大人として裁判を受けるか、十六歳以上の者が重大な犯罪(殺人とか傷害致死とか放火とか……)を犯して、やはり大人として裁判を受ける事である。

 

 俺の知っている限りはこの五つの処分である。


 (ちなみに、俺は全ての処分を受けた事があるわけではなく、独自の見解によるものなので、多少内容が違ってるかもしれないが、そこはご理解ください……。)

 

 「鑑別所のしおりみたいなもの」

 の他に安い白い紙で作ったドリルみたいな物を渡され、そこに、日記や題名に沿った課題(「今回の事件について」とか「自分の生い立ち」といった題名)をやらなくてはならない。

 確か最後の方に漢字練習用のページが設けられていたと思う。


 それをやり終えると

 「張り絵」

 といって、A四版のサイズの画用紙に下書きしてから、折り紙をインクのないボールペンの先でちぎって、ノリでくっつけて絵を造っていくという作業を行う。


 曜日は忘れたが、週に二回は風呂に入れる。

 浴槽はギリギリ三人入れるかどうかくらいの広さで、基本的に二人ずつ入った。

 洗い場は四つか六つくらいだったと思う。

 体と頭を洗って湯船に少しだけ浸かって、合計十分くらいだったと思う……。


 あと週に一度、お菓子が買えるのだが、浦和鑑別所では

 「カンロ飴」

 「ポテトチップス(のり塩味)」

 「アーモンドチョコ」

 「かりんとう」

 の四種類だけで、買えるのはこの中の一個だけであった。

 もちろんお金を持っていなければ買えない。

 現金は持てないので、領置金という名称で鑑別所にお金を預けてあるので、毎回そこから払う手続きをしなければならない。

 

 本(漫画もあった)も一週間に一度だけ借りられ、一度に借りられるのは確か三、四冊だったと思う。

 俺は

 「人間交差点」

 という漫画が好きだったから、何巻もあるのでこれを全て借りた。



 話を戻し、最初の三階の東側の個室で初日は過ごした。

 昼ご飯は検察庁で食べたので、夕食からだった。

 メニューはほとんど覚えてないが、麦飯という物を初めて食べた。

 思っていたよりうまかった。

 別に普通のごはんと大して変わらないと思った。

 メニューで唯一憶えているのが、金曜日の夕飯は大きめの丼に入ったカレーと市販の小さいヨーグルトだけだったって事だ。

 時間が経っていてカレーに膜が張っていたのが特徴的で、味は悪くなかった……。


 あとコンビーフを薄く切って、真ん中にマヨネーズが載っていたおかずも印象的だから憶えている。

 

 夕飯を終えると(夕飯前だったかもしれない)

 「点呼」

 と呼ばれる、要はちゃんとそこにいるのか先生が確認する為の儀式である。

 

 夕方の点呼を告げる音楽は、とても鑑別所とは思えない陽気な音楽だった。(確かキューピー三分クッキングのテーマ曲)

 薄い座布団の上に正座して待ち、先生から名前を呼ばれたら

 「ハイ!」

 と返事をして、この時にシャーペンの芯とちり紙が不足していたら先生に申し出て、不足分をもらう。

 

 点呼を終えると、六時までは自由時間となり、この時にお菓子があれば食べれるし、横になってもかまわなかった。

 ラジオ(NACK5)が流れていた。

 

 俺は何となく、早く課題を終わらせたかったので、課題に取り組んでいた。

 

 その時、隣の部屋の人が窓側に向かって


 「タン!タン!」


 と舌打ちして、誰かの名前を呼んでいた。

 だけど先生にすぐ見つかり


 「おまえ!うるせえぞ!」

 

 と怒鳴られていたが、しばらくすると、また同じ事を繰り返し


 「おまえ!鑑別所なめてんのか!」


 と先生に何度も怒られていた。

 顔も見えないが俺は何なんだこの人は?

 と気合い入り過ぎを通り越えて、イカれた人だと思い、鑑別所、初日という事もあってすごい印象的だったのでよく憶えている。

 

 初日の印象的だった事がもう一つあって、どこの部屋だか知らないが


 「しくしく……」


 とずっと泣いてる奴がいたのだ。

 鑑別所まで来るような奴が泣くなよ、情けねえな!

 と思っていた。

 正直、耳障りでしょうがなかった……。


 さっきの舌打ちばかりしてうるさい人が案の定

 

 「誰だよ!泣いてる奴!うるせえよ!」


 俺は正論だとは思ったが

 どちらかと言うとうるさいのはあなたです!

 と思った。

 怒鳴られても泣き止まないし、怒鳴った人はまた先生に怒られるし、やかましくて仕方なかった。

 後々わかるが、こんな事は滅多に起きないので、鑑別所初日にしてとんでもない状況に遭遇してしまっていたのだ……。


 六時になると、日記を書かなくてはならない。

 五、六行くらいのスペースだったと思うが書き慣れてないので時間がかかった。

 日記を書き終えたら課題をやってもかまわない……。

 この時間に先生が作ったテープを放送で流される。

 ずっと

 「岡村孝子」

 などの音楽を流す先生もいれば、タメになる話を吹き込んで流す先生もいた。


 七時十五分くらい前になると布団を敷いてパジャマに着替える。

 七時五分前に布団の上に正座して黙想する。

 黙想とは目を閉じて色々と考える時間である。

 七時になると、九時までは寝てもいいし、寝ないで起きててもかまわなかった。


 暗くしたりラジオを消してもらいたければ、部屋の入り口の上の方にあるボタンを押す。


 ボタンを押すと、報知板(ほうちきばんと呼ぶ場所もあったが漢字を忘れたので報知板で統一する)と呼ばれる白い長方形のプラスチックで出来た板が飛び出る仕組みになっており

 「カン!」

 と音がするので、それに気付いて先生がやってくるし、気付かなくても通った時に白い板が出ていれば声をかけてくる。

 

 俺は課題は飽きたので漢字練習をしていた。

 

 いつの間にか、九時になり、消灯時間になった。

 消灯時間を告げる音楽が流れて(ロベルト・シューマンの子供の情景)、強制的に寝なくてはならない。

 だが俺はなぜか寝ないで漢字練習をやっていた。

 きっとキリのいい所までやりたかったのだろう……。

 すると当然、先生に

 「おまえ!何やってんだ?早く寝ろ!」

 と叱られた。

 鑑別所で寝ないで漢字練習していて怒られるってどういう事だと思い、俺は苦笑してしまった。


 その日はまだ

 「しくしく……」

 とずっと泣いてる奴がいて耳障りであまり寝れなかった……。

 

 

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