初めての留置場
これから少年院編へと突入しますが、基本的に同じ時代に同じ少年院に入ってた人が身近にいないので、僕の記憶だけが頼りになります。
大まかな事は憶えているので大体は合っていると思いますが、細かいルールや正確な時間は違っている部分があると思いますので、あらかじめご了承下さい。
それと、基本的に漫画のような暴力的なシーンは少年院、鑑別所の中ではほとんど出てきません。
みんな貴重な十代の時間を少しでも失いたくないので、一秒でも早く出たいから猫をかぶっているか、本当に更正しようとしている人間ばかりだからです。
簡単に言うと、どんなに悪い人間でも、警察署内で喧嘩をする人は、なかなかいないという事でしょう……。
それも合わせてご了承下さい……。
「本当は加藤からも被害届をもらいたかった」
と犬顔の黒海が言ってきた。
加藤とは、野球部の曽明を殴る際に止めに入ってきたデカい生徒の事である。
後はいつものように取り調べをキリのいいところまで終えると、上尾警察署内にある留置場に入れられた。
この時は一ヶ月で出れると思っていたので、そんなに落ち込んではいなかった。
野球部の曽明に対する怒りだけはあったと思う……。
特に身体検査などはなく、親が持ってきたスウェットの上下に着替えさせられた。
同じく洗面道具も親が持ってきてくれた。
基本的に財布は預けて来たので、あまり警察に預ける物はなかったが、この時に生活に必要の無い物は警察に預ける。
預けた物の詳細を警察官が記入して、俺が拇印を押せば手続きは完了だ。
後は親が持って帰るなり、そのまま預かってもらうかのどっちかである。
この時、例の刺繍入りの学ランは没収されたが、正式な手続きをしないと、警察といえども没収は出来ない。
親を説得して、廃棄の書類にサインをさせて、没収されたと後から母から聞いた。
もう諦めていたので、仕方ないと思った。
留置場の広さは全体が見えないのではっきりしないが、大きく円の形をしているようだった。
丸い円だと想定すると、半径十メートルくらいの広さだろうか?
少年が入れられる部屋は決まっていて、端から二番目の場所だった。
中は意外と広かった。
先程も供述したように、造りが円の形をしているので部屋もそれに合わせて変な形をしているから正確な広さは分からないが五畳くらいだったと思う……。
それと鉄の扉の中に小さな和式のトイレがあるだけだった。
一番端っこは女の人専用の部屋になっているようだった。
その時、二十代くらいの女の人が一人だけ留置場に入れられていて、他の部屋に入れられている大人達が、この女の人にしょっちゅう大きな声で、声をかけていた。
女の人の隣なので、俺が羨ましいと言っていたが、俺には直接話し掛けてはこなかった。
ほとんど会話の内容は憶えていないが、話の流れからその女の人が
「隣の少年は私の洗濯物が見れるよ!」
と発言した事により、俺はますます羨ましがられたので、かなり困ったのだけは憶えている。
はっきり言って女の人の下着なんて興味なかったので、本当に見れたのかも分からないし、見た記憶もない……。
基本的に取り調べ以外はやる事がないので暇だった。
誰が置いてったのか分からないが、週刊漫画の古いのが何冊かあったので、それを端から端まで全て読んで時間を潰した。
飯は三食とも、会社が頼むような弁当でいかにもランクが低く量も少なかった。
あと、プラスチックのお椀に、ほとんど具の入ってないであろう即席の味噌汁の元が、パックにされて入れられていた。
こんなん、入っててもお湯がないと飲めないじゃん!
と思って不思議だった。
後に兄から聞いたところ、声をかけないとお湯はくれないと教えてもらったが、不親切にも程があると思った。
夜九時になると就寝時間となり、部屋から出た目の前の押し入れにある布団と枕を持って部屋の中に敷いて寝る。
敷布団と掛け布団は、オレンジと緑色のストライプの柄だった。
毛布は冬の間は一枚だけ部屋に入れられるようなので、すでに室内にあったので、それを間に掛けた。
枕は真っ黒で、安いビニール革に包まれた細長い直方体の形をしていたので、固くて寝ずらかった。
当然、全ての灯りが消される事はなく、常夜灯と呼ばれる白く小さな光がずっとついているので、慣れるまで大変だったのを憶えている。
次の日、朝六時半から七時くらいに起床時間となり、起きると……俺は寝ぼけていて
あれ?え〜とここはどこだっけ?
となったが、固い枕の感触ですぐに全てを思い出した。
その時はばかりはけっこう落ち込んだが、しばらくすると、平常心を取り戻した。
部屋の鍵が開けられると、毛布以外の寝具を押し入れに片付けて、洗面所で歯磨きしたり顔を洗ったりした後、朝食まで室内で待った。
この日も朝から取り調べをを受けたが、俺一人の犯行だし、否認もしていないので、調書作成はスムーズに行き、確かその日の内に検察庁へ連れてかれた。
その際、一緒に検察庁に行く人が沢山いたので、バスの護送車で移動した。
もちろん、手錠もかけられる。
街中でたまに走ってる格子に囲まれて中が見えない車の事である。
検察庁は浦和にあった。
検察庁に着くと、何階かは忘れたが奥の小さな部屋が六個くらいあるいかにも牢屋みたいな部屋に入れられた。
そこには椅子があるだけで他には何もない。
左右三つずつの部屋に分かれており、大人と少年で部屋は分けられていた。
自分の番になって、担当の検察官の部屋に入つた。
対面した検察官に簡単な今回の事件の概要を言われて、いくつかそれについて質問されると、後は審判を行うので鑑別所に移送します、といういわゆる事務手続きみたいなものだった。
この時までに否認してたり、容疑者が複数いたりして、事件の全容がハッキリしてないと、十日拘留、最大で二十日勾留と、警察署の留置場にいる時間が長くなる……。
一旦上尾警察書に戻って、その日の内か、次の日かは忘れたけど、荷物を受け取る手続きをしてから鑑別所へと移送になった。




