警察の世話になる①
俺は学校では、野獣がいた為にそんなに悪さは出来なかったが学校以外ではそれなりに悪い事をしており一年生の時は三回、警察の世話になった。
一度目は夏の初め頃だった。
一人で塾に行く為に自転車で走っていると、おしゃべり好きの山先輩とたまたま道端で会い、ちょうど親と喧嘩して家出してきたところだと言う。
「ちょっと付き合ってくれよ!」
と言われ、特に家出する理由はなかった俺だったが面白そうなので付き合う事にした。
当然、塾もさぼった……。
俺たちはとりあえず、団地内の公園のベンチで色々と話をした。
内容は主に山先輩の親への愚痴だった。
さすがはおしゃべり好きの山先輩、話は止まらず、いつの間にか夕方になった。
腹が減ってきたので俺は
「弁当盗ってくるので待っててください」
と言って自転車に乗って近くのコンビニに向かった。
コンビニに入って店員の様子をうかがうと、ちょうどレジで買い物客の相手をしていた。
次に天井のカメラの位置を素早くチェックした。
弁当コーナーはレジから見える位置にある為か、カメラはなかった。
よし、チャンス!
と心の中で叫ぶと一直線に弁当コーナーに向かった。
弁当コーナーに行くなり適当に弁当を一つ取って縦にしてお腹に隠した。
もう一つ適当に取ったがもうお腹には入らなかったので、持っていた塾用のリュックの中のすき間に素早く入れた。
時間にして十秒くらいしか、かからなかった……。
盗みを終えるとすぐさまコンビニの外に行き、停めといた自分の自転車にまたがった。
その時だった。
コンビニから出てきた店員にあっけなく捕まった。
ちょうど自転車にまたがったところなので身動き出来ずに逃げられなかったのだ。
ちなみにレジにいた店員とは違う、うちの父より少し年上くらいに見える五十代くらいの小太りの中年男性だった。
俺は後悔した。
もちろん盗んだ事をではなかった。
自転車をコンビニから離れた場所に停めて歩いて来ていれば、このおっさんなら余裕で逃げれたのだ。
万引きは小学一年生の時に捕まって以来、捕まった事がなかったのと今回は絶対にバレてないという自信があって完全に油断した。
バックヤードに連れてかれると、盗んだ品物を出すように言われ、もうジタバタしても無駄なのですぐ出した。
何気なくこの中年男性の胸に付いている名札を見ると店長と書いてあった。
怒った様子はなく事務的で、もしかしたら見逃してくれるかもと期待したが、俺が出した二つの弁当を確認するなりすぐに警察に通報された。
通報された以上、お互いもう話す事はないので何も話さなかった。
俺に逃げられる可能性があるので店長は常に俺の近くにいた。
三十分もしない内に制服姿の警察官が三人やってきた。
「相変わらず悪さしてるのか?」
と言いながら最初にバックヤードに入ってきた犬顔の警察官だけは見覚えがあった。
小学生の頃に何度か家出して警察署で保護された時に会った事があったからだ。
見覚えのあるこの警察官と目が合った瞬間、なぜか涙が出てきた。
あふれでる涙をこらえる事が出来ず大粒の涙を流し続けた。
まだ小学校を卒業して半年も経っていない、まだまだ心は子供だったのだ。
こうして再会した犬顔の少年課の警察官黒海とは、これから長い付き合いになっていくのだった……。
警察署の取調室(ドラマでよく見る窓に格子のあるあのままの部屋)に連れてかれると、両親が呼び出されて事情聴取されて家へと帰された。
後日、何度か呼び出されて万引きした流れを俺から聴き、犬顔の黒海が調書に細かく記入していった。
それを黒海が読み上げて間違いがなければ、名前を書いて黒い朱肉を右手の人差し指の指紋の付いてる腹側に付けて名前の下に押せば終わりだった。
後はこれを家庭裁判所に書類送検されるのだが、ほとんど裁判所から呼び出される事はなかった……。
家に帰ると父に説教された。
万引きされると店側はこういった損害を被ると細かく説明されたり、盗みは癖になるからやめろなどといった内容だった。
もちろん右から左へ聞き流した。
小学生の頃のようにケツを叩かれる事はなかったのでラッキーだと思った。
一方、おしゃべり好きの山先輩は俺がいつまで経っても戻って来なかったので、おそらく捕まったんだと悟ったらしい……。
俺がどこに行くとも聞いてなかったので探しようもなく、腹も減ったし一人じゃつまらないので結局家に帰ったとの事だった……。
俺が弁当を二個盗んだ事から警察からもう一つは誰の分なのか追及され山先輩と一緒にいた事を話した。
俺が独断で今回の盗みを働いたと言い張った為(実際そうだが)山先輩は警察には呼ばれなかった。
だが学校の先生からは
「おまえがやらせたんだろ!」
と疑われたらしいので山先輩には悪い事をしたと思った……。