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底から出てもそこは底  作者: 三頭脳
中学三年生(逮捕まで)
59/117

勘弁してくださいよ!

 

 その日は、おしゃべり好きの山先輩と、元太平中のナンバー四のタイ米先輩と俺という異色の三人が揃った日だった。

 この時は、どういう理由かは解らないが、おしゃべり好きの山先輩が俺らを集めたのだ。


 山先輩は、どこから情報を手に入れたのかは知らないが、上尾市内の工場で、給料が現金支給の工場があり、今日がその給料日だから、そこの工場に勤める人間を襲って給料を奪おうと俺らに持ちかけて来たのだ……。


 正直言って俺は、タリ達に多額の金を回して金なら沢山持っていたし、捕まって鑑別所に入るのが嫌だったので、そこまで乗り気ではなかった……。

 でもタイ米先輩がやるので、俺とおしゃべり好きの山先輩はフォロー役と聞き、それならいいやと思って話に乗った。


 その工場が終わるまで待ち、俺達は一人に的を絞って、そいつをタイ米先輩に襲わせた。


 遠巻きから見ていたので、よく分からなかったが、作戦は成功した。


 後にタイ米先輩から話を聞いたところ


 「おい!おまえ!悪いが財布を落として俺は家まで帰る事が出来ない!悪いが千円くれないか!」

 とその話を聞いて、俺とは全く違うカツアゲの仕方をした事に新鮮さを感じた。


 給料日だった事もあってか、その彼は親切に千円を差し出して来たという……。

 その際に封筒が見えたので、千円札を無視して、封筒を奪い取ると


 「また稼げや!」


 と言ったらしい……。


 俺らはタイ米先輩が逃げたのだが、それを必死で追い掛ける被害者をわざと邪魔してせきどめた。


 「おぉ!ごめん、ごめん!」


 もちろん俺らなんかにかまってる場合じゃない彼はタイ米先輩を追い掛けようとしたが、俺らは


 「ちょっと待てよ!ぶつかっといて無視するのはないだろ?」


 といちゃもんつけて止めた。

 

 作戦は成功した。

 金は十八万円くらい入ってた。

 俺はほとんど何もしてないのに五万円分けてもらった。


 おしゃべり好きの山先輩と俺は、作戦が成功した事が嬉し過ぎたのか、例の刺繍入りの学ランの残り一万円をまだ払っていない事を完全に忘れていた。

 俺も棚ぼたで五万円手にいれるし、二人はもっと多い金額を手にしているのだから、無理もなかったのかもしれない……。


 俺達は駅前の大型スーパーの中にある飲食店でご飯を食べた。

 何を食べたのかは忘れたが、ギャグセンスの高いタイ米先輩がドヤ顔で

 「俺がおごっちゃる!」

 と変な顔しながら言ったので、それを見た俺達の後ろの席のおばちゃんが吹き出した事を憶えている……。


 食べ終わってタイ米先輩と別れ、俺はおしゃべり好きの山先輩に付き合ってもらい、発売されたばかりの

 「JUDY&MARYのORANGE SUNSHINE」

 というCDアルバムが欲しくて、大型スーパーのCDコーナーに行ったところ、新作は盗難防止ゲートを越えた店頭に置いてあり、それを見たおしゃべり好きの山先輩が俺に任せろ!

 と言ってきた。

 なんで、めちゃくちゃ金があるのにわざわざ盗む必要があるんだと俺でさえ思ったが、山先輩に任せた。

 彼は持っていた

 「週刊少年漫画雑誌のジャンプ」

 に俺のお目当てのCD二枚を挟んで盗んだ。


 俺はそんな盗み方もあるのかと感心した。

 バレなかった……。


 彼は二枚盗んだものの、実際はそんなに欲しくなかったのか


 「俺の分も預かっといて」


 と言って俺に渡してきた。

 さらに盗んだ原付バイクを乗ってっていいよ、

 と俺に貸してくれた。


 俺はその日の夜、通しでこのアルバムを聞いた。

 一番気に入ったのは九曲目に収録されている

 「クリスマス」

 という曲であり、もう一回聞こうかと思ったが、眠さに負けて寝てしまった。



 次の日、給食後の休み時間に学校に行くと、少ししてから担任の先生に


 「三頭脳!校門の所に警察が来てるから行って!」

 

 と言われて、思い当たる節はあり過ぎたが

 昨日の給料強奪の件が濃厚かな?

 と思って校門に向かった。

 

 その時に、他の金は家に置いてきたが、昨日もらった五万円だけ持っていたので、サッカー部の今町に財布ごと預けた。


 校門の所にはパトカーではなく、普通のセダン車でしていた犬顔の黒海が来ていた。

 俺の着ている刺繍入りの学ランを見るなり、犬顔の黒海は

 「なんだ、おまえ?その格好は学校をなめてるのか?」

 と言いつつ、なんだか嬉しそうにすら見えた。


 車に乗ってすぐ、

 「三頭脳、前々から言ってただろ?あんまり調子に乗って悪さばっかしてると逮捕するってよ、今回は逮捕するから手を出せ!」


 と言われて、俺は冗談だと思ったが手錠を出されて手にハメられた……。

 俺は生まれて初めて手錠をかけられたので、ショックがデカかった。


 上尾警察署に向かう途中、

 「おまえ、その学ラン没収するからな!」

 と言われ

 「勘弁してくださいよ!」

 と言ったが、どうやら犬顔の黒海は本気っぽかった。

 「おまえが二十歳になったら返してやるからよ!……まあ取りに来た奴はいないけどな!」

 と言われたが、俺は本当に二十歳になった時に記念に取りに行ったから、今も家にある。

 

 

 上尾警察署に着くと、犬顔の黒海は、刺繍入りの学ランを着ている俺を所長室に連れていき

 「署長、見てくださいよ!上尾にまだこんな奴がいましたよ!」

 と自慢気?

 に見せた。

 

 逮捕の罪名は、野球部の曽明への

 「全身打撲に右腕骨折」

 という重症を負わせた傷害罪だった。

 

 野球部の曽明は被害届けを取り下げていなかったのだ……。

 

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