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底から出てもそこは底  作者: 三頭脳
中学三年生(逮捕まで)
55/117

おまえは黙って見ていろ

 

 二組の美人顔の舞の所に遊びに行くと、男女四、五人でなにやら下ネタ話をしていた。

 美人顔の舞はその場にいるだけで、会話に参加してはいなかったが……。

 内容はよく憶えていないが、まあよくある。

 恋愛のABCについてだ。

 付き合って何ヵ月でキスするとか、最後まで行くのはどれくらい付き合ってからだとか、そういった話だったと思う。


 いきがっているが、実は童貞の俺はそういう話が苦手だったので、美人顔の舞の右肩を

 「ポン!」

 と軽く叩き

 「ま、いずれおまえにもその時が来るよ!」

 と言い、その相手が俺だったらいいのにな……って心の中で続けて言って、その場を去った。

 


 もうこの頃には、ほとんどの先生とも一周回って仲が良かった。

 あんなに仲の悪かった学年の生活指導の先生も、 俺の学ランの刺繍をもじって

 「人生ごめんなさい」

 じゃなくて

 「先生ごめんなさい」

 だろ!

 とか冗談を言われたりした。

 俺はうまい事言うな!

 って思った。

 もう五ヶ月もしないで卒業だし、お互い最後くらいは仲良くしたかったのかもしれない……。

 


 卒業アルバムに乗せる写真を撮るために車が来ていた。

 だが兄から

 「刺繍入りの学ランでは、きっと撮らせてくれないから直接写真屋に行って撮った方がいいぞ!」

 と言われていたので、撮らなかった。

 

 でも結局、生徒指導の先生に

 「おまえ、早く撮りに行かないと、中学二年生の時の生徒手帳の写真を写真屋に渡してあるからそれになってしまうぞ!」


 と言われ、中学二年生の時の生徒手帳の写真ってもはや、ほぼ中学一年生の写真じゃねえか!

 と思い、それだけは勘弁してくれ!

 と思った。


 続けて先生は

 「刺繍入りの学ランさえ脱げば、髪型とかは気にせず載せてやるから!」


 と言われ

 兄よ!意味ねえじゃん!

 と思った。

 


 中学二年生の時の生徒手帳の写真だけは嫌だったので、俺は焦って、その日の夕方に写真屋に電話した。すると


 「おい!おまえ、ふざけんなよ!こっちはもう写真渡されてるから、それで段取り組んじまったんだよ!ったく、面倒臭えなあ……写真差し替えなくちゃいけねえじゃねえか!……撮るなら早くしてくれよ!今日中に来なかったらもうやらねえからな!」

 と物凄い剣幕だった。

 俺はムカついたが、最近ここまで大人に怒られた事がなかったので、卒業アルバム造りってそんなに大変なのかなって思って

 「……分かったよ」

 といって刺繍入りの学ランのまま、標準の学ランを持って母にその写真屋まで軽トラックで連れていってもらう事にした。

 髪型はもちろんリーゼントにした。

 今までの中でも、なかなかの出来だった。

 ちょっと髪が長かったので、頭がデカく写らないかが心配だったが……。

 ちなみに俺はこの時勘違いしていて、別に標準じゃなくても刺繍さえ入っていなければ、イケメンの高先輩から受け継いだ(元々俺のだけど)セミ短でよかったのだ。

 後に卒業アルバムを見て、焼きそば頭が短ラン姿で載ってるのを見て、失敗したと思ったのだ。

 


 写真屋は思ったより近くて、太平中のエリアの第二団地の外周にあった。

 俺はまた怒られるのかと思って、中に入っていくと、

 二人いたスタッフは俺を見るなり相当驚いていた。


 「じゃあ、そこに立ってください」

 と、なぜかさっきとは打って変わった態度で、しかも敬語だった。

 

 俺は刺繍入りの学ランを脱ぎ、上だけ標準に着替えると、指示された場所に立った。

 普通

 「笑って」

 とか言うのに

 「じゃあ撮りますね!」

 だけ言って、二、三回撮られて終わった。


 次の日、生活指導の先生が


 「写真屋が本当にこれで載せちゃっていいんですか?と確認してきたけど、刺繍入りの学ラン脱いだから約束通り載せてやるからな!」

 と言われ、俺はほっとしたと同時にそんなにすげえ写真なのか?

 標準なのに?

 と思った。





 夕方、先輩達は市民体育館に勢揃いしていた。

 元石南の頭の巨漢の仁村先輩、イケメンの高先輩、おしゃべり好きの山先輩に変わり者の山口先輩(俺にジッポライターを盗むのを付き合わされた人)。

 それに元太平中の頭の海岸先輩にナンバー二の危ない純先輩、ナンバー三、四のとも先輩とタイ米先輩である。

 元石南と太平中の一個上の上位フルメンバーが揃うなんて滅多に……というか、初めて俺は見た。


 集まった理由は俺の親友であるエバをぶっ飛ばす為だった。

 特に一番やる気満々だったのが、変わり者の山口先輩だった。

 どうやら、今付き合っている親友エバの彼女というのが、変わり者の山口先輩の元彼女で、それが気に入らないようだ……。

 最近、俺らと仲良くなった、元太平中のナンバー三のとも先輩だけは必死で止めていた。

 団地祭りの時もそうだが、どうやらこの人は情に熱い人らしい。

 でも、彼らの決意は固く止める事は出来なかった。

 俺はなんとか親友エバにこの事を伝えたかったのだが、親友エバはポケットベルを持っていないので、伝える方法がなかったのである。

 こっそり家に電話しようかとも思ったのだが、巨漢の仁村先輩に

 「これは俺らの代の問題だからおまえは黙って見てろ!」

 と言われたから、連絡したのがバレたら俺までやられそうだったのでやめた。

 というか、俺はどっちも仲がいいので板挟み状態だった。

 それに、人の喧嘩をあまり見た事がなかったので、見てみたいという純粋な好奇心もあった。


 

 しばらくして、どのような手段で呼び出したのかは忘れたが、エバは何も知らずに、のこのこと現れた。



 変わり者の山口先輩が

  「ガス!」

 とエバの事を殴った。

 

 「てめえ、いきなり何すんだよ!」

 と怒ったエバ、やり返そうとしたが……元太平中のナンバー二の純先輩が市民体育館の案内板を持って向かってきたのに気付いて、そっちに意識を向けた。

 俺は、案内板といっても三脚で土台もついてるので、冗談かと思っていたら、それで本当にエバを殴った。


 エバはガードしたが、めちゃくちゃ痛かったからガードしなければよかったと後に語っていた。

 

 純先輩と掴み合いになり、エバがどさくさに紛れて純先輩の腹に膝蹴りを入れた。

 

 もつれて二人とも倒れこんだ所に、イケメンの高先輩がかけより


 「誰に何してんだ?てめえ!」

 と言いながら、エバの顔を蹴っ飛ばした。

 いやいや、それはあんただよ、高先輩!

 と俺はこの時ばかりは思った。


 

 そこから、しきり直して、最初の変わり者の山口先輩とエバのタイマンという事になり、場所を大谷中の校庭の隅の明かりがあるちょっとした広場に移った。


 闘いが始まると、誰が見ても圧倒的な力と技の差で、エバは変わり者の山口先輩をボコボコにぶっ飛ばした。


 変わり者の山口先輩とエバの決着がつくと、今度はおしゃべり好きの山先輩が、どこから持ってきたのか分からないが、デッキブラシをぶんぶん本気で振り回し、エバに殴りかかろうとした。

 だがエバにかわされ、デッキブラシを蹴られて、デッキブラシは吹っ飛んだ。

 おしゃべり好きの山先輩は走ってどっかに逃げて行った。


 後に彼は

 「馬鹿野郎!あそこでやられるより、走って逃げた方が面白いだろうが!」

 と言っていたが、確かに面白かった。


 おしゃべり好きの山先輩が逃げ出すのと入れ替わるように、巨漢の仁村先輩が

 「ハハハハ……」

 と笑いながらエバの顔を思いっきりぶん殴った。


 油断していたエバは二メートルくらい吹っ飛んだが倒れなかった。

 わざと吹っ飛んだのか本当に吹っ飛んだのかは分からないが、これで終わりだと、そこにいる誰もが思った空気の中、元太平中の頭の海岸先輩がエバに近より

 

 「確かにおまえは強い、だから俺とタイマン張れ!」


 と言った後、エバの顔を殴った。


 「ドガン!」

 とすごい音がして、エバは倒れた。

 倒れたエバの髪の毛を掴んで、コンクリートの地面に思いっきりエバの頭を

 「ガン!」

 とぶつけたらエバの黒目が変な方向を向いたので、意識を失った事に誰もが気付いた。


 たったの二発だった……。

 俺は今まで漫画のように人が気絶したのを見た事がなかった。

 というか、喧嘩でなかなか人は動けなくなったりしないのだ。

 中学二年生の時におしゃべり好きの山先輩が、対立グループにやられた時も、ムクッと立ち上がってどっかにすぐ消えたのだ。

 動かなくなったのは、俺が二年生の時に闘った大石中の鹿口くらいだ……。


 後にエバいわく、レンガで殴られたとの事だったが、俺はその時は確認出来なかった。

 確かにあの威力は、人の拳の所業とは思えないので本当かもしれない……。

 

 十分もしないで、意識を取り戻したエバを連れて俺達は帰った。


 その後、何があったが知らないが、とも先輩が変わり者の山口先輩をボコボコにしたと聞いたが、詳細は知らない……。


 この闘いを後に上尾の西口では


 「連続タイマン」


 と呼び

 「そこそこ」

 有名な話になった……。

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