争ってる場合じゃない
太平中のタリをぶっ飛ばして以来、フスマと野球部の曽明は、前より遥かに俺に友好的になった。
敵に回すより仲間にした方が得策だと考えたのか、純粋に俺を認めて仲良くしようと思ったのかは分からない。
だが、俺に取って二人(特に曽明)は、蛍と話すのに欠かせなかったので、歓迎だった。
蛍の前の席の生徒会長とも順調に仲良くなっていた。
俺は完全に流れは来ている、蛍と話す日は近いと思った。
だけど、そうなったらそうなったで、今度は逆に蛍と話すのが怖くなっていた。
近くに行ってドキドキするのが幸せだったからだ。
話してしまったら、この恋は終わってしまうかもしれない……。
だが、俺の複雑な気持ちとは裏腹に、さらに吉報は続いた。
フスマが俺に
「今町(動物園に一緒に行った生徒)が勘違いして、蛍に告白したらフラれた」
というのだ。
俺は色々と驚いた。
そして、サッカー部の今町には悪いが、ざまあみろ!
と思ってしまった。
なぜなら、蛍と話せるようになったと自慢してきたし、一緒に年賀状を出そうと言い出したクセに出さなかったので、ムカついていたからである。
「勘違いして」
という事がポイントだった。
何を勘違いしたのか?
つまり蛍が勘違いさせるような行動を取ったって事か?
何の為に?
サッカー部の今町に告白された事を、わざわざフスマに言った意図も気になる。
それをなぜフスマは俺に言ってきたんだ?
分からない事ばかりだった。
これ以上はフスマか生徒会長に、蛍と話したいと相談しない限り話は進まない気がした。
卒業まで五ヶ月切ってる。
俺もサッカー部の今町のように、そろそろ覚悟を決めなければいけない時期にきている。
そういう意味では、サッカー部の今町の方が俺より一つも二つも先に行ってると言えるだろう。
今分かってる確かな事は、この時かなりモテたサッカー部の今町という強力なライバルがいなくなったという事と、そんなモテるサッカー部の今町をフるなんて、蛍ってやっぱりすごいなって思った事だけだった……。
「ビ〜〜〜〜〜〜!」
家の呼び出し音がなったので、玄関のドアを開けると、そこには太平中の頭の大島が立っていた。
なんだか気まずそうな顔で、しかも怪我してるような……。
と思ってたら、見た事もないヤンキーが突然大島の後ろから現れて
「おめえが三頭脳か?この野郎!」
と言って来たので
「ああ?」
と言って睨み付けた。
すると、俺の顔を見て後ずさりして、いなくなった。
事情は知らないけど
ふざけんな!
と思ってサンダルで行こうとしたら、大島が
「サンダルでいいの?」
と止めて来たので、安全靴を出して履き替えた。
そのせいで少し遅れてしまった。
俺と大島が下に行ったら、自転車で逃げてく二人のヤンキーの後ろ姿が見えたが、もう五十メートル先くらいに行ってしまっていた。
まだ追い付ける距離だったが、とりあえず大島から事情を聞いた。
大島いわく、家にいたら急に十人くらいが家に入ってきて、ぶっ飛ばされたらしい。
そいつらは大宮の各中学の頭が集まった集団で、俺らを潰しに来たとの事。
で、その内の二人を連れてここまで来たと言うのだ。
俺は、これは今は西中と争ってる場合じゃない!
と思った。
あっちが大宮連合なら、一時休戦してこっちは上尾連合を作るべきだと考えたのだ。
なので、こないだ西中生と話したコミュニティセンターに行った。
俺は小学校がそっちの学区だけあって、うちからは近いのだ。
……だがいなかった。
仕方ないので、さすがに十人もいたら負けるだろうが、二人でやってやろうって事になって二人乗りで大島の家まで行った。
……まだいると思ったのにいなかった。
なんだよ、つまらねえ!喧嘩したかったのに!こんな事ならとりあえず、逃げた二人を捕まえればよかった!
大体、なんであの二人は逃げ出したんだよ!
俺の顔が恐かったのなら、竜の顔を見たら小便漏らすんじゃないのか?
後に分かった事だが
「三頭脳出てこい!」
だの叫んできたので、兄が自分の事だと勘違いして
「うるせんだよ!クソガキがぁ!」
と怒鳴ったから逃げたらしい……。
そうか……。
なんて事してくれたんだよ、兄……。
というか
何で二人で来たんだよ?
全員で来いよ、という話であった……。
その後、大島の母ちゃんに
「三頭脳、一人で突っ走るんじゃないよ!」
と言われて、なんか漫画みたいだなって思った。
結局、これ以降、そいつらが襲撃してくる事はなかった……。
それと大島よ、おまえには言ってなかったが、大宮連合なるもんが来たのは、きっと俺が宮原中に乗り込んだからだろう……。
すまない……。