ピンク頭とモヒカン(前編)
十月になり、衣替えで学ランになった。
おしゃべり好きの山先輩にあと一万円渡さなければ、刺繍入りの学ランが手に入らない……。
と思っていたら、山先輩がそれから一週間くらいして、品物だけ持ってきてくれた。
「とりあえず、仕方ないから俺が残りの一万円は立て替えてやったから早く払えよ!」
清水川さんだと早くしないとと思っていたが、正直、山先輩なら気楽だった。
「分かりました!」
と一応言っといた。
刺繍入りの学ランは、めちゃくちゃカッコよかった。
胸に赤く
「人生ごめんなさい」
左腕に金で
「男の花道飾ります」
右腕に同じく金で
「菊紋の刺繍と喧嘩上等」
右足に銀で
「青春街道恋桜」
と桜が四、五枚舞っていた。
これはよく意味が分からなかったが、蛍に恋している俺にはピッタリだった。
「人生ごめんなさい」
は正直微妙だったけど、文字を気にしないと、色のバランスがよく取れててカッコよかった。
ちなみに、記念にこの学ランは今も持っている。
さっそく次の日、俺はこれを着ていった。
もちろん、学ラン負けしてしまうので、髪型もバッチリリーゼントに決めていった。
この頃は
「幽遊白書」
や
「スラムダンク」
と言った人気アニメの主人公がリーゼントだった事もあってか、中学校ではリーゼントは許容されていた。
俺は前髪だけ茶髪の
「カメレオンの相沢」
というキャラクターの髪型をモデルにしていた。
授業中に行ったら、俺と闘ったテニスの顧問が授業をしていた。
この格好でも何も言ってこなかった。
というより、三年生になった時に
「どんな格好してきてもかまわない」
と統括の生活指導の先生にお墨付きをもらってるので平気だった。
クラスのみんなはびっくりしていた。
当たり前である。
授業が終わると、一番窓際の後ろの康恵に呼ばれて、俺は女子五、六人に囲まれて学ランを見せていた。
四組のベランダから蛍が見に来たのを、俺は視界の隅に捉えていた。
もちろん、直視はしてないが、シルエットですぐ分かった。
一分くらい見たら蛍は戻って行った。
違う用で来たのか、これを見に来たのか、それによって大きく変わってくるが、それは分からない……。
蛍がいなくなったので、俺はプイッとその場を離れて四組に行ったが、蛍はいなかった。
見る奴、見る奴、全員驚いていたので爽快だった。
例えると、みんなが
「ドラゴンボールのサイヤ人」
だとして、こないだまで俺と焼きそば頭だけ
「超サイヤ人」
だったのに、今はさらに進化して
「超サイヤ人2」
になったような気分だった(見た目だけの話で強さは変わらないけど)。
適当に歩いていると、二年生の時に俺をフッた聖美が俺の学ランを見に来た。
俺は聖美と目が合い、どうだ聖美!おまえの嫌いな不良もここまで来たら大したもんだろ!
と心の中で叫んだから、実際には数秒見つめあっていただけだった。
俺は
「フフッ……」
と笑って聖美から去った。
俺はこの時、聖美にはもう何もトキメキを感じてない事に気付いた。
二年生の時に、大宮に一緒にセミ短と短ランを盗みに行った、バンダナの本山先輩んちに遊びに来ていた。
彼は大石中から引っ越して、上尾の東口の上尾中学校へ転校しており、水上公園の近くに住んでいた。
上尾中学校で知り合ったと見られる、元々上尾中学校の人も本山先輩の家に遊びに来ていた。
俺の格好を見て
「気合い入ってるね!」
という話から始まり
「でも宮原中はもっと気合い入ってるよ!」
と言われた。
宮原というのは、上尾市ではなく、隣の大宮市なのだが、俺の勝手なイメージで申し訳ないが、上尾と大宮の間に宮原駅があるせいか、大宮とは別個のイメージが強かった。
ふ〜ん、そうなんだ……、
上尾じゃないし、別にいいや!
って思っていると
「どうやら、ピンク頭とモヒカンがいるらしいよ」
と言われ、これには驚き
「え?まじですか?」
と急にかなりの興味が湧いた。
そんな気合い入った奴らがいるのか……。
次の日、俺は例の刺繍入りの学ランにリーゼントスタイルで、自転車に乗って宮原中に一人で向かった。
上尾よりとはいえ、宮原中は遠かった。
しかも、財布を忘れて一円も持っていなかったので、喉か渇いて仕方がなかった。
その上、勢いで来たものの、宮原中の正確な場所を知らなかった。
仕方ないので、宮原エリアに入ったところで、コンビニのおばちゃんに聞いた。
「あら?あなた、そんな格好してるからてっきり宮原中の生徒かと思ったわよ!宮原中はね……」
と親切に教えてくれたので、お礼を言った。
本当はジュースも買いたかったが……。
このおばちゃんの言葉から察するに、少なくとも俺と同等以上の格好をしていると思われた。
宮原中は国道十六号と十七号が、ちょうど分かれる所ら辺にあり、俺はこんな所は嫌だなって思った。
田舎だが、俺の通う石南の方が近くに遊べる所が沢山あっていいと思った。
だが、宮原中の女子の制服は石南より俺好みだった。
まだ十月になったばかりなので、上着は着ていなかったが、上下グレーの制服で可愛いと思った。
美人顔の舞が着たら、さぞ似合うだろうなって思った。
この時はなぜか蛍や黄色ではなく、舞に着せてみたいと思った。
すぐ隣にコンビニがあるので、その点は羨ましいなって思った。
コンビニ前に男子生徒がいたので
「おい!おまえら何年生だ?」
「あっ(俺の格好を見て驚いた様子)、一年です」
「この中学にピンク頭とモヒカンってのがいるらしいじゃねえか?ちょっとそいつらについて教えてくれないか?」
「それでしたら、詳しい奴がいるので連れてきますよ」
その一年生は、そう言うと走って去っていった。
しばらくすると、本当に一人連れて戻ってきた。
二人の容姿は何も憶えていない。
連れてこられた方の一人が挨拶してきた後
「今日は両方とも学校に来てなくて、モヒカンの方はおそらく宮原駅前のゲームセンターにいると思います。」
「ピンク頭の方は?」
「はい、ちなみにピンク頭ではなく赤い色でこっちはわかりません、すみません」
「そうなんだ……ごめん、悪いけど遠くから来たから喉乾いちゃって、金持ってたらジュースだけおごってくれないか?」
俺の中では、一年生にたかるのは気が引けたが、喉が渇き過ぎてて仕方なかった。
その一年生は五百円玉を渡してきたので、隣のコンビニで、キリンレモンセレクトを買った。
お礼を言ってお釣りを返した時、その一年生は変な反応を示した。
それが何だったのかは分からないが、五百円玉で買った為、消費税のせいで細かくなってしまった事に嘆いたか、純粋にお釣りを返して来た事に驚いたのか、どっちかだと思った。
キリンレモンセレクトをこんなにうまいと感じた事はなかった。
それにしてもピンクではなく、赤だったという事にガッカリしていた。
今思えば、赤でも十分すごいのだが……。
その帰り道、国道十七号沿いの歩道で、高校生をカツアゲして、三千円ほど手にいれた。
行きにやってれば、逆にお礼にジュースくらい奢れたのに……と反省した。
そして、刺繍入りの学ランを着て、十七号沿いで高校生をカツアゲしている自分は、なんてカッコいいんだと、自分に酔いしれた。
その日の内に、俺は懲りずにまた原付バイクを盗んだ。
さらに次の日、俺は四中のスペシャルヤンキー女を連れて、宮原駅へと向かった……。
このドヤンキーの俺が、スペシャルヤンキー女と言うのだから、かなりのヤンキーだという事が想像してもらえると思う。
このスペシャルヤンキー女、三年生になって、大宮から引っ越して来たのだが、背が高く、元々老けてる上にヤンキー化粧に金髪、みんなから
「保護者」
と言われており、前述した
「ドラゴンボール」
で例えると
「超サイヤ人3」
に達してると俺は勝手に思っていた。
なので俺も出来るだけ対抗する為に、この日は学ランではなく、ド派手なヤンキーの私服にヘアマニキュアで、前髪だけ緑色にした。
俺の元彼女の早紀と一緒に、俺に団地まで会いに来たもう一人の女子からコンタクトがあって、紹介してくれたのだ。
宮原駅前に原付バイクを停めると、ビルに何階かに分かれたゲームセンターがあったので、きっとここだと思って二人で向かった。
確かにそこには五人くらいのヤンキー達がいたのだが、俺が連れて来たスペシャルヤンキー女が、声を掛けようと近寄っていったら、みんな逃げて行ってしまった。
その中に、モヒカンというより、ツーブロックをすごく高くしたような髪型の奴が一人いて、きっとこいつの事だと思って、かなりガッカリした。
この数年後に流行る
「ソフトモヒカン」
にも届いていなかった。
外に出ると、まだ遠巻きにさっきの五人くらいのヤンキー達がいたのだが、俺はもう興味を失っていた。
スペシャルヤンキー女も
「あんな根性なし、放っとこうよ!」
と言うので無視して原付バイクで帰った。
後日、俺に情報をくれた上尾中学校の人から話を聞くと、俺ら二人の事を
「大宮の予科練かと思って逃げた」
と言っていた。
「予科練」
というのは、当時大宮にあった暴走族の事で、見た事はないが、聞いた事はあった。
続けて
「同盟を組みたい」
と伝えて来たが、俺はもう興味がなかった……。
ちなみに、この時からスペシャルヤンキー女に気に入られて、しょっちゅう連絡があり、夜中とかも気にしないので俺は困っていた。
それに太平中の頭の大島の元彼女だし、手を出す事も出来ないし、そもそも俺はヤンキーだが、ヤンキー女は恋愛対象になかったのだ。
なので苦肉の策として、次会いに行った時、髪を下ろして、GジャンGパン姿という今まで一度もした事のない格好をして行った。
スペシャルヤンキー女は
「何その格好?ダサいから一緒に歩きたくない!」
と去っていった。
作戦は成功したけど、その言葉は俺の胸に
「グサッ」
と刺さって大いに傷付いた。