根性焼きを見られて
黄色とは、どんどん仲良くなっていた。
家に電話して話すまでになっていたので、いつの間にか、黄色を好きになってしまっていた。
話していると話も尽きないし楽しい。
この子と付き合ったら、きっとうまく行くと思って、
「俺と付き合って欲しい」
とつい言ってしまった。
だけど、最初の俺の彼女の理美みたいに考える時間が欲しいだろうと思い、黄色が答える前に
「明日までに考えといて!」
と言って電話を切った。
でも俺はそれから一週間くらい学校に行かなかった。
イライラしていた……。
俺専用(違うが)のテトリスが座られているのだ。
二十歳前後の奴だった。
ああ、違う!下手くそ!……早く退いて欲しいのに、矛盾した事を考えていた。
やっと終わった時には
「下手くそがよ!」
とわざと聞こえるように言ってやった。
店側からすると困った客である。
やはり黄色とは付き合えないな……。
いや、付き合いたいけど、今、黄色と付き合えば焼きそば頭はきっと怒るだろう……。
そうしたら、今度こそチーム「ブラッツ」は解散になる……。
それにやっぱり蛍と話をしてみたい。
きっと黄色と付き合えば、うまく行くので、このまま卒業まで別れる事はない。
そしたら蛍と話す機会は永遠になくなるだろう……。
この頃
「電影少女」
という漫画を全巻読破しており、この本には
「愛と恋」
の違いがはっきり明記されていたので、勉強になった。
きっと俺は蛍に恋をしている……。
これに決着を付けなければ、黄色にも悪い気がする……。
どうにか話し掛けてみよう。
話し掛ければ、何もかもが分かるはずだ。
嫌悪感を示してきたら、それこそ諦めがつくし……。
俺は決めた。
黄色とはまだ付き合わない……。
フラれるかもしれないけど……
とりあえず、蛍に話し掛けてみるしかない。
「学校に来て!」
黄色からの伝言だった。
誰だか忘れたけど、たぶん直子かボコボコだと思う。
学校に来てって事は、返事はOKって事だ。
わざわざ、フる為に呼ぶ奴はいないだろう(たぶん)……。
黄色に安易に告白して申し訳ないと思った。
その日、いったいどういう心境でそうしたのかは自分でも分からない、黄色と付き合いたいが付き合えないジレンマがそうさせたのかもしれない……。
俺は左の腕にタバコの火を三十五ヶ所押し付けて火傷させた。
いわゆる根性焼きってヤツだ。
二つ、腕と平行に押し、隣に三つ、さらに隣に二つ、と交互に押し付けて、グルっと腕を一周させたのだ。
当然、今もその跡は残っている。
次の日、学校に行ったが、着くなり直子に
「あれはなかった事にしてって黄色に言っといて」
と伝えてもらった。
俺はすごく悲しかった……。
黄色ごめん……。
でも黄色に会ったら全然普通で、
「元気そうでよかった……」
と言ってくれたから泣きそうになった。
蛍のいる四組の前の廊下で、男友達に腕をまくって根性焼きを見せていた。
もう水ぶくれになっている場所も沢山あって、はっきりいって三十五ヶ所もあるとグロテスクだった。
その時、誰よりもすごい反応を示した人間がいたのだ。
蛍だった。
蛍が廊下にいる事に俺は全く気が付かなかった。
「なんて事を!」
と顔に書いてあり、ものすごく悲しそうな顔で俺の左腕を見つめていた。
あまりに俺の腕を見つめているせいで、俺が蛍の顔をずっと見ている事にも気付いていなかった。
さすがに蛍には見られたくなかったので、すぐに腕をしまってその場を去った。
俺は混乱していた……。
なんだ?今のは?
俺が二年生の時に聖美にフラれて以来、初めて俺に見せた蛍の感情だった……。
よく分からないが、嬉しかった。
根性焼きをしてよかったとさえ思えた。
なぜなら、嫌いな人間にあんな顔は絶対にしない。
蛍は、俺の事を嫌っていないと確信したから嬉しかったのだ。
次の日から俺はあからさまに動いた。
四組のボコボコに毎日会いに行った。
ボコボコの席は俺と全く同じ場所で、廊下側の後ろから二番目だった。
ボコボコの隣が生徒会長だから、俺は話す事が出来る。
生徒会長の後ろが蛍だったのだ。
しかし、運命のいたずらは止まらない。
肝心要の蛍の隣でボコボコの後ろが俺の嫌いな野球部の曽明だった。
ボコボコは、生徒会長と蛍と仲がいいわけではないので、ここはどうしても、この二人と仲のいい野球部の曽明の方が要になっていたのだ。
俺は蛍と話す為ならと、野球部の曽明に
「曽明よ!俺はこれからおまえと仲良くする事に決めたから仲良くしようぜ!」
と握手を求めた。
これに曽明は、何の前触れもなくそんな事を言われたからびっくりしていたが
「こちらこそ、よろしく頼むよ!」
と返してきた。
俺はこの時ばかりは、作戦が成功したのが嬉しくて、この曽明と握手した手を、無駄にいつまでも離さなかった……。
これで、蛍を囲む三人にいつでも近付けるようになったのだ……。
もちろん、蛍と生徒会長もこれを見ていた。




