別にやってもかまわない……
俺は久しぶりに親友エバとツルみ、駅前に繰り出した。
親友エバはすっかり垢抜けて、太っていたから余った皮があったのに、身長が伸びたのでなくなったと自慢していた。
確かにもう太っていた面影はなく、少しカッコよくなっていた。
あと一万円稼ぐためにカツアゲに誘ったのだ。
親友エバが、高校で知り合ったきくりんという人もついてきた。
彼は浦和の大谷場中学校という漫画に出てきそうな名前の中学校の出身だった。
後に彼が通っていた中学校の卒業アルバムを見せてもらうと、七、八人の気合いの入ったヤンキーが写っており
浦和も気合いが入ってんだな!
と思った。
駅前を歩いていると、石南の一個下の男子が五人くらいで歩いていた。
俺は一個下の男子とは、ほとんど話した事がなく、目立つ奴は、そろそろ片っ端からぶっ飛ばしてやろうと思っていた(出方次第だが……)。
駅前を歩いていた五人は、俺が目をつけていた奴ばかりだった。
一個下にはもう一人、一番気に入らない奴がいたのだが、それは例の一個上の対立グループのトド先輩の弟だ。
トド先輩そっくりで、肩を切って歩く姿が鼻に付いており、いつか必ずぶっ飛ばしてやろうと思っていた。
だがこないだ親友エバが、駅前でたまたまトド先輩の弟に会い、話しかけたら生意気な態度だったらしく、ぶっ飛ばしたらしい。
そして、警察に被害届を出されて面倒だったとの事。
つまり、俺がやったわけではないので不本意だが、後はこの五人さえやれば一個下はシめたと言えよう。
ラーメン屋の息子の岩田、無愛想な顔をしているので、俺はこの中ではこいつが一番嫌いだった。
陸上部の恭平、こいつは骨太で体格がよくて強そうだが、喧嘩慣れはしてなさそうだ。
やはりイケすかない顔をしていた。
あと百八十センチ以上ありそうな細身の加藤、こいつは話せばいい奴そうだが、挨拶がないのでやはり気にくわなかった。
あとの二人は名前も知らないし、今後出てこないので省く。
呼び止めて、俺らは向かいあった。
初めて向かい合ってみると、敵意は感じられなかった……というか、むしろビビッてるようにすら見えた。
どのみち、俺は親友エバの力をこれ以上借りたくなかった。
一個下は三年生である俺の役目なので、親友エバがいない時にやる事にした。
その時、どこからともなく、エバと中学時代の同級生の阿部先輩が現れた。
阿部先輩はバスケ部で身長が百八十五センチくらいある。
「何してんだ?」
と声をかけてきた。
だがエバが
「ああ!うるせんだよ!関係ない奴は引っ込んでろよ!」
と追い払った。
親友エバは、やる気満々だったようで、ガッカリしていた。
やはり俺と同じ年だったらよかったのに……。
しかしだいぶ後に、陸上部の恭平に聞いた所、俺は大変長い事、一個下に対して勘違いしていた事を聞いた。
接点がないから話せなかっただけで、誰も俺の事をナメていないし、むしろビビッていた……というか、尊敬していたらしい……。
その後、予定どおりカツアゲしようと、ターゲットを探して谷津神社(地元ではそう呼ばれているが正式には谷津観音堂らしい)を右に曲がった。
すると、今の
「娘娘系列の志」
がある辺りに三人組の男子高校生を発見した。
「よっしゃ!行ってくるぜ!」
と親友エバだけ置いて、とりあえず、きくりんと俺で先陣を切った。
三人の前に行くと俺は
「おめえら、どこ中だよ?」
とうっかり自分が中学生なので、どう見ても高校生なのに間違えてしまった。
真ん中のロン毛で体格のいいリーダー格の強そうな奴が
「ああ?俺ら中学生じゃねえよ!」
と言ってきたので、恥ずかしさと怒りが重なって
んなもん、どっちでもいいんだよ!
「ガン!」
そのリーダー格の男の顔面を、思いっきり右手でぶん殴って、左手で髪の毛を掴んだ。
その時、後からエバに聞いたが、もう一人が俺を殴ろうとした為
「何してんだ!てめえ!」
と叫びながら、殴ろうとしていた奴の顔にエバがジャンピングキックをくらわせた。
その時、俺のすぐ横を通過したので
「餓浪伝説のジョー東の必殺技のスラッシュキック」
みたいですごいなと思い、すごく風を感じた。
そしてきっとやられた奴は思っただろう……。
エバの存在に気付いてなかったはずだから、俺はいったい誰にやられたんだと……。
髪を掴んで、低い位置まで持ってきて右手で殴り続けた。
けっこう強い力で抜け出そうと相手はもがいていた。
肘を三角にするように顔だけは鉄壁な守りだったので、膝蹴りは効かず、隙間から殴り続けた。
俺は周りを見渡せるくらい余裕な状況だった。
周りを見ると、左側のきくりんと三人目の最後の一人は取っ組み合いになっているし、右側のEはボコボコにしていた。
俺はそれを見て
おぉ!すげえ!漫画みたいな乱闘じゃん!
と、こんな乱闘は初めてだったので感動した。
エバが一人を倒した頃には、駅前という事もあり、物凄い野次馬が見ていた。
「おまえら!やめろお!」
とフルフェイスのおっさん(たぶん)だけが全力で止めて来たので、そろそろもういいか……と思って、髪を掴んでいた左手を離して、百八十度向きを変えて歩きだしたら
「ガン!」
と思いっきりそのロン毛の奴に後ろから殴られた。
そりゃそうだよな……、俺は自分は馬鹿だと思い、振り返ると、エバが俺とロン毛の間に入って、俺の代わりに闘ってくれていた。
ここで、沢山の人が止めに入ってきたので、本当に終わった。
俺は手を離してしまった事に反省して、ボケ〜っとしていた。
エバが俺の肩を叩いた。
「おめえだ!おめえ!」
ロン毛が少し離れた向かい側から俺をずっと呼んでたらしい。
やっと正気に返り
「ああ?」
ロン毛が俺に指さしながら
「おまえ、おぼえてけよ!」
と、捨て台詞を吐いて去っていった。
一方、きくりんはと言うと、俺は二人の取っ組み合い以降見ていないが、エバいわく、三人の中では一番弱そうな相手だったのに、後半はやられていたらしい……。
だが、俺も最後にいいのをもらってしまったので、人の事は言えない……。
次の日、俺と親友エバは懲りずに駅前に行き、西口にあるイトーヨーカ堂に行った。
五階のゲームセンターと飲食店の真ん中にちょっとした広場があり、そこで偶然に元太平中の一個上のナンバー三とナンバー四に会った。
つまり、頭の海岸先輩とナンバー二の純先輩に次ぐ二人というわけだ。
俺らは彼らの事を知らなかったが、なぜか二人は俺の事を知っていて話し掛けてきたのだ。
元太平中のナンバー三のとも先輩、この人の兄はすごく有名なヤンキーだった。
とも先輩自身も危ない人で有名だが、認めた人間には優しいし、面白い。
エバがこの何日か後に、きくりんと一緒に歩いていたら、このとも先輩が現れ三人で話をしたらしい。
その際に、高校の制服を着てるから、同じ年だと分かってるはずなのに、きくりんに向かって
「タメ口聞いてんじゃねえよ!ガキが!」
とキレたらしい……。
それ以降、きくりんは彼が苦手との事……。
ナンバー四のタイ米先輩は、顔が細長いので、みんなからタイ米と呼ばれていた。
身長が百八十センチ近くあり、普段は面白いのだが、女の前ではそのギャグセンスをいかせず、シャイな先輩だった。
俺もどちらかと言うとシャイな方なので、人の事は言えないが……。
俺ら四人は意気投合して、駅前のカレー屋に行く事になった。
カレー屋のある通りに、四人組の中学生がいたので、
「ちょっと待っててください」
とみんなに言って、俺は四人組の所に行った。
そのときの気分でどこ中?
と聞くのも面倒だったので
「おい、おまえら、悪いが金を出せ!」
「…………」
「シカトしてんじゃねえよ」
「バコ!」
その内の一人を殴って、俺は正直、内心びっくりしていた。
軽く殴っただけなのに
「バコっ」
と顔がはね上がり、鼻血が止まらないのだ。
鼻血自体はしょっちゅう出させていたので、慣れていたが、なんてもろい奴なんだと思った。
本気で殴っていたら、首の骨が折れたんじゃないかと思った。
下を向いて、手の平で流れる血を押さえてるこいつに話し掛けても、もう無駄だと思って、他の奴に
「おい!おまえも殴られたくなかったら金を出せ!」
「…………」
「シカトしてんじゃねえよ!」
「…………」
「千円ずつでいいから早くしろよ!」
そうすると、やっと
「せ、千円で、い、いいんですか?」
俺はその震える声を聞いて気付いた。
こいつら、シカトしてたんじゃなくて、ビビり過ぎてしゃべれなかったんだという事に……。
鼻血出した奴は動かなかったので、違う奴に肩代わりさせて四千円を手にした。
みんなの所に戻りニコッと笑って
「カレーおごりますよ!」
と言った。
カレーを食べ終わって、外に出てみると、さっきの中学生らしき四人組はいなくなっていた。
代わりに地面に血が大量についてた。
一平方メートルくらいの範囲に、血だまりというよりは、血の雨が降り注いだ感じだった。
あんなに血が出たのかよ!
と少し驚いたが、まあ動いて帰れたんなら大丈夫だろうと、安易に考えた。
その時、とも先輩とタイ米先輩が
「お疲れ様です!」
と急に言い出した。
俺とエバは視線の先を見た。
二人の男がこっちにやってきた。
「おまえらか、昨日俺の友達をやってくれたのは?」
ああ、あのロン毛の件か……、俺はシカトしたが、エバが対応した。
元太平中の二個上でそこそこ有名なので、俺も顔と名前は知っていたが、話した事はない。
とも先輩が
「見てくださいよ!あの血!さっき三頭脳がやったんですよ!」
と言うと
「ったく、懲りねえな!」
と言い、俺ではなくエバにずっと説教していた。
エバは終始、
「すみません」
「そうですよね」
と言っていたが、俺は完全に無視した。
というより、俺には話し掛けて来なかった。
俺は
そんな事言ったら喧嘩なんか出来ねえじゃねえか!
おまえらに喧嘩売ったわけじゃねえのにうるせえよ!
とずっと思っていた。
なんなら、別におまえらもやってやろうか?
そういう態度だったから話掛けて来なかったのだろう……。
こんな態度取られてキレられない奴に説教なんかされたくなかった……。