上等だよ!だが……
「警察に何回も呼ばれて大変だったよ……」
と例の大谷中の件の事を、いつもの太平中の二人が言ってきたので、俺も原付バイク窃盗の話をすると
「マジかよ!ラッキーじゃん!」
と言ってきた。
誰が聞いてもラッキーだろう。
むしろ逆に、一度目の時はなんで家庭裁判所に呼ばれたのか不思議に思えてくる。
俺は太平中の頭の大島とイカつい顔の竜を誘って、駅前でカツアゲする事にしたのだ。
もちろん、二人には言っていないが、例の学ランの為に三万円欲しかったからだ。
カツアゲをした事がない二人だったが、俺が手取り足取り教えると、二人はセンスがよく、すぐに覚えた。
「へえ!意外と簡単に取れるんだね!」
この日は高校生ばかりを狙った。
高校生は、そこそこお金を持っているからだ。
だけど、手取り足取り教えながらやったので、この日は三件程しか出来ず、金額も合計一万円程度だった。
三人で割って三千円ちょっと、まだまだ三万には届かなかった……。
この日以降、太平中の頭の大島はカツアゲに誘っても、なんだかんだ理由をつけて断ってきた。
この時はただ、忙しいだけだと思い、気付かなかったが、捕まると思ったのかもしれない。
もしそうなら俺も止めて欲しかったが、そんな事言い出したら馬鹿にされると思ったのかもしれない。
それとも、本当に忙しかっただけなのか……。
俺と竜はそれから毎日のように駅前でカツアゲをした。
不思議とイカつい竜と一緒の時は反撃してくる奴がいなかった。
顔が恐いからかもしれない。
俺は、日本一強い中学生ではないので、一人の時はたまに反撃された。
別に高校生になら負けても恥ではないから構わなかったのだ。
反撃と言ってもガシッと肩を掴んできて押してくるのがほとんどだ。
一人、やたらと力が強い高校生がいて、
「おい!金出せよ!」
「あ?ふざけんなよ!」
と言われたので、ムカついて前にジムで習ったワンツーパンチをお見舞いしたら、肩をガシッと掴んできて植木まで五メートルくらい押されてしまった。
そして去っていった。
どうも中二の時に闘った大石中生もそうだが、喧嘩慣れしてない奴は、この行動をしてくるみたいだ。
反撃するというより、もう殴られたくない、と思うのかもしれない。
そして、どうやら俺は上半身ばっか鍛えて下半身が弱い事に気付いた。
大宮祭りでも殴られて倒れてしまったし。
なので、筋トレメニューにスクワットを追加する事にした。
「竜!あいつやろうぜ!」
竜に先に行かせて俺は様子を見ていた。
なんだか手こずっていたので、
俺が二人の近くの花壇に登って、その高校生の顔を思いっきり蹴っ飛ばした。
「ガス!」
高い花壇だったので、ちょうど俺の腰くらいの高さに相手の顔があり、ものすごく痛かったと思う。
ガッシリした体型だったその高校生が
「だから持ってねえって言ってんだろ……」
と半べそ掻いていた。
これは本当に(金を)持ってないんだなって思った。
今思えば、上尾の駅前は西口にも東口にも交番があるのに、よく捕まらなかったと思う。
一人でもカツアゲして、なんとか二万円作っておしゃべり好きの山先輩に渡した。
残り一万円も近い内に払うと言った。
土曜日の選択科目の家庭科では、編み物をしていた。
一年かけて、手袋でもマフラーでもなんでもいいから作ればいいのだ。
なので、ほとんど女子だった。
俺が話したくてたまらない蛍は残念ながらここにもいなかった。
俺は一番簡単なマフラーにした。薄い青紫色の毛糸を選んで買ってきて編んでいた。
編み物なんかやった事ないから、最初は大変だったが、マフラーなんて、ひたすら同じ事をやり続けるだけなので、慣れてしまえば、ただ単に女子と話してるだけの時間だった。
このクラスには、二年生の時に親友エバが無駄に告白した生徒会長がいた。
俺はそこそこ仲がよかったので、話をした。
どうやら、この生徒会長、通ってる塾がどこだか知らないが、西中生と一緒らしく、ナンバー二の
「デラマン」
とナンバー三の
「りょうへい」
も一緒だという。
何の因果か知らないが、りょうへいは焼きそば頭の元彼女の黄色と同じ名字だし、デラマンは俺が付き合ってた早紀と同じ名字だった。
俺はこれを知ってデラマンとやりたいと思った。
なんとなくで、特に深い意味はない。
焼きそば頭の家に、チーム「ブラッツ」の四人で集まった時に、この情報を教えた。
するとやっぱり焼きそば頭は
「俺はりょうへいって奴とやる」
と言い出した。
イカつい顔の竜が
「デラマンとやりたい」
って言うので、竜には譲りますと思った。
早紀と付き合ってたのは竜のが先だし……。
「じゃあ俺は頭の銀林って奴とやるよ」
って太平中の頭の大島が言い出したから
「俺は残り物でいいよ!」
って渋々言った。
ナンバー四とナンバー五、キックボクシングジムの帰りに会ったあの二人の内のどっちかかあ……。
楽勝そうでつまらないなって思ったけど、まあいいやって思った。
「もう一人はどうする?」
って話になって、とりあえず、フスマが最初の候補に上がった。
駄目だったら、大石中の鹿口(俺と闘った奴)か、最悪、俺が連チャンで二人とやる事になった。
俺は次の日、放課後に合わせて、一人で西中に行った。
正門の所で適当に声をかけて、知ってる名前の人間を呼び出してもらおうと思ったのだが、呼ぶ間もなく、デラマンとりょうへいが現れた。
ついでに先生達も現れ、西中は俺と小学校が同じだった生徒が沢山いる事もあってか、かなりのギャラリーも出てきた。
小学校の時とは全然違う、ド派手なヤンキーの格好の俺、ベランダにも人が溢れていた。
デラマンは俺が想像していた人間像とは全然違って、かなりデカかった。
百八十センチをを余裕で超える身長に柔道家みたいな体格をしていた。
りょうへいも、デラマンに次ぐ大きな体格をしていた。
俺はそれを見て
一年生の時に見た頭の銀林といい、こいつら、どうなってんだ?
と思った。
こいつらの通ってた富士見小学校だけ、成長促進剤が含まれた太陽光が降り注いでるんじゃないのか?
と訳の分からない事を考えていた。
「何しに来たんだ!三頭脳!」
と警戒心強めの先生に対し、
「よく来たな!三頭脳!」
となぜか友好的なデラマンとりょうへい。
何にしても、
何で俺の事みんな知ってるんだ?
と思った。
「いや、ちょっと話をしに来ただけだ、ここじゃ何だからどこかいい場所ない?」
すると、コミュニティセンターの地下に行っててくれ!
となった。
先生達も揉め事ではなさそうだと判断したのか引っ込んでいった。
コミュニティセンターは、将棋とか借りられるので何度か暇な時にやった事がある。
待ってると十五人から二十人くらい来た。
この人数でやられたら人溜まりもないが、万が一の時にはバタフライナイフを使うしかないと思った。
その中には、中二の時にボクシングジムの帰りに会った男前のまさやと、ブサイクのとし……あれ?
俺が記憶していた顔と違ってそんなに不細工ではなくなっていた。
じゃあ、あれは何だったんだ?
あの時は、殴られたような顔じゃなくて、本当に殴られた後の顔だったのかもしれない……。
俺の心配をよそに、みんなすごくいい奴らだった。
俺らは色々な事を話した。
スキンヘッドの黒田の事、頭の銀林の事、ヤンキーの事、これからの事、女子の事などだ。
ちなみに頭の銀林は、あまり学校には来ていないらしい。
早熟タイプで、今も俺が一年生の時に見たまんまの体格らしい。
いい奴らだって事は分かったけど、俺はそろそろ目的を果たして帰る事にした。
「おまえらがいい奴らだって事は分かった、でも噂で聞いてると思うけど、卒業までに五対五のタイマンは恨みっこなしでよろしく頼むぜ!」
すると、ナンバー二のデラマンが
「上等だよ!」
と不敵な笑みを浮かべて返して来たので、他の西中生は
「ワー!」
と盛り上がった。
だが残念ながら、後に上尾西口戦争と言われ(誰も言っていない)、かなりの盛り上がりをみせたこの闘いが行われる事はなかった。
中継役の俺が逮捕されていなくなってしまうからである。
そして、この代わりかのように、闘いの神は親友エバの方に降りて行く事になる……。