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底から出てもそこは底  作者: 三頭脳
中学三年生(逮捕まで)
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のほほんとしてる場合じゃない

 

 「三万でいいってさ」


 おしゃべり好きの山先輩とたまたま鴨川沿いの道で会った時に言われた。


 鴨川とは、上尾の西口の真ん中ら辺を通り、桶川まで繋がっている一級河川である。

 お世辞にもきれいとは言えない。

 俺が将来、もし大金持ちになったら、この川を整備してきれいにしたいと、小学生の頃から常々思っていた。

 この川がきれいになれば、上尾の西口はもっといい街になると思ったからだ。


 「三万って、例の刺繍入りの学ランですよね?」


 「そうなんだよ、俺も交渉したんだけど、一、二回しか着てないからほとんど新品らしくて、三万以下なら売らないって言うからさ……」


 「分かりました!なんとかしますよ!」

 と言って、おしゃべり好きの山先輩と別れた。


 あの水上公園の置き引きが成功していればなあ……三万どころか、五万渡したのに(きっとそれはない)……。


 どっちみち、まだ九月で学ランの時期ではないので、まだ時間はある……。




 「み、み、三頭脳!」

 休み時間に、俺が自分の席でボケッと座っていたら、声を掛けられたので振り返ると、フスマと焼きそば頭が並んで立っていた。


 「ど、どうした?珍しいな!」

 別にフスマのドモりが移ったわけではなく、この二人が揃ってやって来たのは初めてなので、純粋に驚いただけだ。


 「それがよ……」

 と深刻そうだが、どちらかと言うと嬉しそうに焼きそば頭が口を開いた。


 どうやら、太平中の頭の大島とイカつい顔の竜の二人が、大谷中に乗り込み、大谷中のナンバー二をボコボコにして、大谷中の頭は降伏したとの事だった。

 というか、大島はこないだまで入院してたのに、元気だな……。

 俺はそういう話は大好きなので、身を乗り出した。

 何であいつら俺を誘わなかったんだよ?

 俺も見たかったのに……、と思ったが、なんとなく分かった。

 きっと大石中は俺が潰したから、大谷中は自分らでやりたかったのだろう……。


 「ところでこの話の内容で、なんでそんな二人共、深刻な顔してるんだ?」


 「そ、それが警察に被害届出されたらしいんだよ」

 とフスマが言った。


 「マジかよ!不良の風上にもおけん奴だな!情けない!」

 俺は大谷中の二人は知っていたので、二人を頭に思い浮かべて、ガッカリしていた。


 それにしても、面白くなってきたな……。

 俺らの代の南中で有名な奴はいないので、これで、上尾の西口で名前が売れてるのは残す所、西中の五人だけ。

 こりゃあ、のほほんとしてる場合じゃないな……。


 

 

 この頃、愛用していた原付バイクがあった。

 もちろん、まだ買えないので盗んだ物だが、給油口の鍵をバール等の工具でなんとか破壊し、給油出来るようにしていたので、乗り続けられたのだ。


 同時期、石南の先輩達も、俺らと同じように太平の先輩達とツルむようになっていた。

 太平中の一つ上の頭の海岸先輩とナンバー二の純先輩、海岸先輩は十六歳とは思えない程、筋肉質でガタイがよく、背中が広かった。

 ナンバー二の純先輩は危ないので有名で、人を立たせてナイフでダーツをしてたと聞いた事がある(さすがにこれは嘘臭いが……)。



 そんなメンバーとたまたま俺は一緒にいて、親友エバが通う橘高校の目の前にあるコンビニみたいな店の駐車場に溜まっていた。

 夕方過ぎで、もう辺りは真っ暗になっていて、店もやっていない。

 

 俺は、愛用していた原付バイクのすぐ近くで、先輩達と話をしていた。

 この時、話題は主に俺の親友エバの事がメインだった。

 あいつは調子に乗り出しただの、いきがってるだの、変わっちまったなどだった。

 俺は聞いてて思ったが、なんだかんだ言っても、結局自分達の仲間にならない事が気に入らないのだと感じた。

 


 突然、暗闇からパトカーがやって来て停まった。

 ほとんど盗んだバイクばかりだったので、みんな一目散に逃げ出した。

 盗んだバイクで逃げる者、そのままバイクは捨てて走って逃げる者、バラバラだった。


 俺は愛用してたので、捨てたくなかったから、原付バイクのキックを蹴り続けた。


 ところが、なぜかこの時はいくらやってもかからなかった。

 俺が勝手に愛用してただけで、バイクの方は俺が嫌いだったのかもしれない……。


 なので、俺だけが捕まってしまった。



 パトカーに乗せられる時に

 あっ!

 と思った。

 やべえ、バタフライナイフが上着のポケットにある……。


 そう思った俺は


 「イテテテ……」

 とその場に座り込んだ。

 劇団スクール仕込みの演技である。


 警察官が聞いてくる。


「どうした?」


 「いや、足をツッたみたいで」


 俺はこの時、人生において、足をツッた事など一度もないからよく分からなかったが、プールとかで足がツッたと言う人がよくいたので、真似したのだ。


 痛いからと、わざと一旦靴を脱ぎ、また靴を履くどさくさに紛れてバタフライナイフを右の靴に隠した。

 バレなかった。

 

 警察署に向かう途中、俺は今回はヤバいかもと思った。

 なぜなら、前回、原付バイクを盗んで家庭裁判所まで行っているのだ。

 前回は裁判官の注意だけで終わったが、今回はそうはいかないだろう……。

 この時は、どのような処分があるのか知らなかったが、下手すれば鑑別所行きになるかもしれない、と思った。


 「だから、絡まれてただけだよ!」


 「嘘付け!他の奴らは誰なのか全員言え!」


 「しつこいな!絡まれたんだよ!だから助けてくれてありがとよ!」


 「そんなわけないだろ!」


 というような押し問答を永遠にやったのを憶えている。

 警察に何回も捕まってる俺は(自慢にはならないが……)あの手この手で仲間を売ろうとさせてきた警察の手には乗らず、

 「絡まれてた」

 の一点張りで通した。

 そう、こういう時は単純な方がいいのだ。

 変にややこしい事言うと矛盾が生じて、そこを付け込まれるからだ。


 逮捕はされなかった。

 親が迎えに来て、この日は帰れた。

 靴に隠したバタフライナイフも結局バレなかった。

 いつもどおり、後日、調書を取って指紋と写真を撮って書類送検された。


 てっきり家庭裁判所に呼ばれるかと思ったが、なぜか今回は呼ばれなかった……。

 俺はなんだか知らないけどラッキーだとこの時は思った。


 だが、この時に家庭裁判所に呼ばれなかった事が、後に俺の人生を大きく左右させる事になるとは思わなかった……。

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