期待を裏切れなかった……
俺はどうしても、学校でやってみたい事が二つあった。
一つ目は、この学校の生徒なら一年生の時に誰もが思ったであろう事である。
四階のベランダから下を覗くと三階のベランダがある。
これは当たり前だが、三階部分に緊急時の避難道具が入ってると見られる(中を見た事がないので)大きな箱を置く為にでっぱってる部分があるのだ。
そこに飛び降りたかったのだ。
二年生の時、なぜやらなかったのかというと、一つ上の対立グループの溜まり場がここだったので、さすがに出来なかったのだ。
給食後の休み時間に、四階の一年生エリアに行くと、不良の俺が現れたからみんな驚いていた。
河童先輩の弟とその友達の俵がいれば、話が早いのだが、見当たらない。
まあ探すのも聞くのもダルいし、とっととやる事終わらせて帰ろう。
というか、跳べば一瞬で三年生エリアに戻れる。
ベランダに行き、ちょうど出っ張りの真ん中に落ちる位置でベランダの手すりを乗り越えて逆側にぶら下がった。
三階から飛び降りた時は、二階の手すりにぶつからないように、わざと離れるように跳んだが、今回はそれをやったら三階から落ちて死にかねない。
今回は真っ直ぐ下にベランダの逆側に少しするくらいの気持ちで落ちなければいけない。
両手を離した。
「キャーーーーー!」
一年生の女子が悲鳴を上げた。
その悲鳴が終わらない内、一瞬だった。
「ドン!」
と思ったよりデカい音がして成功した。
ちょうど二組のベランダなので、美人顔の舞と目があった。
みんな、女子の悲鳴と俺の着地の音で理解が追い付かず
「シ〜ン」
としていた。
上を見ると一年生が沢山上から覗いていたので、上に向かってピースした。
意外と簡単すぎて、思ったよりつまらかったが、達成感はあった。
そして、もう一つのやりたい事は、その頃に思い付いたのだが、一年生のエリアの廊下に笛ロケット花火を飛ばす事だった。
どうせ飛ばすなら
「ピ〜〜〜〜〜〜〜!」
と飛んでって最後に
「バン!」
となる少し値段が高い笛ロケット花火にしようと思った。
だが、さすがにこれをやったら、あの今年赴任してきた、統括生徒指導の先生が怒るだろうと思った。
だけど、俺にはテトリスをやりながら考えた秘策があったのだ。
下駄箱付近にちょうど河童先輩の弟とその友達の俵がいたので、
「次の授業中、廊下にロケット花火飛ばすから楽しみにしとけよ!」
「え?マジですか先輩!」
「当たり前だぜ!二発行くからよ!」
と無駄にいきがって調子に乗ってハードルを上げてしまった。
「楽しみにしてます!」
と言われたので、もう後には引けない……。
二発はきついな。
というのも、この学校のその時の方針は、俺と焼きそば頭さえいなくなれば、ヤンキーがいなくなるので、一、二年生、特に一年生には力を入れていたのだ。
その一年生の廊下に笛ロケット花火を打てば、必ず先生が走って追っ掛けてくる。
一発ならすぐ逃げれるが、二発打つのは時間がかかるからリスクが上がるのだ。
同時に二発打っても二発は二発だが、それでは意味がないので、それはやりたくなかった。
そこまで考えて、考えを打ち消した。
もし捕まったらなんだと言うのだ!
こっちには秘策があるから大丈夫だ。
チャイムが鳴り、次の授業が始まった。
俺は適当に外でブラブラして時間を潰していた。
二十分くらい経って、四階に向かった。
廊下の端の曲がり角から、ジッポライターだけ覗かせるように、火をつけて立てた。
ジッポライターは、オイルを燃やすので、蓋を閉めないと火は消えない。
こうすれば、ロケット花火の導火線部分を充てればすぐ火が点くし、二発目もすぐ放てると考えたからだ。
「ジジジジ……」
導火線に火が点いた。
「ピィ〜〜〜〜〜〜〜〜!」
廊下なので、思っていたよりうるさかった。
一年生の教室から歓声が聞こえた。
河童先輩の弟と俵が宣伝しといたのだろう。
やはり、先生が教室から飛び出て来るのが見えた。
俺は角に隠れているので、あっちからは手しか見えない。
「ジジジジ……」
もう一本に火を点けた時に
「バン!」
と最初の一発目に放った方の最後っ屁?が鳴った。
後は、置いておけば二本目は勝手に発射するので、ジッポライターを拾うと逃げた。
渡り廊下の手すりは低いので、かがまないと見えてしまう。
走りづらいが、かがみながら向こう側の校舎に渡った。
そこまでくれば楽勝である。
二本目の笛ロケットの音を聞きながら、階段を降りていった。
「てめえ!この野郎!」
廊下で、例の統括生徒指導の先生に出くわすと、そう怒鳴りながら、こっちに向かって歩いてきた。
姿を見られてないはずなので、
「俺じゃない!」
と言おうと思っていたのだが、どうやら、その手はこの先生には通用しなさそうだ……。
なので、例の秘策を使う事にした。
「ガッ!」
と右腕で俺の胸ぐらを掴むと、俺を浮かせながら
「おまえ!最初に言ったよな?学校に迷惑を掛けるなってよ!おらっ!どうした?やり返してみろよ!」
「…………」
俺は目を逸らさず、睨み付けた。
だが、この先生にはどう足掻いても勝てないだろう……。
この先生の右腕から伝わる力というか、筋肉の動きというか、うまく伝えられないけど、今までの経験上で、俺との実力の差を感じる。
右ポケットに隠し持っているバタフライナイフを使えば、勝てる可能性はあるが、そこまでする気にはなれなかった。
なぜなら、この先生の言ってる事は筋が通っていたからだ。
仕方ない……。
睨み付けたまま
「一年生に頼まれたから仕方なくやったんだよ。期待を裏切れなかったんだ、もうしないからよ」
「…………」
バッと右腕を離すと、先生は何も言わずに去っていった。
よっしゃ!
そう秘策とはこの大嘘の事である。
作戦は見事に成功した。
この時期、ハマっていた
「代紋テイクⅡ」
というアウトロー漫画が理屈っぽいので、すぐに影響を受けやすい俺は、この漫画の真似をして理屈っぽい台詞を言ってみたのだ。
ちなみに、この漫画、実写化したんだけど、主役を演じたのは誰だったっけかな……。
前半は大嘘だったけど、一年生に、俺はこんな事がやれるんだって事を、誇示したかったのは事実なので、ある意味、期待を裏切れなかったというのは事実である。
後半の
「もうしないからよ!」
は本心だった。
学校で思い付くだけの事は全てやったので、もう満足していたのだ。
後は卒業式で何かやって終わりにしようと思っていた。
学年の生活指導の先生に校長室に連れてかれた。
「校長、今回の処分どうします?」
「ん?ああ、別にいいよ」
「え?処分はなしでいいんですか?」
「ああ、いいよ」
「そうですか、分かりました……失礼します」
生活指導の先生は不服そうに去っていった。
相変わらず、校長は何を考えてるのかよく分からない人だと思った。
この後、校長と何か話したが、他愛もない話だったのだろう、何も覚えていない……。