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底から出てもそこは底  作者: 三頭脳
中学三年生(逮捕まで)
45/117

竜ごめん……

 

 焼きそば頭が、彼女の黄色ちゃんと別れた。

 二学期が始まって学校に久しぶりに行くと、直子(ボコボコの彼女)から聞いた。

 何があって別れたのかは知らないが、焼きそば頭は相当凹んでいた。

 俺が早妃と別れた時くらい凹んでいたので、話しかける事もあまり出来なかった。

 焼きそば頭も、今シンナーを渡したら俺みたいに吸うのだろうか?と思った。

 もちろん、そんな事はしないが、ビシッと決めればカッコいいのに、頭もボサボサでやる気の欠片も感じられなかった。

 俺は元気を出してもらおうと

 

 帰宅時間に

 「おい!焼きそば頭!そういう時はこれを押せばいいんだよ!」

 と言って、三階(三年生エリア)の廊下にある非常ベルのボタンを押した。

 

 「ジリリリリリリリ……」

 けたたましく、ベルの音が鳴り響いた。

 

 正直、鳴らないと思っていたのでびっくりした。

 先輩達がいた時は鳴らないようになってたからだ。

 先輩達が卒業したのだから、当たり前と言えば当たり前だった。

 職員室のある二階に降りて行くと、担任の女の先生が走ってきて


 「三頭脳、何やってんだよ!」


 「いやいや、何で俺なんだよ!俺じゃねえよ(俺だけど)!」

 

 「え?」


 「だから俺じゃねえって(俺だけど)!」


 「…………」

 先生は三階の方へ上がって行った。

 焼きそば頭は終始、近くにいたのに、まるで興味を持たなかった。

 焼きそば頭は、靴に履き替えて、フラフラと校門付近で一人でたそがれていた。

 その光景を下駄箱のある二階から眺めていると、後ろから肩を叩かれた。


 振り返ったら、黄色ちゃんだった。

 「ごめん!三頭脳、あの人どっかにやって!」

 と言ってきた。

 俺は黄色ちゃんの、抑揚のない冷たい言葉を聞いて、かなり悲しかった。

 こないだまでこの二人は、あんなに仲がよかったのに、いったい何があったというのだ。


 俺は仕方なく焼きそば頭の所に行き、

 「帰ろうぜ!」

 と促せて途中まで付き添って帰らせた。


 心配して、しばらくしてから家まで行ったら、上はジャージ下は短パンというめちゃくちゃダサい格好だったので、いよいよ、大丈夫かこいつ?

 と思った。

 これはしばらくそっとしておこうと思った。




 「何でパトカーで連れていかれたの?」

 

 野球部の曽明が話し掛けてきた。

 水上公園で、パトカーで連れていかれたら、それは聞いて来るのは当然である。

 置き引きしたというのはダサかったので、

 

 「喧嘩になってぶっとばしちゃった」

 と嘘をついた。

 まあ嘘だが、喧嘩はしょっちゅうしている俺だから信じるかと思ったけど

 

 「そうなんだ……」

 と信じてないような様子だったが、こんな奴にどう思われようが、どうでもよかった。



 

 「三頭脳ごめん、俺が悪かった!許してくれ!」

 と、一学期からいじめていた茶坊主が土下座しそうな勢いでいきなり謝ってきた。

 きっと土下座しろ!と言えば、土下座したであろう。

 夏休みの間に、こいつはこいつなりに色々と考えたのかもしれない。

 もういじめ飽きていたのと、太平中の二人(頭の大島とイカつい顔の竜)

 と疎遠になっていた事もあってか、この時の俺には考えられないが、なぜか許した。

 だけど、おまえが警察に言ったせいで、カイザーナックルを没収されたのだから、それだけは買ってこい!

 と命令した。


 またこれを警察に行ったりしないだろうな、と少し不安に思ったが、一週間後くらいに、カイザーナックルを買ってきて俺に渡してきた。

 茶坊主が買ってきたカイザーナックルは、びっくりする程ピカピカに金色に光っていて、もしかして、こいつが磨いたのか?

 と思うくらいに光っていた。


 焼きそば頭も、もう吹っ切れたのか元のカッコいい姿に戻っていた。

 

 「三頭脳、大島(太平中の頭)の面会に行こうぜ!」

 焼きそば頭が、俺にそう言って声をかけてきた。

 確か盲腸だか胃腸炎だかで、太平中の頭の大島が入院中したのだ。

 もちろん断る事など出来なかった。


 太平中の頭の大島が入院している上尾市内の病院に着くと、病院の入り口にイカつい顔の竜がいた。

 まじかよ!気まずいな!

 俺は茶坊主にもらったピカピカのカイザーナックルを手に入れたばかりで気に入っており、手に持っていると

 竜が近付いてきて


 「おう!久しぶり!何それ?超ピカピカだね?」

 と普通に話し掛けてきた。


 俺は動揺しながら

 「お、おう!久しぶり!茶坊主から取り返してさ!」

 と話の内容が分かってる人間ならこれで通じるが、俺は意味不明な説明をしてしまった。

 意味は分かっらなかっただろうが


 「そっか!じゃあ行こっか!」

 と竜は笑顔だった。


 竜ごめん……。

 俺は心の中で謝った。

 

 太平中の頭の大島がいる病室へ行くと、大島も、竜が許したなら別にいいや、と思ったのか、俺が見舞いに来た事が単純に嬉しかったのかは分からないが、前の大島に戻っていた。


 「三頭脳、見舞いに来てくれてありがとな!」


 こうして、俺のせいで解散しそうになっていたチーム「ブラッツは」、竜の心の広さにより復活した。



 上尾市内にある、大きめの文房具屋には音楽CDも売っており、そこで、例の非常ベルの

 「強く押す」

 というプレートを集めていた、変わり者の山口先輩に会った。

 

 「よお!知ってるか?」

 そう言うと小声になり

 「ここのCDはさあ、防犯タグが付いてるけど、CD四枚までは鳴らないんだよ。五枚以上は鳴るから気を付けろよ!」

 

 と、俺は何でそんな事知ってんだ?

 と思い、相変わらず、変わった人だなって思った。


 その時、欲しかったCDがなかったので、CDコーナー以外を歩き回っていると、ジッボライターという、オイル式のライターで、オイルを入れれば半永久的に使えるライターが、厚紙に三十個くらいくっついていた。

 全てデザインが違くて、俺好みのデザインもあった。

 俺はこの厚紙が、かかってるだけで、縛られてないのを見て、良い事?

 を思い付いた。

 

 CDコーナーに戻ると、変わり者の山口先輩は盗む四枚のCDを厳選し終えたらしく、服の中にちょうど隠そうとしているところだった。

 確かに防犯タグは外していなかった。

 俺は本当に大丈夫なのか?

 と思ったが、別に俺は何も盗んでいないので、まあ最悪平気だと思って彼の様子を見た。

 前々から思っていたが、人が盗む姿は、なぜか自分の時よりドキドキする……。


 鳴らなかった、本当に鳴らなかったから、すげえと思った。

 外に出て自転車に乗った変わり者の山口先輩は

 

 「じゃあな、俺はこれで帰るよ」

 と言い出したので


 「いや、ちょっとここで待っててくださいよ」

 と、店を出てすぐの歩道で待っててもらった。


 ポカンとしている先輩に

 「すぐに戻って来るんで!」


 と俺は言って店内に走って行った。

 店内でも走って、さっきのジッボライターが沢山ついてる厚紙の紐をつかむと引っ掛かりを外して、外へとまた走った。


 「先輩、逃げますよ!」


 変わり者の山口先輩は

 「おまえ!馬鹿!」

 という顔を一瞬したが自転車で走り出した。

 俺は自転車の後ろに飛び乗って、店の方を確認すると、いかにも店長っぽい五十代くらいの細身の男の人が走って車に乗り込むのが見えた。


 「先輩、やばい!車で追いかけて来るからどっか狭い所入って!」


 先輩は右に曲がって小道に入った。

 砂利の細い道は、地元だが俺の知らない道だった。

 袋小路ではない事を祈った。


 「キキィ」


 すごい勢いで車を止めると、店長(多分)は全速力で走ってきて速かった。


 「先輩、やばい走ってきた、このままじゃ追い付かれる」


 先輩は立ちこぎを始めた。


 店長?はもう、すぐ後ろまで来ていた。

 俺は後ろポケットに忍ばせていた茶坊主からもらったカイザーナックルを出して拳にハメた。

 追い付かれたら、これで殴るしかない!

 そう思った。

 もしかして、それを見て諦めたのかもしれないが、きっと体力の限界が来て、店長?は徐々に後退して行った。


 

 完全に店長が見えなくなり、二、三回曲がると、変わり者の山口先輩は自転車を止めた。


 「ハアハア、ゼエ、ハア」

 先輩はしばらくしゃべれなかった。


 「ハアハア、おまえ、なんて事してくれたんだ、俺はもう駄目だ。ハアハア、CDはここに隠す、ゼエハア、この自転車、乗ってっていいからハアハア、先に団地の商店街に行っててくれ!フウ、俺も後から行くからさ!ハアハア..」


 「分かりました。」

 なぜか自転車を貸してくれたのでラッキーだった。

 

 ジッボライターの付いてる厚紙を丸めて前カゴに入れると、何の障害もなく普通に商店街についた。

 辺りはちょうど暗くなり始めていたところだ。


 商店街のちょっとした広場の所に、珍しく一個上の先輩が七人くらい溜まっているのが見えた。

 仕事をしているイケメンの高先輩も珍しく一緒にいた。


 俺は注目を集めたかったので、本当は普通に自転車をこいで来ただけだから、全く疲れてないのに、先輩達に聞こえる距離まで行くと


 「ハアハア!ゼエ!ハア!ハアハア!」

 とさっきの変わり者のY先輩の真似をした。

 劇団スクールで鍛えてる演技力を見ろ!


 それに、みんなが気付き

 「どうした!そんなに疲れて!」

 と近付いてきた。


 つい、今さっきまでめちゃくちゃ疲れてたはずなのに(演技だけど)、先輩達が近付いてくると早く見せびらかしたかったので、

 「(変わり者の)山口先輩と盗ってきました」

 とジッポライターの付いている厚紙を普通にしゃべって見せた。


 すると、みんな一斉に色々と喋り出したので、事情を説明した。

 山口先輩が後から来る事も言った。


 「俺は兄にもあげたいから、五個だけもらうんで、後は先輩達にあげますよ!」

 ちなみに、五個というのに意味はなく、適当だった。

 ジッポライターは偽物もあり、裏側に

 「Zippo」

 と書かれていないものもあるのだ。

 これはもちろん書かれている事を確認してから盗んだので、大丈夫だった。


 俺が適当に五個を取った瞬間、鯉の群れが餌に群がるかの如く、先輩達は残りのジッポライターを奪い合った。

 ある程度、みんなにジッポライターが行き渡り、最後の一個になった時、その最後のライターが地面に落ちてしまった。


 おそらく、傷付いただろう。


 誰かが、それを蹴り出した。


 そして、誰も何も言ってないのに、それをボールとしてサッカーが始まったのだ。


 火の玉サッカーボールといい、この人達はサッカーが好きなんだな……、と俺は思った。


 先輩達がサッカー?やってる様子を見ていると、なぜか太平中の頭の大島とイカツイ顔の竜がタイミングよく現れたので、持ってた五個の内の二個を取り出し、一個ずつあげた。

 これで、俺も先輩達と変わらない数になってしまったが、この二人ならかまわなかった。


 しばらくサッカーを続けていたので、ボール代わりのジッポライターはボコボコで無惨な形になっていた。


 

 

 その時になってやっと、変わり者の山口先輩が走ってやって来た。

 「おーい!お疲れー!いや、三頭脳がとんでもない事してくれたから大変だったよ!」

 みんな、口々に大変だったな!とか散々だったな!とそこまでは同情していたのだが

「ところで俺の分のジッポライターある?」

 と言った瞬間だった。

 

 みんな

「あっ」

 と忘れていた!という顔をした後、俺も含めて誰もあげたくなかったのだろう……。


 驚くほど同じタイミングで、さっきまでサッカーボールになっていたライターを全員が見た。

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