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底から出てもそこは底  作者: 三頭脳
中学三年生(逮捕まで)
41/117

大宮祭り

 

 「また金髪に戻ってるわよ」

 芸能スクールの受付の人に言われた。

 また脱色したわけではない。単に黒染めが落ちてきてしまって、金髪というより茶髪である。

 「また染めて来ます」

 と言ったが、この時いい方法を思いついた。

 前髪だけ茶髪を残して、他を黒く染めて、前髪は日曜日の度に、一日黒染めスプレーで染めればいいんだと。

 これならスプレーも大して使わないから長持ちするし、お洒落だと思った。




 コンビニで、野球部の曽明と会った。

 野球部の曽明は

「付き合った二人とはどこまでいったの?」

 とうざったい質問をしてきたので

 「もちろん、二人共やったよ」

 と大嘘をついた。

 本当は早紀とは手を繋いだだけで、キスもしてない。

 理美に関しては指一本触れちゃいない。


 「…………」

 野球部の曽明は何か言いたげだったが、何も言わなかった。


 お菓子コーナーに行って何か盗もうとしてたら、隣の列から野球部の曽明の声が聞こえてきた。


 「絶対嘘だよ……」


 俺の事を言ってるんだと思った。

 俺は野球部の曽明の所に行き、胸ぐらを掴んで、


 「てめえ!なめてっと、ぶっ殺すからな!」

 

 と脅した!殴らなかったのは、この手のタイプは必ず密告すると、分かっていたからだ。

 それに嘘を付いたのは事実だったからかもしれない。

 



 八月の頭、大宮祭りの日、俺は一人で大宮祭りへと出掛けた。

 チーム「ブラッツ」は解散の危機になっていた

 から誘えなかった。

 代わりに兄を気晴らしに、一緒に連れてこうかとも思ったが、普通に楽しみに来たわけではないし、出てきたばっかの兄を、巻き込むわけにはいかないので、やめた(それにこの人やり過ぎるし)。


 なんだか無性にイラついていたので、喧嘩がしたかった(きっと早紀と別れたせいで夏休み、暇になったからだろう)。

 ついでにカツアゲもするつもりだった。


 「おい!おまえどこ中だよ?」

 二人組の中学生っぽい男子二人に声をかけると、

 「植竹中です」

 聞いた事もない中学校だった。

 無理もない、ここは大宮なのだから……。


 ド派手なアロハシャツに頭はリーゼント、グラサンをかけてるので、相手は俺が中学生だとは思っていないだろう……。


 「悪いが金出せや!」


 と言うと、普段なら8割持ってません、と答えるのに、祭りで持ってないのは嘘だとすぐバレると思ったのか、たまたま残りの二割に当たったのかは知らないが、すぐに出してきた。

 すると、

 「おい!おまえ何やってんだ?カツアゲか?」


 とテキ屋のおじさんとおばさんが声を掛けてきた。おじさんの方はテキ屋だけに、ちょいとイカつめだった。

 ちっ面倒臭えな、あとちょっとだったのによ……。


 「おまえさあ、いい年して、こんな普通の中学生、カツアゲして恥ずかしくないのか?」

 おばさんの方も

 「そうよ!どうせやるならもっと年上やりなさいよ!カッコ悪いわよ!」

 と言ってきた。


 「いやいや、俺、中学生ですから!」


 これには、その場にいた四人の目が点になった。


 「本当だから、上尾の大石南中生!」

 目的も忘れて、うっかり名乗ってしまった。


 「だ、だとしても、カツアゲは駄目だぞ!」

 とおじさん。


 「いや、カツアゲじゃないし、知り合いだし!なあ?」

 すると二人は


 「は、はあ」

 と渋々肯定した。


 すると、おじさんはそれを信じたのかどうかは知らないが

 「おまえ、ちょっとサングラス外してみろ!」


 と、なんだかカツアゲの件は流れそうだったので、言われたとおりサングラスを外した。


 「ほぉ……兄ちゃん、いい目付きしてんじゃねえか!サングラスなんてのは、可愛い目した奴が掛けるもんだ。兄ちゃんはかけない方がいいよ。」

 と言って去っていった。


 俺は目付きの悪さはよく言われるが、あまり誉められた事はなかったので嬉しかった。

 単純な俺は、それ以来サングラスをかけた事はない(だけど、サングラスはその名の通り、本来そういう目的でかける物ではない)。

 

 気分をよくした俺は

 「おまえら、ありがとな。知り合いって事で百十円ずつだけくれよ!」

 と二百二十円もらって去った。




 「おい!おまえ!どこ中だよ?」

 今度は一人だった。


 「上尾中です」

 上尾と聞いてちょっと嬉しくなったが、上尾中は東口なので、俺は数人しか知らない。


 「上尾中と言えば、一個上の石山先輩って知ってるか?」


 「あ、いや、ちょっと転校してきたばかりなので分からないです」

 上尾中ってのは、きっと嘘だな、そもそも、こいつには俺は何歳に見えてるんだろう?

 だがそんな事はどうだってよかった。

 金を請求すると、こいつもすんなり出した。

 祭りだけに七千円も持っていたのでテンションが上がった。

 それにしても、一人で祭りに来てるなんて、さみしい奴だなって思った(人の事は言えない)。


 金が手に入ったし、腹が減ったので、普通に屋台の食べ物を買って食べた。

 何を食べたかまでは覚えてないが……。



 金はもういいやって思って、歩いてたらコンビニがあり、そこに二十歳くらいのヤンキーっぽい人達が十人くらいいた。

 

 そういや、ジャンプを今週はまだ読んでなかったので、床に座って読んだ。

 これがいけなかったのかもしれない。



 コンビニを出て、歩いて行こうとすると、


 「あのう……、すみません、お何歳ですか?」

 と金髪のもやしみたいに、ヒョロ長い奴が、声をかけてきた。

 「十五になったばかりだけど……」

 と言うと、

 「ああ?中坊だと?なめてんのかてめえ!」

 と、いきなり豹変した。

 だが、こんなもやし男には負ける気がしなかったので、ぶん殴ろうとしたその時、


 横から太った男が割り込んできて、思いっきり殴られた。

 強烈な一撃で、俺は吹っ飛んで倒れた。

 倒れた所を顔面に蹴りを入れられたが、さっきのパンチに比べるとそうでもなかった。

 このまま倒れてたらまずい!

 と思って立ち上がった。

 鼻血がポタポタと垂れてきた。


 太った男が近付いてきて

 「あんまり、調子こいてんなよ、コラッ!」

 と言ってその場を去っていった。

 祭りだし、警察が来たら厄介だと思ったのかもしれない。

 どこの誰だか未だに分からないが、この人はまともにやっても勝てないかもしれないと思った。

 

 すると、また金髪もやし男がしゃしゃってきて、

 「ったく、ふざけやがってこのガキが!」

 と言ってきたので、こいつには余裕で勝てると思い

 「ああ?」

 と言った。


 だがしかし、殴られたにもかかわらず、ふざけた態度の俺に、見ていた周りの人も怒ったのか、気が付いたら、四、五人に囲まれていた。

 さすがにこれはやべえ!

 と思っていたら、

 「ちょっと待て!そいつを連れてこい!」


 コンビニの駐車場に止まっていた、イカついセダン車の運転席に座っている男が、声をかけてきた。

 パンチパーマのその人は、あきらかに風格の違う人で、このグループのリーダーだと思われた。

 俺はその人の目の前まで連れて行かれた。

 「兄ちゃん、今時、えらい気合いのはいった格好してんじゃねえか!どこのもんよ?」

 と言ってきた。

 中坊で怖いもの知らずの俺だったが、さすがにこの人は怒らせたらまずいと思い、


 「上尾です」

 と敬語を使った。

 

 すると、周りにいた内の一人の人が


 「おまえ、上尾って言ったら三頭脳って知ってるか?」

 とまさかの俺の名前が出てきたけど、歳的に兄の事だと思って


 「それ、自分の兄です」


 と言うと、その人は大笑いして


 「まじかよ!それを早く言えよ!こんな事ってあるんだな!実はこないだまで鑑別で一緒でさ」

 と言い出したから、今度はこっちがかなり驚いた。


 俺は兄からこの人の事を聞いていたので、

 「もしかして、上尾の元南中の佐藤さんですか?」


 「そうだよ!そう!なんだよ、確かに弟が鬼ヤンキーだって言ってたけど、会うとは思わなかったよ!」


 とセダン車の人、そっちのけで俺達は盛り上がった。

 ちなみに、この辺りから金髪頭の姿を見ていない。


 しかし、こんな偶然あっていいのかと思った。兄から聞いていたのは、この人の事だけだったし、地元の上尾ならまだしも、大宮の祭りで会うなんて。

 大宮祭りには、いったい何人の人が来てると思ってるのか。

 さらに言えば、例え会えても、知り合いでもないのだから、普通なら話したりしないから気付かない。

 まさに奇跡と言えよう。



 元南中の佐藤さんは、上尾に帰るからと、電車で来た俺を、車で送ってくれた。

 兄に会いたいから呼んできて、と言われたので、走って家まで向かってると、

 兄の友達のター先輩とその彼女、こちらも石南の卒業生で元ヤンの南川さん。

 二人は、俺の家に行く途中にある、ター先輩んちの前にいた。

 「あれ?どうした?その傷は?」


 「ちょっと大宮祭りで喧嘩しました。急いでるのでまた!」

 少しだけ立ち止まって、また走り出した。

 急いでる時に限って、邪険に出来ない人が現れやすいのは何の法則だろうか?


 家に帰ると、母が

 「おかえり」


 「兄は?」


 「寝てるけど、今寝たばかりだから、そっとしといてあげて」


 「分かった」

 それだけ聞くと、また元南中の佐藤さんの所に戻り

 「すみません、寝たばっかりで起きないです。あっそうだ、ガス代払います!(カツアゲした金だけど)」


 「中坊からもらえるかよ!そうか!分かった!またな!」

 と言って彼は去っていった……。


 

 彼がいなかったら、どうなっていただろうか?

 セダンの車の人が話の分かりそうな人だったから、何もならなかったかもしれない。

 とりあえず、一つだけ言える事は、送ってもらってラッキーだったという事だ……。

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