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底から出てもそこは底  作者: 三頭脳
中学三年生(逮捕まで)
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彼女2

 

 兄の友達が団地内に溜まっていたので、俺は顔を出した。

 シンナーで逮捕された事を伝えると、みんな悲しそうだった。

 みんな、あの手この手でやめさせようとしてくれたのだが、ミイラ取りがミイラになるように、逆に一緒にやっていたので、この人達は駄目だと思った。

 だけど、兄ほどハマった人はいなかった。


 


 話していたら、奥歯さん(兄の代の頭)が


 「どうしたの!?誰かに用があるの?」

 

 と向かいの少し離れたベンチの所に座ってる二人の女の子に声をかけた。

 中学生くらいの子達だったが、多分うちの中学の子ではないと思った。一、二年生なら解らないが……。

 でもなんか一人は見覚えがあるような……。



 「もしかして、こいつ?」

 と奥歯さんが俺を指差して声をかけると、彼女達は頷いた。


 すると奥歯さんが

 「おまえ行ってこい!」

 と背中を押してきたので、彼女達の所へ行った。


 近付いて行ったらすぐに分かった。

 太平中のイカつい顔した竜の彼女だ。

 名前を知らなかったが、早紀と名乗ってきた。


 二人共ノリがよく元気で

 「お久しぶりです!」

 と一度しか会ってないのに言ってきた。


 話を聞いていくと、竜とは別れたから

 「出来れば私と付き合って欲しい!」

 と言ってきたのだ。

 さすがにそれはと思ったのだが、

 「いつまでも待ってるから、気が向いたらよろしくお願いします!」

 と言って来たので一応

 「分かった!」

 と言って解散した。


 

 俺は非常に悩んだ。悩み過ぎてテトリスも今回はやってない。


 積極的に話し掛けてくる彼女なら、今度はうまく行くかもしれない。

 竜とは別れたって言ってたし、竜には悪い気がするけど、まあいいか!

 と思ってしまった。

 こうして俺は、彼女と付き合う事に決めた。


 次の日の放課後、俺は太平中に一人で行った。

 金髪の頃だったらすぐにバレてしまっただろうが、今は黒髪の上に、バレないように髪を降ろしてきたし、細めのボンタンで来たので、太平中生に馴染んでいた(多分)。


 部活の真っ只中だったので、校内は賑わっていた。

 自分で探し出すのは困難だった。

 この時間はいないだろうが、もし頭の大島とイカつい顔の竜が現れたら、まだ何も知らないので、遊びに来た!

 と言えばいいだけだ。

 

 下手なヤツに声をかけると、騒ぎになりかねないので、裏庭の真ん中ら辺で、どうしようかと困っていたら、塾で一緒だった男子生徒が話し掛けてきた。


 「どうしたの?大島と竜君はいないよ」

 

 俺はもうこいつに頼むしかないと思って


 「悪いんだけど、早紀って子呼んできてくれない?」


 「早紀ってバレー部のマネージャーの?」


 「バレー部のマネージャー?た、多分!」

 竜の元カノと言えば一発だったんだろうが、それは何となくやめておいた。


 別の早紀だったらどうしようかと思っていたのだが、昨日の早紀が現れたので安心した。


 俺は付き合う旨を伝えて、家の電話番号を交換して、付き合う事になった。


 彼女とは、それから毎日のように会った。

 彼女はとても面白い子で、竜と付き合ってただけあって、語尾に博多弁の

 「ばい」

 をうっかりつけたりして笑えた。

 中でも一番面白かったのが、中二の時に、食べたかったのに、クラスのプリンが全てなくなった話をされた時だ。

 あのクラスだったんかい!

 と思って彼女には悪いがツボに入ってしまった。

 バレー部のマネージャーというから、てっきり男子バレー部かと思いきや、女子バレー部のマネージャーだった。

 そういや、俺も石南の女子バレー部の子にマネージャーをやってくれないか?

 と頼まれた事があったが断った。

 マネージャーの仕事って、実際には分からないけど、アニメとか見てると、ユニフォームとか洗濯したり室内を掃除したりするから、男子部を女がやれても、女子部を男がやるのは絶対に成立しないと思ったからだ。

 というより、どっちみち面倒くさかったし。


 彼女も俺と同じく団地住まいだった。

 石南が第一団地なのに対し、太平中は第二団地でちょっと遠いけど歩けない距離ではなかった。

 



 早紀と付き合った事を知った、焼そば頭と太平中の頭の大島は露骨に冷たくなった。

 とはいえ、焼そば頭の方は、同じ中学だし、黄色ちゃんと付き合うのを協力した俺に感謝していたのか、一人の時は普通だった。

 単に黄色ちゃんと付き合ってて幸せだっただけかもしれないが……。

 イカつい顔の竜も姿を見せなくなり、チーム「ブラッツ」は俺のせいで解散の危機を迎えてしまった。

 だが彼女といると楽しくて別れる気にはなれなかった。



 

 俺はこの早紀という子と付き合って、色々な事を知った。

 ごくごく当たり前の事だが、人はそれぞれ好きな事や、やりたい事、独自の世界観を持って生きている事に気付いたのだ。

 今までどんなに仲のよかった女子でも、付き合わなければ、ここまで内面には入っていけない。これが付き合うという事だったのだ。

 何が言いたいのかと言うと、最初の彼女の理美で説明すれば分かりやすいだろう。

 俺は彼女の事をよく知らなかったし、知ろうともしなかった。彼女の世界観に触れていないのだ。

 知らない事ばかりなのだから、聞く事など山のようにあったのだ。

 内面に触れれば、共通の趣味や考えも出てくるので、さらに会話は広がる。

 それを俺にやってのけたのが、この早紀って子だった。


 

 

 そんなある日、小さい事だが神のイタズラみたいな出来事が起きた。


 吹奏楽部の子達に早紀を会わせると(たまたま会っただけだが)、仲良くなって、次の日、学校で俺の上履きに早紀命とか、愛してるとか油性のマジックペンで勝手に書きまくってきた。

 友達の理美と別れたばかりだってのに、理がに全く気を使っていない。

 やはり中学生は俺だけでなく、みんな何か足りない時期なのかもしれない。

 



 その上履きを見せたくて、俺は紫の自転車に乗って、石南まで彼女を連れてきた。

 自転車の後輪の真ん中には、ハブと呼ばれる、名目上は倒れた時に、車輪を傷付けない為の物だが、あきらかに2人乗りする為にあるような金具で、俺の自転車にはそれがついていた。

 なので、これに乗れば後ろに立ち乗りする事が出来る。

 俺は今まで後ろに、女を乗せた事はなかったので、早紀が初めてだった。

 学校まで連れて行くわけにはいかないので、近くに彼女を降ろして待っててもらった。


 そのまま自転車で校門から中に入った。

 いつもなら駐輪場に停めるのだが、今日は早紀を待たせているので、直接二階の下駄箱へと続く階段の下に停める事にした。

 階段に向かっていると、二人の女子が階段をちょうど降りてきている所だった。

 他には見渡す限り誰もいない。

 

 一人は蛍だった。

 三年生になってから、すっかり鳴りを潜めていた(俺が勝手に諦めただけだが)蛍となんというタイミングで会ってしまったのか……。

 階段の中腹にいる二人と、バッチリ目が合いながら予定通り、階段下に自転車を停めたので、完全に私達に用があると思っただろう。

 自転車を停めた時には、彼女達はあと五段くらいの所にいたので、話し掛けに来たとしたら、これ以上ない完璧なタイミングだった。

 だが、もちろん彼女達に用はないので、予定通り走って、階段を登って行ってすれ違った。

 すごく気まずかったが、仕方なかった。


 上履きと外履きの概念のない俺は、上履きに履き替えて、自転車に戻った。


 すぐ戻ると、早紀の所に着く前に、蛍達に追い付いてしまうので、少し待った。


 少ししてから早紀の所に行って上履きを見せると、彼女は

 「それ、上履きでしょ?」

 と言って別に喜んでくれなかった。

 期待と違ってガッカリした。

 あきらかに俺が書いた字ではないので、それが嫌だったのかもしれないし、よく分からなかった。

 

 その時、俺はハッとした。

 さっきまで上履きを見せる事がゴールだったので、気が付かなかった。

 俺はこれから早紀を自転車の後ろに乗せて、蛍達を追い抜いて行かねばならんのだ。

 もちろん、他にも道はあるが、この道を通らないとすごく遠回りになって、あきらかに不自然だし、何より別に悪い事してるわけではないので、避ける必要などないのだ。

 

 まあいいやと思って、早紀を後ろに乗せて走り出した。

 近付くにつれ、すごく嫌だった。

 行きたくなかった。

 だが早紀に何かを感じ取られたくなかったので、行くしかなかった。

 

 自転車なので、すぐに追い付いた。広い道なので、避けたりする心配はなかった。

 抜く時は本当に嫌だった。

 なんだか、見せびらかしてるように見られるのが嫌だったからだ。


 追い抜かしたが、もちろん、後ろに目が付いてるわけではないので、二人の反応は分からない。

 だけど学校一の不良が、他の学校の女生徒を後ろに乗っけて通り過ぎて行ったのだ。

 好きでも嫌いでも興味がなくても、必ず二人の話題にはなったはず。

 俺はそれが聞きたかった。


 こうして奇しくも、二年生の終わりに蛍にやられた事をやり返したかのような形になってしまった。




 次の日の放課後、俺の家で早紀と話をしていると、急に早紀が立ち上がり、窓から外を見だした。

 「誰かこっちを見てるよ!」

 と言ったので、俺は絶対に嘘だと思った。

 それが本当だとしたら、この子は超能力があると言えるだろう。

 半信半疑で窓から外を見てみると……いた。本当にいた。

 フスマ達だ。五人くらいいた。

 俺は驚いた。

 何が驚いたって、俺の家にこうやってアポなしで来る人間など、今までいなかったからだ。

 それに、なんで早紀は気付いたんだ?


 見てたら、フスマが手招きしてきたので、俺だけ降りていった。

 

 「み、み、三頭脳、悪いな!」


 「どうした?」


 「い、いや、あのさ……」

 と口火を切ると、いつから付き合ってるとか、どこの誰なのかと早紀について色々聞いてきたので、少し面倒だったが答えてやった。

 

 聞くだけ聞くと、フスマ達は帰っていった。

 あいつら、いったい何だったんだ?

 俺はそれを置いといても、とりあえず一つだけ思った事がある。

 学校で聞けばいいじゃん!

 そう思った。

 

 



 兄が鑑別所から出てきた。


 「おい!鑑別所はどうだったんだ?」

 鑑別所の中の事なんて知らないので、目を輝かせながら聞いた。


 「いや、約一ヶ月だし、別に大した事ないぜ、あそこは……」


 「そうか……俺も行ってみてえな。」


 「よっぽどの犯罪じゃなきゃ、だいたい一回で出てこれるから、別にいいんじゃないか?」


 

 俺は、さすがにこれでシンナーはやめると思っていたのだが、兄はやめれなかった……。

 なので、早紀を家に呼ぶ事は出来なくなった……。

 

 なので、早妃と上尾市内の丸山公園によく行くようにった。

 丸山公園は、上尾で一番大きな公園で、長いローラーの滑り台や遊具が充実していたり、池に鯉がいたりして、風情のある公園で、俺は小学生の頃からよく来てるが、好きな公園である。

 桜が沢山植えられているので、花見スポットとして地元からも愛されている。

 ちなみに、俺が通ってた石南のすぐ近くにある。

 確か、この頃に小さな動物園が出来て、カンガルーやアライグマなど十匹くらいの動物がいた。


 ついでに言っとくと、石南の近くには榎本牧場という牧場があり、ここのアイスがうまいので、何回食べたのか、数えきれない。

 駅前は大宮程ではないが、そこそこ栄えているので、これが的場浩司がテレビで言っていた、上尾は田舎と都会がうまく融合している、という所以だと俺は思っている。




 夏休み前、たまたま学校の職員室前を通ったら、うちの父が玄関の方から現れた。

 父は俺を見かけると

 「お、ちょうどいい、おまえも来い!」

 ゲッ!ついてねえ!

 と思った。

 

 生徒指導室に入ると、担任と生活指導の先生がおり、二人は、何で俺まで入って来たのかと、驚いた顔を一瞬見せたが、生活指導の先生が口を開いた。

 来たくて来たわけじゃねえよ!

 と俺は思った。


 「お父さん!もうすぐ夏休みになりますが、何か息子さんの対策はお考えになられてるんですか?」


 「ええ!もちろんです!」

 

 父が即答した上に、あまりに自信満々の態度だったので、先生達は少し面喰らっていた。

 きっと俺がいなければ具体的に聞きたかっただろう。

 だが俺はもっと驚いた!

 ここまでの自信に満ちた父を、俺は見た事があっただろうか?

 何をしてくるのか恐ろしくなった。



 だが俺の不安と心配をよそに、夏休みの始まりから終わりまで、父は一切何もしてこなかった。

 あの自信はいったい何だったんだのだろう……。


 もうすぐ、上尾祭りだ。

 俺は祭りが好きだった。

 上尾の祭りは西口と東口、両方一緒に開催される。

 東口には高崎線と平行して通ってる旧中山道という道にテキ屋がズラリと並び、八ヶ所の地区から御輿が出ており、お互い競い合って盛り上げているので、盛況である。


 上尾駅の祭りの日、早紀に一緒に行こうと電話で誘うと

 「行きたくない!」

 の一点張りだった。

 何でだよ?

 と思ったが、一年生の時に、美人顔の舞から教えてもらった

 「しつこい男は嫌われるんだよ」

 という言葉を思い出して、途中で諦めた。

 

 俺はムカついたので、他の女子に相談すると、 「じゃあ私が一緒に行ってあげるよ!」

 とまさかの誘いがあり、その子と行ってしまった。


 翌日、目撃した誰かに聞いたのか、早紀が泣きながら電話してきて

 「何でそういう事するの?ごめん、もう別れよう……」

 と、俺はてっきり長続きすると思っていた早紀と、たったの一ヶ月半くらいで別れてしまった。



 早紀にフラレたのは、かなりショックだった。彼女といた期間はものすごく楽しかったからだ。

 その間は悪い事もいっさいしてない。

 金などなくても、充分楽しかったからだ。

 毎日、一緒にいたから、誰からの誘惑もなかった。

 そして、後悔した。

 でも何であんなに頑なに祭りに行きたくなかったのだろう……。

 理由を教えて欲しかった。

 今思えば、元彼の竜に会う可能性があったからかもしれないが、答えは分からない。




 自暴自棄になった俺は、久しぶりに兄にシンナーを分けてもらって、一緒に吸った。

 そこにシンナーがあったから吸ったのだ、なければ吸わなかったし、わざわざ工場に盗みに行ったりもしない。

 少し吸ったらラリってきて、台所の前に敷いてあるマットにシンナーをかけて火を点けた。


 燃え盛る炎を見てたら、このまま兄ごと全部燃えちまえ!と思った。


 ちなみに兄は奥の部屋でシンナーを吸っているので気付いていない。


 「ガチャ!」

 タイミング悪く?いや、タイミングよく母が帰って来た。

 こんなに早く帰って来たという事は、コープの日だったのだろう。


 母は火を見るなり

 「何してんのよ!」


 「うるせえ!」


 俺はそのまま外にシンナーを持って出ていった。

 団地の中の集会所の裏に、凹時型の入り込めるスペースがあり、そこでシンナーを吸い続けた。



 「スーハー。スーハー……」


 目をつぶって吸っていると、さっきまで聞こえていた子供の声やら車の音、ありとあらゆる音がきこえなくなり、自分の


 「スーハー。スーハー……」


 という音だけが聞こえ続けた。シンナーは、このまま夜中まで吸ってもなくならないくらいあった。


 「スーハー。スーハー……」


 とその時、

 「ポツ……ポツ……」

 雨が降ってきた。この時、これくらいの雨で気付いたかどうかは分からないが


 「ザー!ザー!」

 と土砂降りになった。

 ものすごい雨だった。


 雨に打たれてる内に、なんでか知らないけど、急に馬鹿らしくなってしまった。

 冷めてしまったのだ。

 たかが女にフラレたくらいで、何なんだ、俺は。

 九月になれば、また出会いなんていっぱいあるじゃないか……。


 家に帰ると、ズブ濡れで帰って来た俺を、心配そうに見てる母が立っていた。

 火の点いたマットは片付けてくれたようだ。


 「ごめん、女にフラレてさ、でももう大丈夫だから!頭冷やしてきたから」


 「とりあえず、風邪引くからお風呂に入りなさい」


 母はそれしか言わなかった……。

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