彼女
「ボコボコ」
というあだ名のついた俺の友達に、彼女が出来た。
このボコボコというのは、ドラクエⅤで、ブラウニーというモンスターを、二匹仲間にした時に出てくる、二匹目の名前から取ったものである。
まさにブラウニーをボコボコにしたような顔をしていたので、親友エバがそう名付けたのである。
ボコボコは、俺と焼そば頭ほどのヤンキーではなかったが……、いわゆる半ツッパと呼ばれる中途半端な不良だった(というより、俺が無理矢理引き込んだだけだが……)。
このボコボコに、なぜか俺よりも早く、人生最初の彼女を作られ、せつなかったのを憶えている。
ボコボコの彼女は、直子と言い、太っててお世辞にも可愛いとは言えないが、明るい性格の上に、とてもいい子だったので、俺は好きだった。
ひねくれてて、人見知りする内気な性格のボコボコと、明るくて世話好きの直子とは、見た目的にも性格的にも、とてもお似合いだと俺は思っていた。
直子は吹奏楽部で、同じく吹奏楽部の黄色ちゃんと小学生の頃からとても仲が良かった(ちなみに俺も同じ小学校)。
黄色ちゃんはそこそこ可愛い子だったが、俺は顔より声が好きだった。
高くて少し変な声なのだが、俺はその声が好きだった。
とはいえ、二人共、小学校から知ってるし、恋愛感情などはない。
焼そば頭が、黄色ちゃんの事が好きだと言うので、俺は協力してやる事にした。
吹奏楽部には、卒業してったかず先輩を入れた二人のヤンキーの先輩がいたので、他の女子達よりヤンキーを受け入れがちだった。
俺の恋愛ではないので流れは省くが(正確には分からんし)、程なくして二人は付き合った。
こうなってくると、さすがに俺も彼女が欲しくなった。
ボコボコと焼そば頭はもちろん、チームブラッツの残りの二人、太平中の頭の大島とイカつい顔した竜にも彼女がいるので、俺だけがいないからだ。
俺はボコボコの彼女の直子に相談した。
「俺も彼女欲しいんだけど、不良でも付き合ってくれそうな子いない?」
聖美に
「不良は嫌い」
と言われたトラウマからそう言ったのかもしれない。
「う〜ん、そうだな、じゃあ舞は?」
とまさかの俺が一年の時に好きだった美人顔の舞の名前をあげてきた。
俺はドキッとした。
でも舞は、サラ毛の赤池と付き合ってるんじゃ?いや、それをこの子が知らないわけないから別れたのか……。
だが
「あっ、でも舞は可愛い過ぎるから無理かも……」
俺はコテッとなった。
じゃあ言うなよ……。
俺は後でこの時の事を、直子にそう言われたとしても舞にしとけばよかったと後悔した。
フラレたってよかったのだ、本当に好きな子だったのだから……。
「う〜ん、……じゃあ理美がいいんじゃない?彼女なら多分いけるし、お似合いだと思うよ」
理美か、理美は確かにいいかも……。
「……そうだな、理美にするよ」
理美とは、小学校が一緒で一、二年の時にクラスが一緒だった。
彼女の父親がその時に、病気か何かで亡くなってしまったのを、子供ながらにショックだったので覚えていた。
ショートカットが似合い、顔も可愛く、性格も明るめで優しい、その上、俺と仲がよかったので、申し分のない子だった。
俺はさっそく理美を廊下に呼び出して
「好きです。俺と付き合ってください」
と告白した(この時、俺は何か違和感を感じた
)。
だが
「…………」
と、何の返事もしないし、嬉しそうな顔ではあるが、無表情なので読み取れない。
「…………」
しばらく時が止まっていると、兄が殴った国語の方の先生が通りかかり
「もうすぐ授業、始まるよ〜」
と言ってきたので、それぞれの教室に戻った。
「ダン」
四ライン消すのは、やはり気持ちがいい。
俺はまたも、テトリスをやりながら考えていた。途中で学校を抜け出してきたのだ。
理美はなぜ、何も言わなかったのだろうか?
いや言えなかったのか?
この時の俺にはまるで意味がわからなかった。
そして、あの時感じた違和感は何だ?
実はそれには気付いていた。
そう、俺は本当に彼女の事が好きなのだろうか?
「好きです」
と言った時に感情がこもってない事が分かったのだ。
それに彼女も気付いたのではなかろうか?
自問自答をしても分からない。結局、明日、木下に相談してみようと思った。
次の日、直子を見かけたので、声をかけようとしたら
「三頭脳!何で昨日、途中で帰っちゃったんだよ!今日は放課後までちゃんといてね!」
と言いながら、何だかニヤニヤしている。
「お?分かったよ!」
放課後に何かが起きる!
そう思った。
放課後、なぜかボコボコも焼そば頭もいないのに、俺だけが吹奏楽部の女子達と帰った。もちろん、理美もいた。
ちなみに美人顔の舞は、学校を出ると、すぐ一人だけ右に曲がっていなくなってしまう。
学校から家がすごく近いのだ。
帰り道、人気の少ない所で急に全員が立ち止まると、理美が俺の前に立った。
「いいよ!」
と言ってきたのだ。
だが、その後恥ずかしくなったのか、
「何が?」
と自分でツッコミ入れた姿が可愛くて
ああ、きっとこの子は好きになれると思った。
それと同時に昨日、返事しなかったのは少し考えたかっただけなのだと気付いた。
こうして俺は人生で初めての彼女が出来た。
しかし、付き合う前はあんなに仲良かったのに、二人になると、全然話せなくなってしまった。
一緒に帰った事もあったのだが、その帰り道の商店街で理美の母親に会ってしまい、いきなり過ぎて挨拶も出来なかった。
こんな不良と、亡くなった父が残した大切な一人娘が付き合うのを賛成するはずもない。
聞いてないけど、その日は理美は母と揉めた事だろう……。
ますます、話しづらくなってしまったので、俺は耐えられなくなり、直子に言って別れを告げてもらった。
直接言えば友達に戻れたかもしれないのに、その後、学校にいるはずの彼女を一度も見ていない。
彼女には大変申し訳ない事をしたが、それでも記念すべき、俺の彼女第一号には変わりはない。
たった二週間で別れてしまった……。
そして、兄が逮捕された……。
理由はシンナーだった。




