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底から出てもそこは底  作者: 三頭脳
中学三年生(逮捕まで)
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テニス部の顧問との闘い

 

 三年生になると、学年の生活指導の先生が、俺の登校初日に様子を見に来たくらいで、ほとんど何も言って来なかった。


 見捨てたというよりは、そういう方針みたいで、進路が決まりつつある三年生より、まだ進路の決まっていない、一、二年生に力を注ぐという方針だ。

 

 上尾の東口にある上尾中学校から元柔道選手で有名だったという、五十歳くらいだが、めちゃくちゃガタイのいい先生が転任してきて、石南の統括生徒指導責任者(名称は少し違うかもしれない)に任命されていた。

 焼そば頭が、ドアを蹴ったのを見られて、ぶちギレられたらしく

 「あの先生はおっかねえ!」

 と言っていた。

 去り際に

 「俺の車になんかしたら、タダじゃ済まさねえからな!」

 とも言われたらしく、俺は過去に車に何かされたのかなって思った。

 

 この先生は面倒そうだと思ったけど、最初に廊下でたまたま会った時に

 「おまえがどんな格好で来ようがかまわないが、学校には迷惑かけるなよ!」

 とだけ言われた。

 俺は、変な格好で来たら、学校に迷惑なんじゃないかと矛盾に思ったが、これは逆に言えば

 「どんな格好して来てもいいよ!」

 と確約をもらったようなものなので、俺は喜んだ。


 これで俺にうるさく言ってくる先生はいないように思われたのだが、ただ一人だけいた。

 テニス部の顧問で、理科の先生である。

 この先生、兄が三年生の時の担任の先生で、憶えてるか分からないけど、親友エバが言っていた、兄が校門の所で殴っていたという先生の内の一人でもある。

 俺が小学六年生の時に、家庭訪問にたまに来ていたのだが、その時は優しい印象で、俺がその時にやっていた

 「アイスクライマー」

 というゲームを一緒にやろうと話し掛けてきた。めちゃくちゃ下手くそだったが、いい先生だったのだ。

 今にして思えば、来年から入学してくるのだから、手懐けておこう、という魂胆だったのかもしれないが、今とは別人にしか見えない。


 中二の時に、ウォークマンを聴きながら歩いていたら、

 「没収するから渡せ!」

 と、ずっとしつこく、いつまでも付いてきたのだ。面倒になったので自分の教室にいた副担任の先生に預けたら何も出来なくなっていなくなったが。

 ちなみにこの副担任、新卒できれいな若い女の先生で、ほっぺたをつねると、つねり返してくるような先生だった。

 体がものすごく柔らかくて、片足を新体操選手みたいに上げる事が出来た。

 俺はちょうどネリチャギを編修していたので、すげえと思って時々見せてもらったのだが、ある時、

 「今日もやって!」

 と言ったら

 「え、でも今日はスカートだから……」

 と言われて中学生だから俺は照れてしまったのを憶えてる……。


 話を戻すと、そのテニス部の顧問、それ以来、何かある度に俺にキレてきた。

 こないだも、こいつの授業中に帰ろうと、康恵とフスマに

 「俺、帰るわ!じゃあね!」

 と言って帰ろうとしたら

 「おい!三頭脳!待てよ!おい!ふざけんなよ!」

 とぶちギレてきた。

 普通に言ってくるのなら分かるのだが、この先生の場合、なんか狂気じみてるというか、俺に永年の怨みでもあるんじゃないかってくらいのキレ方なので、原因は分からないけど、ぶっ飛ばしてやろうと考えた。

 兄も殴ってるし、警察には言わないだろうと思ったからだ。

 だが、兄がこの先生を殴った時、眼鏡が割れて、親が五万円くらい弁償させられたという話を聞いていたので、眼鏡は割らないように気を付けようと思った。



 三組の理科の授業が始まる前、俺はわざと、三組のサッカー部の今町(一緒に動物園に行った男)の席に座っていた。

 一番後ろの真ん中らへんである。

 「ポキッパキッ……」

 その間、指を鳴らした。

 ケンシロウのような闘いのの準備アピールではなく、単なる癖だった。

 


 授業がもうすぐ始まろうというのに、全くどく気のない俺に、何かを感じ取ったのか、サッカー部の今町は、俺に席を取られてるので、一人だけポツンと立ったままなのに、何も言わなかった。

 待っていると、当たり前だが、このクラスの授業をやりに、テニス部の顧問が現れた。

 俺を視界に捉えると、真っ直ぐ俺の所にやってにて

 「出ていけ〜〜!」

 やはり、ものすごい怒鳴り声で狂気じみていた。

 一体この先生は本当にどうしちまったのだろうか?俺はあなたの親でも殺したのでしょうか?

 やはりやるしかない!

 覚悟を決めて立ち上がり、股間の辺りを思いっきり前蹴りした。

 「ドカッ!」


 「バチイィィ〜〜〜〜ン!」

 正直言って、強烈な一撃だった。

 一瞬何が起きたか分からなかったが、ビンタされたのだ。

 耳鳴りがして口の中が切れたのがわかった。

 さすがはテニス部の顧問、テニスラケットが乗り移ったかのような一撃だった(意味不明)。


 だが、筋トレして鍛えてる俺は微動だにせず顔だけが少し傾いただけだった。


 「ニヤア」

 最近やり返してくる奴など、なかなかいなかったので嬉しかったのか、顔を前に戻しがてら笑ってしまった。


 再び、股間の辺りを前蹴りした。

 「ドカ!」

 さっきより手応えがあった。

 

 「ガシッ」


 今度は俺の両腕の手首を、捕まれた。

 ものすごい力だった。

 眼鏡が割れないように、殴るのは封印してたので、手を使う気がなかったから、簡単に掴めただろう。

 あれ?この人、金◯ついてないのか?)

 

 「離せよ!」

 そう言いながら、連続して前蹴りし続けた。

 今度は場所など気にしない、適当に蹴り続けた。

 「ドカッ!ドカッ!ドカッ!……」

 気付けば、一番後ろにいたはずなのに、教室のど真ん中付近に移動していた。

 しかも、俺が黒板側(前)、先生が後ろ側で、向きまで変わっていた。


 「離せよ!」

 と言うと、いきなり

 「バッ!」

 と離した。


 すかさず俺は

 「ドカッ!」

 とまた前蹴りをした。

 すると、また無防備の両手首を掴んできた。


 「離せよ!」

 俺は今回、離せよ!しか言っていない。

 「ドカッ!ドカッ!ドカッ!……」

 さっきと同じように蹴りまくった。


 気付いたら今度は、黒板前の窓際まで来ており、いつの間にか俺は先生の上に馬乗りになっていた。

 先生の頭は、窓側を向いていて、黒板と平行するように仰向けになっている。

 もちろん、両手首は掴まれたままだ。

 眼鏡がない!

 いつの間にか、先生が掛けていた眼鏡が顔から消えていた。

 周りを見渡すと、黒板前の真ん中辺りに落ちていた。

 よし!割れていない!

 「ニタア」

 と、笑みを浮かべた俺は、封印していた両腕を動かした。

 モリモリモリ……、

 力を入れて両腕を動かそうとすると、筋肉が動くのが分かる。

 いきなり、なぜか今まで使わなかった力を入れ出したので、先生は驚いた事だろう。

 とはいえ、ものすごい力で両手首を掴まれているので、動きは遅かった。

 だが、体制的に有利だったのもあって、俺は交互に先生の顔を殴り続けた。

 両手首を掴まれていて、威力が弱いので、ねじ込むように殴った。しばらくずっと殴り続けていると

 

 「何してんだ!」


 ここでようやく、隣の四組で授業をしていた国語の先生が現れ、止めに入ってきた。

 ちなみに兄に殴られたもう一人の先生というのは、この先生で、声が所ジョージにそっくりだった。

 この先生も眼鏡をかけていて、兄は殴って割っている。

 

 ここまでだな……。

 そう思って両腕の力を抜くと、テニス部の顧問も、俺の両手首を離した。

 俺は立ち上がり、国語の先生を無視して、自分のクラスへと向かった。

 ついてきた国語の先生の方を振り返り、鬼ガンくれながら、廊下の途中にある洗面所に

「ぺっ」

 と唾を吐くと、ほとんど血だった。

 国語の先生は何も言わなかった。

 

 自分の五組のクラスに入ると

 「シ〜ン」

 としていた。俺はさすがに、ここまで聞こえるわけがないと思っていたので、何でこんなに静かなのか不思議だった。

 俺の席の左後ろの子が、俺をずっと何か言いたそうな顔して見てきた。

 どうしたの?何があったの?

 顔には、はっきりとそう書いてあったので、

 ああ、やっぱりここまで聞こえてたんだと思った。

 いつもの女子には優しい自分に戻って

 「◯◯の事(テニス部の顧問の事)、殴っちった(本当はほとんど蹴りだけど)!」

 と笑いながら言うと、てっきりドン引きされるかと思いきや……、


 「カッコいい……」

 

 「えっ?」

 この時ばかりは、あまりに想定外の返答に

 この子は、いったい何を考えてるんだ?

 と思って、こっちがドン引きした……。


 そして、何事もなかったかのように授業が始まった……。


 俺はこの授業中、自分の弱さを嘆いていた。

 俺はなんて弱いんだ。

 兄は、俺と同じ中学三年生の時に、二対一で倒しているのに、手を封印してたとは、急所まで狙っといて、このザマかと反省したのだ。

 もっと鍛えて、もっと強くなりたかった。


 この授業の後、なんとなく三組に行って適当に空いてる席に座っていた寝ていた。


 「なあ、何があったんだよ?教えろよ!」


 俺は

 ん?

 と思って、真横を見てみると、例の転校生が他のクラスの男子に何かを聞かれていた。


 「知らねえよ!」


 「知らねえわけねえだろ?教えろよ!」


 「だから知らねえって言ってんだろ!」


 ああ、さっきの俺とテニス部の顧問の件か、そりゃあ、俺がここにいたら言えないし、もう一方は、知らないわけないから聞くよな!

 なんだか可笑しくなって、

「クックックッ……」

 と笑ってしまった。



 放課後、母親が呼び出され、担任の先生から事情を説明されると

 「すみません、すみません……」

 と謝っていたが、俺は何で謝る必要があるんだと思っていた。

 テニス部の顧問は現れなかった。


 母はコープと軽貨物の仕事を掛け持ちで仕事してたので、軽トラで来ていた。

 なので、荷台に俺の紫の自転車を載せて、一緒に帰っていた。

 母は無言だったので

 「でも、あっちもやり返してきたよ!」


 「はあ?何それ?」

 そういうと母は、一気にスピードを上げ、サイドブレーキして百八十度スピンターン……は、しなかったけど、すごい勢いでUターンして学校へ戻った。


 職員室に二人で乗り込むと


「息子に聞きましたけど、そちらも手を出されたそうじゃないですか!」


 俺は生まれてから、母にほとんど怒られた記憶がないので、こんなに怒ってる母を初めて見た。

 先生達はタジタジになって、何も言えなくなっていた。

 初めから大事にしなければよかったのだ。

 俺はこうなる事を分かっていた。

 だいたい、野獣の時は俺が黙っていたら、何も先生達は親に言わなかった癖に、なんて大人は汚いんだと思った。

 基本的にこっちの方が悪い状況で、こんなに怒ってる母に、あの時、野獣にやられた事を言ってたら、どんなに怒ったのだろうか……。


 この件で学校側がこれ以上言ってくる事はなかった……。


 

 「そういう問題じゃない!先に手を出した方が悪いんだ!」


 「そうだとしても、事実を隠すのはおかしい!」


 父と母が、当人そっちのけで論争していた。

 俺はどっちも正しいと思った……。

 なんだか前より仲は悪くなさそうだった。

 ただ、暴力的な父に、暴力の事で説教された

 くはなかった……。

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