文化部
俺は、吹奏楽部の女子達と仲良くなっていた。
その中には美人顔の舞もいて、また一年生の頃のように話すようになった。
三年生になった舞は、ますます美人になっていた。
艶のあるセミロングの髪に、パッチリ大きい目、相変わらず小柄だが、そこが可愛い。
吹奏楽部はほとんど女子ばかりで、三年生だけで女子が三十人くらい、男子が一人だけいた。
一人だけいる男子は、雷様みたいな天然パーマなので、俺は雷様と呼んでいた。
「俺も吹奏楽部に入る!」
と言うと、吹奏楽部の女子達は賛成してくれた。
さっそく入部届けを提出した。
顧問の先生はもちろん、いい顔をしなかった。
でも別に吹奏楽部自体に迷惑をかける気はなかったので、不良である俺はコンクールなどに出る気はなかった。
ただ、楽しく部活がしたかっただけだ。
仲のいい女子達はホルンを吹いていたので、俺もホルンを習う事にした。
まずはマウスピースと呼ばれている小さなラッパみたいな形をした物を渡された。
要はホルンにそれを差し込んで、吹く為に口に充てる物だ。
「それだけで五千円くらいするから失くさないでね」
まじかよ!これが五千円もするのかよ!
と思った。
とりあえず、そのマウスピースを吹いて
「ぶぃ〜〜」
みたいな、ホルンに差し込んでちょっと下品な音が出せるようにならないと、話にならないらしい。
これが難しくて、なかなか出せなかった。
簡単に説明すると、口笛の
「ピィー」
が吹けなくて息の音しか出せないのと同じである。
俺はベランダでマウスピースを吹く練習をしていた。
ふと、中庭を見ると、なぜか蛍が一人で走っていた。
あなたは俺に怒っているのでしょうか?
あなたと話せる機会は卒業までにやってくるのでしょうか?
俺はまだ未練がましく、そんな事を考えた。
机を投げたのは俺ではないと、誤解を解きたかった(そもそも俺を疑ってるのかも分からないけど……)。
とりあえず、そのショックから立ち直ってる事を願った。
次の日、また部活に行くと、吹奏楽部の女子達がやってきて、
「肺活量を鍛える為に走ってきて!」
と言い出したのだ。
まあいいけど、そういう割には女子達は走る気はなさそうだ。
というか俺は、吹奏楽部が走ってる姿など見た事がない。
なんか魂胆を感じたが分からない。
俺はこの時、美人顔の舞を誘おうかと一瞬思った。
なぜなら彼女は一年生の時に、クラスで一番マラソンが速かったからだ。
だがやめた。
誘えば、確実に行かざるを得ない奴を一人知っていたからだ。
そう、もう一人の吹奏楽部の男子、雷様だ。
俺は雷様を誘って、ジャージに着替えて学校の外周を走った。
外周は一キロくらいだったかな?
忘れたけど、そんなもんだと思う。
はっきり行って、この頃は夜中に毎日走ってたから余裕だった。
だけど、雷様が遅い事、遅い事、すぐにバテてしまうから自分のペースで走れなくて、イライラした。
やっぱり美人顔の舞を誘えばよかったと後悔した。
足が速いという理由なら誘っても違和感はないし、失敗した。
「雷様、頑張れよ!」
と俺は応援し続けた。
何の魂胆があったか知らないが、これじゃあ、何の意味もない。
何で不良が、元々吹奏楽部の男子を応援しながら走ってるんだ?
ようやく一周回ってグラウンドの所まで来ると、学年で一番仲がいい陸上部の康恵が俺を見つけて、
「おお!三頭脳!走ってるなんて珍しいじゃん!」
と相変わらず、遠くから大声で声をかけてきたので、右手だけ大きく挙げて返した。
校門まで戻ると、吹奏楽部の女子達が待っていた。
俺が戻って来ると、みんな嬉しそうだった。
俺はなんとなく読めてきた。
どうせ吹奏楽部の顧問あたりが、外周を一周出来ないような奴は入部を取り消す!みたいな事でも言ったのだろう!
そうだとしたら、危うく退部になったのは、何の関係もない雷様になるところだった。
「ぶぃ〜〜〜!」
三日目にして、ついに下品な音が出せるようになった。
吹奏楽部の女子がホルンを持ってきてくれて、マウスピースを差して吹くと、俺も感動したが、女子達は拍手してくれた。
多分、今でも吹くだけなら出来ると思う。
こっからはドレミフアソラシドを習って、いよいよ曲の練習だ。
部活はとても楽しかった。
入学した時、運動部に入れなかった意地から、妥協して文化部に入るのが嫌だったので、入らなかったが、こんなに楽しいなら入っとけばよかったと思った。
でも、もし一年生から文化部に入るなら吹奏楽部ではなく、家庭科部に入っていただろう……。
取って付けたような話だが、俺は小学生の頃から家庭科が好きだったからだ。
得意ではなかったけど、好きと得意は違うので。
現に三年生の選択科目は家庭科を選択して、土曜日の三時限目だったと思うけど、それには毎週必ずと言っていいほど、参加していた。
家庭科部に入っていれば、自分で学ランに刺繍も入れられるようになっていたかもしれない。
そんな人が東卍にいたような……。