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底から出てもそこは底  作者: 三頭脳
中学三年生(逮捕まで)
34/117

三年生の始め

 

「主役は遅れて登場する」

 俺は勝手に自分の事を

「主役」

 と称していた。

 まあ人間は一人一人、自分自身が主役の人生を歩んでいるのだから、間違いではないだろう。


 とにかく俺は、一学期が始まっても一週間は学校へ行かないと決めていた。


 だが自分が何組なのか知らないと、授業中に登校した場合困る。

 それに誰と同じクラスなったのかは知りたかったので、みんなが登校して新学期の朝礼で体育館に集まってる時間を見計らって、親に買ってもらったばかりの紫の自転車で、学校へ行った。


 狙い通り、校門から玄関口前の広場、下駄箱に至るまで、見渡す限り、誰もいなかった。


 二階の下駄箱部分の丁度、真下の所に、各学年毎に分かれて、組分け表が貼られていた。


 一組から順に見ていくと、俺は五組だった。

 五組には、俺と学年で一番仲のいい康恵がいた。

 それには喜んだが、やはり彼氏が出来たとはいえ(多分)、蛍の組が気になったので、調べた。

 

 ……四組だった。

 また隣かよ!

 と思った。

 一、二年の時も俺が一組で彼女が二組で隣だったからだ。

 だけど、今回は隣は隣でも少し変わってくる。

 一組と二組、三組と四組、五組と六組(人数が減って七組はなくなった)の、二クラス合同で体育をやるから、体育だけは今まで一緒だったのだ。

 俺はガッカリした。接点がなくなってしまった。

 もはや好きとか嫌いとか、彼氏とかどうでもよかったのだ。

 話がしたかっただけなのである。

 接点があれば、話が出来るチャンスが必ずあるはずだから。

 

 いっその事、校長に頼んで俺を四組にしてもらおうかとも考えたが、そんな事、まかり通るはずもない。

 だが、この時ではさすがに無理だったかもしれないが、おそらく二年生の内に頼んでいたならまかり通ったであろう、衝撃の事実を後で知る事になる……。


 どのみち、彼氏もいるし(多分)、例の机の件を、俺が犯人だと思ってるだろうから、俺の事は嫌いだろうし、蛍の事は完全に諦める事にした……。


 気を取り直して、自分のクラスの五組の表を再び見た。

 そこには、一人だけ気になる人物の名前があった。

 その名も

「フスマ」

 フスマは男子で、俺と小学校から同じなのだが、小学生の時は

「ジャイアン」

 みたいに体が大きい子供で、ガキ大将だった人物である。

 性格は、ジャイアンほど狂暴ではないが、面白いし、面倒見がいいので、カリスマ性を秘めており、彼の周りには、常に多くの人が集まっていた。

 どちらかというと、一匹狼タイプの俺とは真逆である。

 小学六年生の終わりの時には、仲がよく、二人でよく遊んでいたのだが、決別したのは、中学一年生の時だ。

 団地内の公園のブランコで

 「柵越え」

 という、その名の通り、ブランコをこいだ勢いで、ブランコの周りにある柵を、ジャンプして越えるというシンプルな遊びである。

 そこへ、フスマが、大勢の仲間(十人くらい)を連れてやってきて

 「三頭脳も俺らの仲間にならないか?」

 と誘ってきたのだ。

 個人的にはツルんでもよかったが、まだ中学校に入学したばかりで、フスマの事は知っていても、周りの仲間の事は、よく知らなかったので断ったのだ。

 それをちゃんと伝えられていればよかったのだが、ただ単に断っただけなので、そこから疎遠になっていたのだ。

 とはいえ、別に険悪というわけではなく、会えば少しは話すくらいの関係であった。

 だが、もし俺が石南の頭を名乗りたいなら、彼を倒すか認めさせない限り、誰も俺を認めてはくれないだろう。

 そういう人物である。ただ、彼は喧嘩は出来るが、不良ではない。

 もしかしたらぶつかる事になるかもしれないな、と覚悟した。


 そして、そのまま学校内には入らず、校門を出て学校を後にした。


 




 それから三日目、俺の家のポストに、学年で一番仲のいい康恵から手紙が届いた。

 手紙というよりはメモ書きみたいな感じだったが、内容は

 「クラス一緒になったよ!学校に来なよ!」

 みたいな内容だった。

 俺は、それを読んで

 そういう事なら仕方ないなあ、あと四日は行かないつもりだったけど、行ってやるとするか!

 と本当は三日経って、もう学校に行きたくてウズウズしていた癖に、自分自身にも見栄を張った。

 なので、その日の内に床屋で髪を切ってもらった。

 もちろん、まだ金髪のままである。

 今日までの三日間、暇だったのでブリーチで脱色し直したのである。




 

 次の日、サイドバックにビシッと決め、さっそくイケメンの高先輩からもらった(元々俺のだけど)セミ短を着て家を出た。

 その日は四月だというのに、やたらと寒い日だったので、家に戻ってコートを上に羽織った。

 この時は人生で一番身長が伸びた時で、二年生の終わり頃から今日までで五センチくらい伸びた。

 とはいえ、まだ小柄な方ではあるが、前よりもコートが少し似合うようになったと思う。

 

 紫の自転車に乗って学校へ向かう途中、タバコの自動販売機で、ぶんた(セブンスターの事)を買った。

 元々、身長が止まると言われていたので、実はあまり吸っていなかったが、キックボクシングを始めてからは完全にやめていた。

 でも今日は吸いたかったのだ。

 

 学校へは給食後の休み時間を狙って行った。

 なので、昼御飯は家で適当に何か食べてきていた。

 前にも言ったが、三年生は一列に全クラスが並んでいるので、昼休みに行けば、全員から注目されるからだ。


 学校に着いて、駐輪場のイケメンの高先輩が停めていた場所へ自転車を停めると、校舎内に向かった。

 休み時間中なので、校舎内は騒がしい。

 新年度なので、上履きは持って帰っていて、家にあるという事をすっかり忘れていたので、仕方なく来客用のスリッパを借りた。


 職員室のある二階と、俺達のクラスがある三階の間の踊場でタバコを出して、家から持って来ていたライターで火を点けた。


 右手でタバコを吸いながら三階に行くと、廊下には三年生が溢れていた。

 クラスが変わってすぐだと、まだクラスに馴染めず、クラス替えする前に仲がよかった子と会いがちなので、廊下に人が密集する傾向になる事を俺は知っていた。

 

 脱色し直して、黒い部分のない、きれいな金髪のサイドバック、セミ短、ボンタンにロングコート、今の言葉を借りると異世界から来たような俺は、めちゃくちゃ目立つ。

 しかもタバコも吸ってるし、完璧だと思った。

 ただ、廊下に人が大勢いるので、タバコの火が人につかないように気を付けようと思った(特に女子)。


 廊下の真ん中をスリッパなので、スパスパ?

 音をたてながら歩いていると、みんなに気付かれ、軽くどよめいた。

 そして、まるでモーセの十戒のように……

 と言いたい所だが、実際には、やんわり真ん中に道が出来たくらいだ。

 

 歩いて行くと、俺が来た噂を聞き付けたのか、直接見えたのかは分からないが、逆側から康恵が、俺が造りあげた道を通ってやってきた。

 

 「よく来たね、よろしくね!」

 と言いながら、康恵は俺のタバコに気付き、すぐに没収した。

 元々登場に使いたかっただけなので、むしろありがたかった。

 すぐ近くの洗面所の水で火を消した所までは見たが、その後どこに捨てたのかは知らない。

 「案内してあげるからついてきて」

 そういうと、俺の前を歩きだした。

 

 実際には、組分け表を俺は見ているので、自分のクラスが何組なのか知っていたが、席までは知らなかったので、流れに任せる事にした。

 

 「ここだよ!」

 康恵に教えてもらった俺の席は、廊下側の後ろから二番目の席だった。

 なんだよ!不良は一番後ろって決まってんだよ!

 と思っていたら、生活指導の先生がいきなり現れた。

 俺は、この先生が現れた瞬間に、すぐに理解した。

 なぜなら、普通、休み時間に先生は現れないからだ。

 むしろ、色々やる事があるだろうから、現れたくもないはずだ。

 はは〜ん、こいつ、先輩達がいなくなって、一人になったから、ビビって学校に来なかったとでも思ってるな……。

 一週間も休んだら(実際は三日だけど)、もしかしたら、そう思われるんじゃないかと覚悟していたからだ。

 案の定、その生活指導の先生が

 「おい!そのコート脱げよ!」

 とかましてきた。

 俺はちょうど脱ごうとしてた所だったのでムカついて

 「なんだよ!今ちょうど脱ごうとしてた所だよなあ?」

 と康恵に同調を求めると

 「う、うん」

 と、俺の心が読める訳ではないので、そんな事知る由もないのに味方してくれた。


 それを見て、先生は何も言わずにいなくなった。

 やっぱりそうだ。コートとかどうだってよかったのだ。

 ただ、俺の様子を見に来ただけなのだ。

 ビビって学校に来なかったと思われた、というのは、もしかしたら考え過ぎかもしれないが、様子を見にきたのは確かだと思った。


 てっきり康恵と同じ班かと思いきや、康恵は窓際の一番後ろの席だった。

 そして、フスマが康恵と同じ班にいた。

 俺の班はと言うと、友達がいない人の寄せ集めのような班だった。

 あくまでも、このクラスにたまたま友達がいない人達という意味で、運の悪い人達だった。

 つまり、すでに席替えが行われていたのだ。

 俺はいなかったから、自動的にこの班になったのだ。

 失敗したと思ったが、作戦通り、遅れてカッコよく?

 登場する事が出来たのでそれは仕方がないと思った。

 俺が本気を出せば、席替えのやり直しを提案出来ただろうが、なんだかこの班の人達に悪い気がしてやめといた。

 隣の女子も小学校から一緒の子で、話せない訳じゃないし、席が後ろから二番目なのも、給食の時、六人が席をつけるから真ん中だし、この班のリーダー?としては当然だった。

 それに授業中、後ろの席の人の教科書が見れるのはありがたかった。

 前の席の人のは遠くて見えない。

 以上により、席替えのやり直しは提案しなかった。


 「三頭脳〜!?」

 休み時間が終わり、康恵が自分の席に着いた時に、大きな声で俺を呼んだ。

 何かを思い出したのだろう。

 「何?」

 離れているので大きな声で返した。

 「今日、これから委員決めるんだけど、また学級委員やるの?」

 と言ってきたので

 「いや、今度は中央委員でもやろうかな!」

 と適当に冗談を言っといた。

 中央委員というのは……よく分からないが、まあ生徒会みたいなもんだろう(多分)。


 というか、この康恵って子はいつもそうなのだ。

 遠くから俺を見つけると時々、大きな声で話しかけて来る子なのだ。

 俺らが二年生の時に、Jリーグが開幕した頃の話なんだが……。

 俺が三階から二階に向けて、階段を降りていた時、康恵が二クラス分の教室の先から俺を見かけて、

 「三頭脳〜!Jリーグどこ応援してんの〜?」

 と、めちゃくちゃ大きな声で聞いてきたんだが、俺はJリーグなんて全く興味ないし、むしろ、サッカーは嫌いだったので、困った。

 だけど、みんなすごく注目してるので、答えないわけにはいかなくなった。

 埼玉県民だけに、浦和レッズだけは知ってたけど、ベタ過ぎるので、確かカラマってのがあったな

 と思って

 「カラマ〜!」

 て答えたら、みんな?マークでいっぱいになってた。

 正解は

「鹿島」

 だったから、大恥じかいたのだ。


 なので、この康恵と同じクラスになったのは危険な匂いがしてきた。


 委員を決めてる時、興味がないので、別の事を考えていた。

 

 「ポキポキ……」

  指を鳴らす癖のある俺は、両手のあらゆる場所を鳴らしながら……、

 そういや、河童先輩の弟が、一年に入学してくるって言ってたな、確か空手をやってて、背が高いとかなんとか……、後で会いに行ってみるかな……。


 じゃあ、

 「次は体育委員をやりたい人?」

 まだ学級委員が決まってないので、このクラスの担任の先生が進行役を行っていた。

 この先生は短髪で男勝りに気が強く、中二の時はよく口論になった事があった。

 全然、引かないので疲れるから、口喧嘩なんて意味ないし、コリゴリだった。

 中二の時に、蛍に会いたくて、二組の授業中に乱入した時に、数学の授業を行っていたのがこの先生だ。

 そしてあの

「稲中卓球部」

 の作者の従姉妹だと言うから驚きだ。

 俺は

「稲中卓球部」

 の大ファンだったので、サインをもらってきてくれ!と何回も頼んでいるが、なかなかもらってきてくれない。


 「次に中央委員をやりたい人?」

 

 クラスの全員が俺を見た。

 え?どうした?……まさか、こいつら!

 そのまさかだった。さっきの冗談を真に受けていたのだ。

 仕方なく手を上げて、俺は今度は中央委員になってしまった。


 とはいえ、さすがにこれは、この後、この担任の先生から頼むからやめてくれと懇願されたので喜んで辞退した。

 代役は俺が勝手に決めたけど……。

 まあ先生からしてみたら、こんな不良に中央委員(たぶん生徒会)なんかやられたらたまったもんじゃないので当然だろう……。


 中央委員を辞退した俺は、焼そば頭が何組なのかを聞き出し、会いに行った。


 二組に行って、焼そば頭に声をかけようとして、俺は驚いた。

 中ランにドカン(幅が広く長さが下まで一定の学生服のズボン)をはいていたからだ。しかも、髪を俺とは逆側のサイドバックにしていて、カッコよかった。

 もう焼そば頭なんて……それは言うけど。


 俺は中ランというものをこの時、初めて見たのだけど、これが中ランだと一目で分かった。

 標準と大して変わらないと思っていたのだが、一番下のボタンから裾までが長く、エリの部分が縦に少し長いので、痩せてるが肩幅の広い焼きそば頭には、とても似合っていた。

 

 「おまえ、どうしたんだよ?その中ラン!カッコいいじゃねえかよ!」

 

 「太平中のヤツにもらったんだよ!ドカンは従姉妹にもらった!」


 「太平中?なんで太平中が……まあいいや!カッコいいじゃねえかよ!」


 「そうか……」

 これには焼きそば頭は嬉しそうだった。


 「それよりよ!」

 声を小さくして近より

 「これやるからよ」

 と、一本だけ減ってる、今朝買った、ぶんた(セブンスターの事)を一瞬見せてから中ランのポケットに入れてやった。

 この焼そば頭は、タバコだけは親も公認で吸っていたので、元々目立ちたくて買っただけのタバコなので、残りはこいつにあげる為にわざわざこいつが吸ってる銘柄にしたのだ。


 「いいのか?悪いな!」


 「ああ、じゃあ、またな!」


 「あ、ちょっと待て!」

 焼きそば頭が止めてきた。

 何やら、三組に男子転校生が入ってきて、上履きの踵を踏んでて、ちょっと生意気なんだよ!という話だった。

 

 俺は、ふ〜ん、そうなんだ!

 と思って、自分のクラスの五組に戻りがてら、三組を見てみた。

 見慣れない顔が、一人だけいるのですぐ分かった。

 格好は標準で、地毛だと思うが茶髪っぽい髪で、確かに生意気そうだった。

 よし!シメるか!

 と思ったんだけど、その日はスリッパだったのでやめておいた。



 

 別の日、俺は三組に行き、クラスメイトと話している、転校生の顔をいきなりぶん殴った。

 「ガン!」


 「何すか?」

 殴られた頬を、押さえながらそう言った彼を、俺は四、五発無言で殴った。


 殴られて、うなだれてる彼に、何も言わずに俺は立ち去った。



 やり返してくる気配もないし、敬語でビビっていたので、つまらないからもういいや!

 と思っていたのだが、彼は運の悪い事に、俺と帰りの時間が一緒で、下駄箱で見かけてしまった。


 俺の前を歩き、外の一階へと繋がってる、二十段くらいの真っ直ぐに延びる階段の、始めの一段を降りようとしていた彼の背中を、後ろから蹴っ飛ばした。

 彼は宙に舞ったが、転ばなかった。

 四、五人の女生徒が階段を降りていたが、うまい事かわし、ダッシュで階段をかけ降りていった。

 けっこう運動神経がいいのかもしれない。

 だが、てっきり転ぶと思っていたので

 「チッ」

 イラっと舌打ちをしてから、歩いて追いかけて行った。

 彼は蹴っ飛ばされたのだから、当然下まで行くと誰に蹴っ飛ばされたのか、確認する為、こっちを見た。

 俺だと分かると、顔が強張り、俺が来るのを待っていた。


 「ガン!」

 殴ると、左頬を押さえながら

 「何すか?」

 まるで教室でのやりとりが、再び再現されたかのように同じだった。

 四、五発殴ってもういいや!

 と思った時、なんか後ろから視線を感じたので、後ろを振り返った。

 すると階段の途中に、いつの間に現れたのか、フスマがいた。

 それとフスマ軍団?

 の五人くらいがいた。


 不敵な笑みを浮かべながらフスマが

 「三頭脳!甘いな!」

 と言ってきたので

 「そう?」

 とだけ返しておいた。

 どっちの意味だ?俺の実力が甘いのか、それとももっとやれ!って意味なのか……。

 でもどっちだってよかった。

 なぜなら、まだこの時は、フスマと闘っても勝てないだろう!

 と認めていたから怒りの感情も沸かなかった。

 

 再び振り返って帰ろうとすると、転校生がまだいたので、

 「おまえ、もう帰っていいぞ!」

 と言って帰らせ、俺も帰った。




 同級生の男子と二人で、団地内の駄菓子屋兼ゲームセンターに行くと、外の自動販売機の所に二人の男子生徒がいた。

 この内の一人を見て、俺はすぐに河童先輩の弟だと分かった。

 どことなく顔が河童先輩に似てるからだ。

 それに聞いてた特徴通りだし。


 もう一人は分からなかったので、俺と一緒に来た同級生に、あれは誰かと聞いてみた。

 するとどうやら、俺と同じ小学校の後輩の

 「俵」

 という男だった。

 こっちは知らないので、もし生意気だったら、やっちまおうと思った。


 「河童先輩の弟だよね?」

 と言いながら近づくと、二人は俺に気付き、河童先輩の弟が

 「あっ、お疲れ様です。そうです、よろしくお願いします!」

 と、かなり礼儀正しかった。

 「三頭脳さんですよね?兄から噂は聞いてます!」

 と、すでに俺の事を知っていた。


 俺はもう一人の方を見て

 「君はえ〜と、確か……俵だよね?」

 と、今さっき知ったばかりなのに、さも以前から知ってたかのように言った。

 自分には触れて来ないと思ってたのか、それとも名前を知ってた事か、あるいはその両方かは知らないが、俵は驚いた様子で

 「あっそうです!よろしくお願いします!」

 とこちらも礼儀正しかった。

 俺は、ついこないだまで小学生だった人間が、なんでこんなに礼儀正しいんだ?

 と、不思議で仕方がなかった。

 なぜなら、俺がこの時期は敬語もまともに使えなかったからだ。

 こないだまで小学生だったとは思えない点はもう一つあって、二人共、身長が百七十センチを超えていて俺よりデカかった。

 このペースで成長したら、この人達は二メートルくらいになるんじゃないかと、この時は本当にそう思った。

 ちなみに、この時はいなかったが、もう一人、丸山という不良化する後輩がいて、そいつも百七十センチを越えていた。

 一年生の終わり頃に浦和に引っ越してしまうが……。

 二人共、モテそうな顔をしていた。

 河童先輩の弟の方は、優しそうなさわやか系なのに対し、俵は

 「イケメンの高先輩」

 に匹敵する程のイケメンでトッぽい系だった。


 

 「ジュースでもおごるよ」

 と河童先輩の弟におごった。

 そして、俺は去っていった。

 この時、俵は思っただろう。

 え?俺にはないの?と……。

 

 

 


 こうして、俺の中学三年生はスタートした。


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