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底から出てもそこは底  作者: 三頭脳
中学二年生
28/117

あいつは出さなかったらしい……

 

 授業はろくに出なかったが、気が向くと、体育は出ていた。

 なぜなら体育は一組と二組の合同で行う為、二組の蛍に会えるからだ。


 その日は確か、三科目くらい競技を選べて、バスケットボールとバドミントンと何かだった。


 俺は当然バスケットボール部の蛍は、バスケットボールを選択すると思ったので、バスケットボールにしたのに、彼女はバドミントンを選択していた。

 普段、バスケットボールをやっているので、敢えてそっちに行ったのかもしれない。


 体育館の半分をバスケットボール、もう半分をバドミントンする者達で分かれていた。

 「その頭と格好でバスケットボールやるの?」

 と、二組の野球部の曽明が、金髪の俺の頭と、みんな体育着なのに、俺だけ学校指定の赤いジャージ姿なのを見ながら、声をかけてきた。

 いちいちうるせえな!

 と思ったが

「まあな」

 と返しておいた。

 

 何チームかに分かれて、バスケットボールの試合を行う事になったのだが、蛍がいないので、俺はまるでやる気がなかった。


 一試合目が終わって、俺のチームの番になった時に、俺と同じ班の女子三人が、バドミントンをやめて、応援に来た。

 どうやらバドミントンは、けっこう自由なようだ。

 そういう事なら、少し真面目にやろうかと思ったが、あまり気のりしなかった。

 バスケットボールは小学校の時に散々やっていて、球技の中では一番好きな種目だったので、俺は小柄で不利ではあるが、下手ではなかった。


 男女混合なので、対戦相手には俺をフッた聖美がいたが、どうでもよかった。

 どうせなら蛍とやりたかった。


 適当にやりながら、ふと俺の応援女子三人組を見ると、いつの間にか、そこから二メートルくらい離れた所に、蛍がちょこんと体育座りをしてこの試合を見に来ていた。


 その瞬間から俺は本気になった。

 バスケットボール部の蛍に、ふざけてバスケットボールをやっているのを見られれば、嫌われるのは必至だからだ。

 例えうまくなくても、一生懸命やれば本気は伝わるのだ。


 前半後半とかなくて、試合は短い。

 頑張ってボールを取りに行くも、なかなかゴールは決められなかった。

 一点くらいは、どうにかゴールを決めるのを蛍子に見せたかった俺は、苦肉の策として、点を決められた直後、後ろまで下がった。

 みんな、敵チームはボール側に寄っていたのでチャンスだった。


 声を出すとバレるので、無言で両腕を振ってアピールした。

 すると、ボールの投げ役が、俺に気付いて、思いっきり俺の所まで投げ飛ばしてくれた。


 作戦は成功し、ボールを受け取ると、ドリブルしながらゴールを目指す。

 誰も俺には追い付けない。

 但しチャンスは一度しかない。


 得意のランニングシュートを放った。

 決まった。


 その時、俺の応援女子の歓声が……大して上がらなかった。あんまり元気な子達じゃなかったので、控え目だった。

 おいおい、大歓声上げて蛍子を嫉妬させてくれ……、と思いながら、さりげなく蛍を見たが、表情は読み取れなかった。

 試合はその後少しして終わった。勝ったか負けたかなんてどうでもよかった。ただ一点入れられてよかった……。

 


 俺は蛍のいる、二組の授業中に乱入しようと考えた。

 動物園の時には全く話せなかったけど、本当はこんなに明るいし、勇気があるという事をアピールしたくなったのだ。

 とはいえ、何の用もなく乱入したらヤバい奴だと思われるので、わざと用事を作った。

 俺は毎週、ジャンプ、マガジン、サンデーを本屋で盗んでいた。

 俺の住む団地付近には何ヵ所か本屋があって、店の中ではなく店頭に置かれていたので、歩くか自転車で通り過ぎようとする時に、手に取って何事もなかったのようにそのまま歩き去った。

 その中の一ヶ所の本屋で、バレていたらしく、車で張られていた事が一度だけあったが、走って逃げ切った。

 今思えば、長い事盗んでいたのに、よく捕まらなかったものだと思う。

 その本を一冊百円で買い取ってる男子が、蛍と同じクラスにいたので、急用が出来たので、仕方なく授業中に渡しに来たという、ちょっと無理があったが、そういう設定にした。

 

 その頃、テレビで宣伝していた

 「バウ」

 というぬいぐるみがあり、言葉を録音させると、その録音した言葉を、音楽に合わせて連呼しながら歌うという代物だった。

 それが懸賞で当たったんだかして、なぜか俺の家にあったので、持ってきて先輩達と遊んでいた。

 

 先輩達と遊んで、最高潮にテンションが上がった時に、俺は

 よし!今だ!

 と意を決して立ち上がった。

 左手にバウを抱えて、右手に雑誌が二冊入った手提げ袋を持って立ち上がった。

 真剣な顔をして急に立ち上がった俺に、

 おしゃべり好きでやんちゃな山先輩が

「どうしたんだ?」

 と声をかけてきたが無視した。


 「ガラッ」

 二組の教室のドアを開けた。

 みんな、急に他のクラスの俺が入ってきたものだから、驚いてこっちを見た!

 数学の授業中だったようで、気の強い女の先生が(後に三年の俺の担任となる)。

 「三頭脳、入ってくんなよ!」

 と言ってきた。

 もちろん、無視して、歩きだした。

 思っていたよりも、かなり重い空気だった。

 だがまだテンションを維持していた俺は平気だった。

 蛍は真ん中の一番後ろにいて、その左手隣にちょっと仲のいい男子がいて、その前に今回の一応の目的(本当の目的は違うので)である男子がいた。

 スタスタと歩き、蛍を越えて、左隣の男子に「よ!」

 と声をかけた時だった。

 この声をかけた男子が、返事が出来ないくらい、重い空気だという事が分かる、強張った顔をしたので、俺は今までのテンションの貯金?が一気に空になって急に緊張がマックスになった。

 というか後ろに蛍がいるからだ。

 ラジカセを大音量にして走り回れる俺が、普通ならこんな事で緊張なんかしない。

 どっちにしろ、緊張はマックスに達している。

 とはいえ、ここまで来てしまった以上、ここで引き返したら何しに来たのか分からなくなる。

 今話しかけた男子は無視して、一歩を踏み出した。

 だが思っていたよりも緊張していたらしく、雑誌の入った袋を、目的の男子に渡そうとした時に、袋ごと床に落としてしまった。

 しかも、落ちた時に雑誌が飛び出した。

 渡そうとした男子が

 「ば、ばか……」

 と言って雑誌を拾おうとしたので、いつもなら絶対に謝らないのに

 「ごめん……」

 とつい言ってしまった。

 もう限界だった。

 雑誌は拾ってくれるんだから、もういいやと思って、その場を立ち去ろうとして、蛍の後ろを再び通ろうとした時、蛍がズズッと席を前に移動した。

 俺は何か違和感を感じた、そう、確か来る時は移動しなかったからだ。

 蛍の後ろを通った時に先生が

 「三頭脳なんだよ、それ?」

 と言ってきたので、俺はてっきり左手に持ってる

「バウ」

 の事かと思って

 「は?宣伝してるの、知らねえのかよ!」

 と怒鳴って、教室のドアを思いっきり開けて全力で

「バン!」

 と閉めた。


 廊下に出てすぐ、俺はやりきった自分への称賛を表す為に、ポケットに隠し持っていた、運動会で使う、スタート用のピストルを出し、

「バン!バン!」

 と鳴らした。

 廊下なので、ものすごい音がして響いた。二組の生徒は、あいつはいったい何だったんだろう?と全員思っただろう……。

 

 後に考えた結果、先生の

「なんだよ、それ?」

 はきっと俺の態度の事を言ったのだろう……。

 緊張した様子を、雑誌を渡した生徒にビビってると思ったのかもしれない。

 答えは分からない……。



 一緒に動物園に行った、サッカー部の今町が、今度は一緒に蛍に年賀状を出そうと言い出した。

 俺は考えたが、話した事がないとはいえ、一緒に動物園に行ったわけだし、こいつ(サッカー部の今町の事)も出すならいいか、と思って出す事にした。

 内容は忘れたが大した事は書いてない、最後に「石南一家十八代目」

 と書いたのは憶えてる。

 もう一枚、年賀状が余っていたので、二組の少し仲のいい女子にもついでに出した。

 同じクラスの女子四人から年賀状が来たけど、これは出し合う約束をしていたので。

 そう、これがあったから蛍に出す勇気が湧いたのだ。

 ついでに出した女子からは、返ってきたけど、蛍からは返ってこなかった。


 ちなみに、言い出しっぺのサッカー部の今町は、結局出さなかったらしい……。

 ふざけた奴だが不思議とキレなかった。


 


 ふざけた奴と言えば、太った面影が残る親友エバである。

 蛍の親友が、俺と同じクラスにいて、後に生徒会長になる子なんだが、

 「頼む!エバちゃん!(親友とは言え、一応、一個上なので、ちゃんとか君はつけていた)、俺の為にあの子と付き合ってくれ」

 と駄目元で頼むと

 

「その子、可愛いのか?」


「可愛いよ!少なくともブスではないよ!ちょっと背は高いけど(俺はタイプではないけど、本当に可愛い方だと思っていた)」


 「そうか!まあ別にいいぜ!」

 

 「まじかよ!ありがとうエバさん!(こういう時だけさん付け)」


 次の日、さっそく俺は、その子を呼び出して面影エバに会わせた。

 エバはその子を見て、面喰らっていたが

 「好きです、付き合ってください」

 と嘘っぽく言ったので、駄目かと思いきや、その場か後日かは忘れたけど、まさかのOKだった。

 俺は大いに喜んだが、面影エバは

 「タイプじゃないから無理!」

 と卒業まで逃げ続けた為、

 ほぼ成功しかけていたのに、最後にエバの裏切りにより作戦は失敗に終わったのであった……。

 

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