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底から出てもそこは底  作者: 三頭脳
中学二年生
27/117

PTA会長で、しかも

 

 その日は歩いて学校に来たので、帰りも歩きだった(当たり前)。

 下駄箱を出ると、まっすぐ二十段くらいの階段がある。

 階段を降りながら、ふと自転車置き場の方を見ると、自転車が沢山並んでいた。

 とはいっても、ほとんどがママチャリだったのだが、自転車を見ると鍵が付いてるか確認する癖があった俺は(ろくな奴じゃない)一応、確認しながら歩いた。すると一台、鍵付きの自転車があった(ママチャリだけど)。

 迷ったが、周りを見回すと誰もいなかったので、盗んだ。

 だが、さすがにママチャリは恥ずかしいので、俺の住む団地内に着いたらすぐに乗り捨てた。

 この日はやる事も特になかったので、珍しく家に真っ直ぐ帰る事にした。

 家にはコープの仕事を終えた母がいた。

 「おかえり!」

 とにこやかに言ってきた。

 母は、母の母、つまり俺にとってはおばあちゃんに当たるわけだが、おばあちゃん自体はとても優しい人だったのだが、その弟達三人がとんでもない悪だったらしく、そんな叔父三人に可愛がられて育ったせいか、あまり俺が(兄もだが)不良の格好をしても抵抗を示さなかった。なので、母とは仲がよかった。

 

 その時、

「ポン♪ポロロロン♪ロン♪」

 と家の電話がなった。

 仕方なく、近くにいたので、俺が受話器を取って電話に出ると、学校の生活指導の先生だった「チッ」

 と舌打ちを鳴らし、出なければよかったと後悔した。

 だが

 「おまえ、自転車乗ってっただろ?」

 ああ、その事かと気楽に考えながら、すっとぼけようとしたら

 「おまえが乗ってったのを見てる人がいるんだよ、さっさと学校に持ってこい」

 「は?知らねえよ!」

 とそれでもすっとぼけたら

 「おまえ、あの自転車、PTA会長の◯◯さんのだぞ」

 と言われ、さすがの俺も青ざめた。

 PTA会長という肩書きは、別にどうだってよかったのだが、◯◯さんというのは珍しい名字だったので、心当たりがあったのだ。それは、イケメンの高先輩が当時付き合っていた彼女の名字と一緒だったのだ。

 さすがにそれはまずいと思って

 「分かった!すぐ持ってくよ!」

 と言って電話を切った。

 急いでる様子の俺に母が

 「どうしたの?」

 と聞いてきたが

 「何でもない、ちょっとまた行ってくる」

 と言って家を出た。

 さっき乗り捨てたばかりなので、自転車はあったが、学校に向かってる最中、面倒な事になったな、仕方ない、謝るしかないな……と観念した。

 学校に着くと、てっきり生活指導の先生も一緒にいるかと思いきや、自転車置き場に立っていたのは、中年の女性が一人だけだった。

 沢山あった自転車がなくなってるので、PTA会長はこの人に違いないと思った。

 PTA会長と言えば、よくドラマとかに出てくる大金持ちのきれい系かイカついおばさんというイメージが俺にはあったが、自転車置き場にいた人は、普通の優しそうな人だった。

 近くまで行って、ペコッと頭を下げると、向こうも返してきた。自転車を止めて謝ろうとしたら、この人は有り得ない事を言い出した。

 「ごめんなさいね、私が鍵を付けたままにしちゃったから」

 と言い出したのだ。

 え?何だ、この人、神なのか?

 と思いながら

 「すみませんでした」

 と俺は謝った。

 その人は自転車にまたがると

 「それじゃあ、わざわざありがとうね」

 とまたも俺には理解の出来ない事を言い出した。

 「すみませんでした」

 と再び言うと、そのままにこやかに去っていった。

 理解が追い付かず、俺は考えた。

 盗まれたあげく、自分だけ帰るのが遅くなって、ずっと待っていたのになぜキレない?

 どう考えてもその時は分からなかった。


 ちなみにこの件は大事にしないで欲しいと、先生に頼んでくれたのであろう……。

 親への連絡はおろか、先生からも何も言われず、これで終わった。


 再び学校に来て、すぐ帰るのも馬鹿らしいので、誰か一緒に帰る人でも見つけよう、と三階まで登った。

 窓から校庭の方を見ると、まだ部活動をやっている生徒が沢山いた。

 中庭を走ってる女子の集団、女子バスケットボール部だ。

 その中に蛍がいないか探すと、すぐに見つかった。

 蛍を見ながら、頑張ってるなぁ……、

 そう思うと同時に、運動部の人間が羨ましかった……。

 こっそりキックボクシングはしてるけど、堂々と出来るみんな(蛍さえも)が羨ましかった……。

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