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底から出てもそこは底  作者: 三頭脳
中学二年生
25/117

先輩達との思い出

 

 俺と先輩達は学校内でやりたい放題だった。


 まず、音楽準備室を占領していた。

 音楽の先生の事を、俺は

「不良先生」

 と呼んでいたのだが、かなり変わった先生だった。

 音楽準備室を俺らに提供してくれたのだ。しかも、外からは入れないように鍵を付けてくれたり、先生とは思えなかった。

 見た目はかなりのデブで、とても女にモテそうなタイプではなかったが、俺らに何かと協力的だったので、俺は好きだった。

 この時期に、心を許せる少ない大人の一人だった。

 「不良先生」

 という名に相応しく、生活指導の先生とよく職員室で口論になっていたらしい。

 授業がない時は、よく音楽準備室に来て、俺らとしゃべった。

 疑い深い巨漢の仁村先輩は、最初、スパイじゃないかと疑ってたみたいだったが、焼き肉に連れてってくれたり、職員会議の内容を全て教えてくれたりと、有り得ない先生だったので、心を開いていったようだ。

 だがこの時の俺は、今までまるで見えてなかった先生達の裏事情を色々知って、大人って怖いなと思ったのを憶えている。

 中でも一番ありえなかったのが、この後の二学期と三学期の俺の通信簿を見た時だ。

 三学期は、ほとんど授業に出てないので、全て一かと思っていたら、なぜか数学は二だった。

 そして音楽はなんと四だったのだ。

 もちろん、音楽も他と一緒で出ていない。

 さすがにこれを見た時は、この先生、よくクビにならないな!

 と思った。


 だが、常に音楽準備室に籠っていたわけではない。

 授業に出てないので暇だった俺らは、さまざまな事をした。

 

 CDラジカセを持ってきて、ヤンチャでおしゃべり好きな山先輩と授業中の廊下を、最大音量で走り回った。

 色々な曲を流したが、基本的にはウケ狙いで、短くてメッセージ性の強い邦楽、憶えているのは

 「大黒摩季のチョット」

 とか

「フェアチャイルドの冗談じゃないよ」

 を流した。

 一年生エリアを

「チョット」

 を流しながら通りすぎた時、教室内の誰か知らないけど、女子が

「ちょっと待ってよ!はこっちの台詞だよ!」とナイスなツッコミを入れてきたので、俺らは爆笑した。

 真面目な生徒達からは、さぞ迷惑な事だったでしょう。

 ちなみに、これまた有り得ない話なのだが、電池がなくなると

 「これ、音楽室の備品だから使っていいよ!」と、あの音楽の不良先生が電池を大量にくれたのだ。


 廊下で爆竹を鳴らした事もあったが、廊下だとめちゃくちゃ響いて、うるさ過ぎるだけで、別に面白くなかったので、一回しかやらなかった。


 本当は盗んできた原付バイクでやりたかったのだが、石南の教室は全て、二階以上にあって登れないので、休み時間を二人乗りで自転車で走りまわった。

「JUDY&MARYの自転車」

 がこの時、発売されていれば、俺は必ずこの曲を流していただろう。


 非常ベルは、鳴らしすぎて、いつの間にか押しても鳴らないようにされていた。

 巨漢の仁村先輩のグループに、低い声をした山口先輩という人がいたのだが、なぜか非常ベルの

「強く押す」

 というプレートを集めていたので、学校中の非常ベルボタンのプレートは消えていた。

 この低い声をした山口先輩、他にも変わっていて、自転車の、開けるのが困難な鍵をわざわざ買ってきて(盗んでたかもしれないが)、針金で開ける練習をしてたりした。


 思い付く限りの事はやり尽くして、他に何か面白い事はないかと、音楽準備室で先輩達と案を出しあったが、なかなか思い付かなかった。

 イケメンの高先輩が何か閃いたらしく、口を開いた。

「じゃあ三頭脳さんに聞いてみてくれよ」

 と俺の兄に聞くように言ってきた。

 閃いたのはそっちかい!

 しかも、あなた方は兄が三年生の時に一年生だったんだから、ほとんど知ってるでしょ!

 と内心は思ったが

「わかりました!」

 と言っておいた。

 

 家に帰ったら兄がいたので、イケメンの高先輩との約束通り、兄に聞いてみたが、正直、俺はまるで期待していなかった。

 それくらい、あらゆる事をやったからだ。

 まず始めに兄は、大勢で先生をからかって鬼ごっこしてよく遊んでたと言い出した。

 確かに野獣がいれば成立しそうな遊びだが、野獣はもういない。

 野獣か……野獣があのままいたら、俺はどうなっていたんだろう……。

 と回想に入りそうになったので、それは今度テトリスやった時に考える事にして、打ち消した。

 鬼ごっこなど、あの人達には成立しない。

 なぜなら、先生達との溝が深いからだ。

 特にイケメンの高先輩は先生が話しかける事はおろか、近くにも寄らせない。

 イケメンの高先輩と二人で校内を歩いている時、男の先生が俺に用があって近付いてきたのに高先輩は

 「近くに来んじゃねえよ!消えろよ!」

 言われて、戸惑っている先生に追い討ちをかけるように

 「聞こえねえのかよ!早く消えろって言ってんだろ!」

 と追い返すくらい、先生という生き物を毛嫌いしていた。

 というか、そもそも巨漢の仁村先輩に鬼ごっこなんて……おっと、失礼。

 

 兄に理由を説明して却下すると、俺の今の長考中にすでに次の案を考えていたらしく、

 「屋上に行った事はあるか?」

 そう言われて頭に電撃が走った。

 な、なにぃ、完全に忘れてた!

 これには、

「灯台下暗し」

 ならぬ、

「学校上見えず(そんな言葉はないが……)」

 だと思って恐れいった。

 もちろん、屋上への行き方は知っている。


 普通に階段を登って行けばいいだけだ。

 だが、鍵がなければ屋上へは行けない。

 俺は職員室から、鍵でも盗み出すのかとワクワクして、目を輝かせながら、

 「屋上へはどうやって行くんだ?」

 と聞くと、兄から全然予想と違う答えが返ってきた。

 「四階に一年生用の女子トイレがあるだろ?そこの窓を開けると、ダクトがあって屋上まで登れるんだ。だけど、ダクトは途中までしかないから気を付けろよ。落ちたら死ぬからな!」

 もっと詳しく聞きたかったが、明日、見れば分かるので、それはいいとして、それよりも気になる事があったので、

 「でも、それじゃあ俺しか登れないじゃん」

 と言うと、兄は、慌てるでないという顔をしてから

 「大丈夫だ、一人が登れば鍵は開けられる。行行けば分かる。」

 「分かった、ありがとう」


 次の日、校舎の外側の地面から、四階の女子トイレの窓を確認すると、確かにそのすぐ脇に、屋上へと延びているダクトがあった。

 バラ線が巻かれているが、なぜか三階部分までしか巻いてないので、四階からなら確かに登れる。

 だが、兄の言うとおり、ダクトは屋上まであと五十センチという所でL字型に曲がり、壁の中にめり込んでいる。

 でもまあ、鉄棒の得意な俺には余裕だと思った。

 それよりも俺には厄介な事があったが。

 それは女子トイレだと言う事だ。


 さっそく、おしゃべり好きの山先輩に声をかけて、休み時間に四階の女子トイレへ向かった。

 別に授業中に行けば誰にも見られずに済むかもしれないが、万が一気付かれて変な噂でも立てられたら困るので、休み時間に堂々と行く事にしたのだ。


 トイレの入り口まで行くと、中には女子が数人いたので、

 「誰か(個室に)入ってる子いる?」

 と山先輩が聞くと、不思議そうな顔をしながら

 「いませんよ」

 と言ってきたので、山先輩が俺に、

 よし!行け!

 という合図を出してきた。

 俺は

「ちょっとごめんね」

 と言って中に入り、窓を開けると、すぐに窓に立ち、ダクトへと手を伸ばした。

 もうイメージトレーニングは出来ていたので、動作に無駄はなかった。


 ギリギリまで登って手を伸ばすと、屋上の縁に手が届いた。

 両手が届いたが、柵までは届かなかった。


 縁だと、親指だけ離れてる状態なので危ない。なので、一瞬、ダクトのL字型の部分に立って、柵に両手を移し変える必要があった。そこはさすがに緊張したが、滑る事なく柵に両手を移し変えると、後は余裕だった。

 柵を飛び越え、校内へと続くドアに向かった。

 ドアを見て兄の言っていた意味が分かった。

 よく家のトイレのドアノブに付いてる、手動で動かせて縦にするとドアが開き、横にするとドアが開く金具がついていたのだ。

 てっきり、両側共、鍵がないと開かない仕組みになっていると思っていたので、これを知らないのに最初に登った人がいたとしたら、その人は凄いと思った。

 ドアノブの金具を縦にすると、開けた場所に山先輩が待っていた。

 二人はテンションが上がり、音楽準備室にいるみんなを呼びに行った。

 「屋上の鍵開けたから屋上行こうよ」

 と山先輩が声をかけると、みんな

 「まじで?」

 「行こう!」

 と、みんな目を輝かせていた。

 そうだ、みんな行った事がないから屋上へ行きたかったのだ。

 

 屋上は、雨ざらしなので汚いが、気分は新鮮で楽しかった。

 休み時間なので、途中で俺の同級生の女子に会い、なぜか屋上までついてきた。

 話した事はおろか、見た事もない子だった。まあいいやと思った。

 なぜなら、そうだ!

 不良も真面目な子も関係なく、屋上へ行きたかったのだ!

 

 一通り見たら、コの字型になってる、向かいの校舎に行ってみようという事になった。

 確か柵があるのはこっち側だけだったので、柵を抜けて渡り廊下部分の屋上を渡らなければいけないのだが、そこが少し恐かった憶えがある。

 逆側に行くと、職員室から丸見えになるので、慌てて先生達が来た。

 もう充分見たので、俺達は素直に従って、音楽準備室に戻った。


 実はこの話には俺しか知らない続きがあって、後日、授業中にまた屋上に行きたくなったので、登ったのだ。

 そしてドアまで行き、ドアノブの金具を捻ろうとしたら、金具がなくなっていたのだ。

 きっと先生が登らせないように取ったのだ。

 俺はまずいと思って、屋上でゆっくりするのをやめた。

 こないだのように向かい側の屋上へ行けば先生が来てくれるだろうが、なんだかそれはダサいのでやりたくなかった。

 つまり、あのダクトを今度は降りなければ行けないのだ。

 登るのと違って、降りるのは俺には数段難しく感じた。

 柵を外側に越えて、柵を掴んで、L字型に立つ、もちろん行きと全くの逆の工程なのだが、ここからが違う。

 行きは危険な縁から掴み安い柵に両手を移し変えるが、帰りは、わざわざ危険な縁に両手を移し変えなければならないからだ。

 しかも、L字型のダクトに乗って。

 さらにそのままぶら下がって足をダクトに絡めないといけない。

 ボルダリング選手なら余裕だろうが、落ちたら死ぬので、さすがに恐かった。

 結果的に成功したわけだが、これは二度とやりたくないと思ったので、屋上へ行ったのは、これが最後だった。


 この後、俺がいない日に先輩達は、恐ろしい競技を開発した。

 その名も

 「火の玉サッカー」

 だ。

 三年生のエリアの一番端に、空いている教室があったのだが、そこで行っていた。

 どっかから持ってきた布をガムテープでグルグル巻きにして、ガムテープの隙間からオイルライター用のオイルをたっぷりと染み込ませてから火をつける。

 上履きが溶けるので、全員、上履きの先端の方もガムテープでグルグル巻きにしていた。

 俺は初めて火の玉サッカーをやった日、なぜかいなかった。

 その日はイケメンの高先輩が、全校生徒に注目されたと言っていたので、残念だった。

 その日も俺は、まだ知らなかったので、先輩達がいる教室のドアを普通に開けたら、火の玉サッカーボールが顔に直撃したので驚いた。

 先輩達は全員それを見て笑っていたが、火傷はしなかったものの髪の毛が焦げた。

 俺もムカついたので参加したが、上履きをガムテープで巻かなかったので、靴紐が焼け焦げてしまった。

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