学級委員活動
無駄に当選してなってしまった学級委員は、ろくに授業も出ていないのに、なぜかクビになっていなかった。
今思えば、同じクラスのもう一人の学級委員の女子には大変悪い事をしたと思っている。
なんせ、本来、二人でやるはずの学級委員の活動を、たった一人でこなしていたのだから。
だけど、もう一人の学級委員の女子、
「進撃の巨人」
に出てくる
「クリスタ」
もしくは
「お茶濁す」
の部長みたいな子だったので(性格はよく知らないが人を恨むという概念のない人間)
俺の事などまるで恨んでいなかった。
というか逆に、俺が時々授業に参加すると、
「三頭脳君、今日喉の調子が悪いから号令お願いします」
と、俺に気を使って、見せ場を作ってくれる女神みたいな子だったので、結婚したかった(笑)
彼女は真面目過ぎて、俺がクラスの男子生徒に「おまえ、ふざけろよ!」
という発言すると
「ふざけろよ」
って
「ふざけるな」
をわざと逆に言ってるのだと彼女は勘違いして、笑っていたのだが、実は違う。
「特攻の拓」
という漫画に何回も
「ふざけろよ」
という台詞が出てくるのだ。
今思えば、俺は彼女に、この漫画を見せて価値観を変えてあげたかった。
なぜなら……言葉なんてものは、所詮、人工的に造り上げたものに過ぎないからだ。
簡単に言えば
「ふざけるな!」
ではなく
「ふざけろよ!」
と小さい時から聞き続けていればこっちが当たり前になっていたのだ。
この女神は三学期の初めに、各クラスの一年間の十大ニュース(十個のニュース)を、学年集会で発表する企画があるので、俺にその発表をやってくれと頼んできた。
もちろん恋愛感情はないが、この子に頼まれれば断る理由などない。
ちなみにこの時は、彼女に迷惑をかけていた事にも気付いていないが。
実は、これはまたもや蛍とのお近づきのチャンスだった。
なぜなら俺が一組の学級委員なのに対して、彼女は二組の学級委員だったからだ。
しかも、お互い、発表する係なので隣同士だった。
とはいえ、苦し紛れの言い訳を一部の生徒は信じたとしても、俺が聖美にフラれたという噂は学年中、下手すれば学校中(まだ恋愛にうとい中学生にとって、この手の噂が広がるのは早いので)が知ってるかもしれない。
これが大袈裟だとしても、少なくとも蛍は知っているだろう……。
だけど、それで別によかったのだ。
自分の気持ちを誰かに話してしまった事によって、邪魔された例の朝の集会の件があったからだ。
これで誰にも俺の気持ちは分からなくなって、リセットされたのだから……。
何度か練習会があって、本番を迎えた。
体育館での発表自体には何の緊張もなかったのだが、隣に蛍がいたので、そっちで緊張していた。
俺は十大ニュースの内、二つは今でも覚えている。
一つは
「担任の女の先生の妊娠」
そしてもう一つはなぜか最後に
「三頭脳君、髪型変える」
と、まさかの俺をテーマにした内容だった。
これを最初に見た時、これじゃあ、まるで学級委員の権限を使って俺が自分で入れたみたいに思われるじゃねぇか!
と思った。
大きい画用紙には
「◯◯先生、妊娠おめでた!」
と書かれていたし、練習会の時はちゃんと、この通り言ったのだが、俺はわざと
「◯◯、妊娠おめでた!」
と呼び捨てにした。マイクを使ってるので、体育館中に響いた。
これには、なぜかみんなドン引きして
「シ〜ン」
となってしまった。
まあ普通の生徒は笑うに笑えないよな、これは。
何でこんな事をしたかと言うと、俺はこの先生が嫌いだったからだ。
ある日、授業が始まる前に俺が席に着かないで、他の生徒と話していると
「三頭脳が席に着かないと、授業を始めないから!」
と言い出した。そうすると、俺が悪いような雰囲気になって(そうなんだけど)、渋々席に着いたのがかなり悔しかった。
だから、テトリスをやりながら復讐方法を考えたのだ。
別の日、帰りの会が、あと最後の挨拶をすれば終わりで、みんなが立っている状態の時に、帰ろうとしたら、再びこの先生が
「三頭脳が自分の場所に戻らないと帰らせないから!」
と言い出したので、俺はプチンとキレて、先生ではなく、みんなに向かって
「だったら、みんな一生たってろ!バ〜〜〜カ!」
と言って走って帰ってしまった。
こうすれば、今度は先生が折れない限り帰れないので、みんなの怒りは先生の方に注ぐと思ったからだ。
その後、この件はどうなったのか知らないが、二度と先生は俺に同じ手を使って来なかった。
それに俺に文句を言ってきた生徒はいないので、作戦は成功したんだと思う。
だけど、俺はこの時の事を根に持っていて、まだ嫌いだったのだ……。
気を取り直して続けたが、最後の
「三頭脳君、髪型変える!」
もすべりそうで俺は不安だった。
そんな不安のせいか、七番目のニュースを言う時の
「七!」
が思いっきり、なまってしまった。
分かりやすく言うと、人名ではなく植物の
「花」
と呼ぶ時の発音だ。
これは計算外だったが、めちゃくちゃウケた。だが、ウケ狙いではないので、とても恥ずかしかった。
だけど、このおかげかは知らないけど、最後の 「三頭脳君、髪型変える!」
も大いにウケたのでよかった。
だが安堵はまだ出来ない。
なぜなら発表を終えた後こそ、俺にとって最大に緊張する出来事が残っていたからだ。
そう、蛍にマイクを渡すという動作だ。
ドキドキが止まらなかった。
俺は緊張のあまり、うっかりマイクの電源のスイッチを切って、蛍に渡してしまった。
この時指は、ふれなかった……と思う。
なぜなら、触れていれば俺の記憶に必ず残っているはずだからだ。
順応性の高い?
蛍は、マイクの電源が切れている事に、一瞬で気付いたので問題なかった。
クラスのニュースを読み上げる彼女の声に聴き惚れていたので、内容など、まるで頭に入って来なかった。




