表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
底から出てもそこは底  作者: 三頭脳
中学二年生
23/117

柔道新任教師

 

 俺が二年生になった時に就任した、小さいが柔道何段だかの新人教師がいた。

 顔は忘れたが女子にそこそこ人気だった。


 担任の先生は産休でずっと休んでおり、代わりの副担任の先生も何かの用事でいなかったので、この柔道先生が帰りの会を担当していた時の事だ。




 俺は急にトイレに行きたくなった。

 大の方だ。

 もちろん、帰りの会などすぐに終わるので、我慢する事など容易だったが、柔道先生とはいえ、たかが新任教師、完全になめきっていたので、何も言わず、勝手に立ち上がって教室を出ていった。


 なんとなく、そこは中学生、四階の一番端の教室にいたので、トイレは廊下の真ん中にあるが、大の方だったので、一階の部室が並んでるエリアのトイレに行く事にした。

 なので、トイレとは逆方向の階段の方へ歩いて行くと


「おい!待てこらぁっ!」

 という怒鳴り声が俺が出てきた教室内から聞こえてきた。

 あの柔道新任教師以外の何者でもない。


 俺は、これには面白くて仕方なく、トイレに行きたい気持ちも吹っ飛んだ。

 この先生が、今までキレたという話は聞いた事がなかったので、他の生徒達は驚いただろうが、うちの父親や一年の時の野獣、警察の犬顔の黒海など、おっかない大人を沢山見てきている俺には、ちゃんちゃら可笑しくて仕方がなかったのだ。

 

 いったいおまえに何が出来るんだ!


 百八十度向きを変え、両足を広げてボンタンに両腕を突っ込みながら、ニヤニヤしながら柔道新人教師が来るのを待った。


 柔道新任教師は、廊下に出て来て、ツカツカと早そうに見せかけて、ゆっくり歩くという高度なテクニック?

 を使って俺の方へ向かって歩いてきた。

 顔は怒っているが、あきらかに何かを考えてる様子。


 俺はワクワクが止まらなかった。いったいこの状況で何をしてくるんだろう。

 新任教師が、得意の柔道技で、俺を硬い廊下に投げ飛ばしてきたら、大したもんだと俺は見直す。


 もうすぐ、俺の目の前まで来るという神懸かったタイミングで、校内にチャイムが鳴り響いた

「キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン」


 一応、就業終了と部活動を始める目安となるチャイムだ。

 あくまでも目安なので、このチャイム自体に効力はなく、先生の指示の方が優先される。

 普通なら。


 俺は近付いてきたこの柔道新任教師にチャイムが鳴り響く中、デカい声で

 「はい!終了!」

 とニヤニヤしながら言うと、柔道新任教師は百八十度向きを変えて、教室へと戻って行った。

 教室の生徒達にはチャイムのせいで何も聞こえなかった事でしょう。


 え?嘘でしょ?これで終了?

 俺は期待ハズレにも程があったので、かなりガッカリした。

 俺のワクワクを返せと思った。

 そしてなんてダサい先生なんだと思った。

 これじゃ俺がわざわざ逃げ道を作ってやったもんじゃないか。


 拍子抜けすると、また便意が戻ってきたので、予定通り、一階に向かった。

 それにしても、なんて運のいい先生なんだと思った。

 あのタイミングでチャイムがなったから、逃げる口実が出来た上に、そのチャイムのおかげで、俺とのやり取りが、他の生徒達に聞かれてないので、恥もかかずに済んだ。

 俺があんな余計な事を言わなければ、ワクワクタイムは続いたのに残念だ。

 などと思っている内に一階のトイレに着いた。

 そこで、だとしたらあの怒鳴り声は何だったんだ?

 と急に怒りが湧いてきて、八つ当たりで個室用のトイレのドアを殴った。

「バキッ」

 個室用のトイレのドアは中が空洞になっていて思っていたよりもかなりもろく、俺の拳の形にきれいに穴が空いた。

 別に俺がキックボクシングを始めたから、威力が上がったというわけでなく、単純にもろかっただけなのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ