運動会
中二の運動会の日、俺はあまりやる気がなかったが、クラスの女子に、障害物競争だけ出てくれ、と頼まれていたので、仕方なく参加する事にした。
俺らの学年は七組まであるので、各組一人ずつ出て、七人ずつ走る。
そのメンバーの中に、野球部の曽明という生徒がいた。
俺はこいつと同じ小学校だったが、調子がよくて、裏表が激しい人間だと認識していたので、嫌いだった。
俺は一組で、この野球部の曽明は二組だったので隣同士だった。
もうすぐ自分らの番という時に、突然、曽明が話しかけてきた。
「三頭脳、わざと手を抜いて走るんでしょ?」
と笑いながら言ってきたのだ。これにはカチンときた。
俺には、本当は本気で走るけど、そう言い訳するんだろ?
という風に聞こえたからだ。
確かに適当に走るつもりではいた。
さすがにビリは恥ずかしいので、真ん中くらいの順位に適当につけるつもりでいた。
リアル障害物競争で鍛えてる俺をなめんなよ!
そう、俺は中一で捕まって以来、万引きで見付かる度に、全て逃げ切っているのだ(自慢にはならんが……)。
メラメラと怒りの炎が燃え盛り、俺は本気を出す決心をした。
一位にはなれなかったとしても、少なくともこいつには絶対勝つと誓った。
そして勝ったら
「手を抜いた俺より遅いのかよ!」
と嫌味を言ってやるつもりだった。
とはいえ、この障害物競争、不公平極まりない。
というのも、スタートして最初の障害物が網をくぐるヤツなので、どうしたって真ん中の走者が有利だ。
一組で一番左のレーンの俺は圧倒的に不利だった。
考えてる暇などなく、俺らの番になった。
「用意……バン!」
俺はギリギリ、フライングにならない限界くらいの、神懸かったタイミングでロケットスタートして、一瞬で真ん中まで移動して先頭に立った。
真ん中の先頭は網がくぐり安いし、他の走者にも邪魔されないので、網をくぐり抜けた時点で大分差をつけた。
もうこの時点で、この競技は順位がほぼ決まるのだろう。
はっきり言って後は楽勝だった。
一位でゴールした。爽快だった。
ゴール付近には誘導係を行っている聖美がいた。
聖美は運動好きだし、同じクラスなので、一位になれば得点も増えるので祝福してくれた。それになんと
「蛍がすごく尊敬してたよ」
と、蛍と近くで見ていた男子生徒が、この後教えてくれたので、めちゃくちゃ嬉しかった。
野球部の曽明には感謝した。
嬉しくて、曽明に嫌味を言うのも忘れていた。
というか、曽明が何位だったのかも見ていない。