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底から出てもそこは底  作者: 三頭脳
中学二年生
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東武動物公園

 

 塾が一緒の同じ学校の同級生で、サッカー部のそこそこのイケメンの今町と好きな人の話になり、今町が蛍が好きだと言ったので、俺も蛍が好きだと言った。

 それならばと、サッカー部の今町は蛍を誘ってどこかに四人で出掛けようと俺に持ちかけてきた。

 今町が誘うというので、それなら別にいいやと思って任せた。

 場所だけは、俺の母がコープで、埼玉県内にある東武動物公園のチケットを手に入れられる事から、そこにしようと俺が提案した。


 東武動物公園は、動物園がメインだと思われがちだが、遊園地エリアも広くて1日では遊びきれないくらい広い。

 夏にはプールもあるし、冬の夜にはイルミネーションがとてもきれいだ。


 動物園はホワイトタイガーが有名だが、他にも沢山の動物がいて楽しい場所である。

 俺は動物が好きだし、何回も行った事があるが飽きてはいなかった。


 今町は人づてに蛍を誘ったので無理だと思った。

 だが、バスケット部の蛍は部活が忙しいからと一旦は断ってきたものの、一日だけ空いている日があると、まさかの誘いに乗ってきた。

 俺は思いもよらず、全く期待していなかったので、めちゃくちゃ喜んだ。


 もう一人の女子は蛍に任せたのだが、その子もほとんど話した事がなかったので、この四人で大丈夫なのかと不安になった。

 共通の男子も呼ぶか提案されたが、主導権をそいつに握られるのが嫌だったので、結局四人で行く事になった。

 全て人づてで決めたので、当日まで四人で話してはいない。


 前日は緊張して一睡も出来なかった。

 生まれて初めての経験である。


 当日、待ち合わせのバス停に行くと、蛍じゃない方の女子が先に待っていて、俺達は挨拶した。

 今思えば俺はこの日、この時しか女子と話せていない。

 しばらくして、蛍が現れた。蛍の私服姿は初めて見たが可愛かった。

 スカートから延びた足は部活でこんがり焼けていて、とてもきれいだった。

 足がきれいだと感じたのは、この時が生まれて初めてだった。

 俺は挨拶も出来なかった。


 バスに乗るときに小銭を出そうとして、俺はうっかり小銭をバラ巻いてしまった。

 三人とも拾うのを手伝ってくれたのだが、俺はペコリと頭を下げる事しか出来ず、ドジな自分がとてつもなく恥ずかしかった。


 サッカー部の今町が、頑張って進行役を務めていたが最低限のものだったので、二人ずつ、終始別々に来ているのと変わらない感じだった。

 というか、めちゃくちゃ明るい性格の蛍がなぜにしゃべらないのだと不思議だった。


 結局俺はこの日、蛍と一言も会話しないで終わった。

 一緒に東武動物公園に行ったのに、一言も話さないなんて、あり得ない事だった。

 最後の別れの時も、サッカー部の今町は頑張っていたが、俺は手を振るのが精一杯だった。

 せっかく空いていた、唯一の日だったのに蛍には悪い事をしたと思い、自分の不甲斐なさを大いに反省した。

 役立たずでサッカー部の今町にも悪い事をした。


 後日、人づてで蛍じゃない方の女子はつまらなかったと言っていたらしいが、蛍は楽しかったと言っていたと聞いた。

 俺はそんなはずはない、と思って

 「あれのどこが楽しいんだ!」

 とつい言ってしまったので、蛍に伝わらない事を願った。


 さらに

「三頭脳君、不良じゃなきゃよかったのに」

 とも言ってたよと言われ、なんだかこの伝言ゲームみたいなのが面倒臭くなったのと、このわざわざ俺に伝えてくる男子にも腹がたち、

「はぁ?馬鹿じゃねぇの!俺が不良じゃなきゃおまえの眼中に俺はいねえよ!」

 とつい言ってしまった。

 なので、それ以来、この伝言?

 はなくなった。


 俺はこの

「不良じゃなきゃよかったのに」

 という言葉がすごく引っ掛かったのを覚えている。


 この頃、考え事をする時は、俺の通う塾の近くにあった

「街のビデオ屋さん」

 というレンタルビデオ屋に行っていた。

 店内に置かれたテトリスにハマっており、いつの間にか上達し過ぎて、テトリス棒狙い縛りでもしない限り、永遠にやり続ける事が出来た。

 唯一、俺に対向出来る生徒が塾にいて、同じ三中の同級生で、マリオに出てくる

「クリボー」

 が困ったような顔した秋森という生徒だ。

 小柄で真面目な生徒である。

 この男は、飲み込みがよくて、俺の持ってるテトリスのテクニックを、全て伝授したので、一応認めていた。

 とは言っても、あくまでも当時の話で、現代のテトリスのレベルは異次元なので、今となっては大した事ではない。


 手を動かしながら色々考えると、不思議と深い世界に入っていけたのである。


 今回のテーマの


 「不良じゃなきゃよかったのに」


 不良じゃなきゃ何がよかったんだ?

 不良じゃなきゃ付き合えたのに?

 いやいや、普通に友達になれたのに?

 いや、不良とは友達になりたくないなら一緒に動物園に行くだろうか?

 そもそも深い意味などないのか?

 だけど、俺なら興味のない人間にそんなメッセージを言ったりしない。

 げんに、一緒に動物園に行った蛍じゃない方(何度もすみません)の女子の事はなんとも思わない。


 考えても答えなど出るはずはないのだが、テトリスをやりながら、何かのテーマについて考えるのは楽しかった。

 結局、最終的には、本当に一字一句合ってるかも分からないし、伝えてきた男子生徒が、面白がって蛍から俺について聞き出しただけかもしれないので、考えても意味がないという結論に達した。


 テトリスをやめる時、普通に死ぬ(積み上げる)のはもったいないので、左手のみで全ての操作を行うチャレンジをしていた。

 左手だけでもなかなか死ななかったが、ほんの少しのミスでも立て直しが出来なくなるので、終わらせる事が出来た。




 結局、終始、俺に比べたら全然頑張っていたサッカー部の今町は、これをきっかけに蛍と話が出来るようになったらしく、俺に自慢気に言ってきた。

 俺は悔しかったが、今町の頑張りを認めていたので何も言えなかった。


 俺にもチャンスは平等にあったのだ。チャンスを掴んだ今町は偉い。

 蛍も今町が好きなんだと思った。

 それなら俺に例のメッセージを送ったとしても辻褄が合ってくる。

 俺を協力者にしたかったのなら、確かに不良じゃない方がいいからだ。


 でも俺は別に蛍を諦める気はなく、いつか絶対話をすると決意し……た。

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