森口博子のホイッスル
俺は相変わらず、ゲームソフトを盗んで売ったりしていた。
この頃は未成年でも買ってくれる個人店の店が沢山あったのだ。
漫画も同様である。
小太りのエバと駅前で遊んでいると、腹が減ったのでサンドイッチをデパートで万引きしようとなり、エバには外で待たせておいて、俺がサンドイッチを二つ持って、隠しもしないで外に出ようとした瞬間だった。
五十歳前後の太った万引きGメンに後ろからガシッと手を捕まれたのだ。
事務所に連れていかれたが、まだ店から出てないし、隠さなかったのが幸いした。
外にいるエバに、このサンドイッチでいいか、確認しようとしただけだと言い張ったので渋々解放された。
次の日学校に行くと、蛍と同じクラスの男子から、どうやら蛍は
「森口博子のホイッスル」
という曲のCDを欲しがっている、という情報を手に入れた。
なので俺はさっそく一人で、駅前の昨日と同じデパートの三階にあるCDショップへと向かった。
CDはそのまま盗むと、出入り口にセンサーがついていて、警報音が鳴ってしまうので、防犯タグを外さなくてはならない。
俺は目当てのCDを見付けると、奥の方へ行ってタグを外した。
ポケットに商品を入れてCDショップの出入り口を通過、もちろん、鳴らなかった。
追ってくる様子もない。
エスカレーターで二階に降りた時だった。後ろから四十から五十歳くらいのおばさんが
「ちょっと通してもらっていいですか?」
と言ってきたので俺は道を譲った。
しかし、俺の前に出た瞬間に、振り返って俺の両腕を掴んできた。
またも万引きGメンだったのだ。
俺は
昨日の今日でこれはやばい!
と思った。
しかも今回は、防犯タグも外してるし、ポケットに隠してるので言い訳も出来ない。
俺は暴れて振り払おうとした。
すると、万引きGメンのオバさんは、近くにいた若い男の店員に助けを求めて叫んだ。
怪我をしたくなかったのか、おばさんからは簡単に抜け出せた。
まるで自分から放したかのように感じた。
近くの店員を呼んだ事で安心したのかもしれない。
ここのエスカレーターは、人一人しか通れない幅しかなく、一階に向かうエスカレーターを走り降りようとしたが、まだ三人ほど途中にいた。
俺は仕方がないのでエスカレーターの真ん中ら辺から一階のフロアへ飛び降り、出口へとダッシュした。
外に出ると三人の若い男が追いかけてきた。
走って行くと、道と花壇の間に若いカップルが歩いていて通れない。
俺は仕方がないので、女の方を思いっきり後ろから吹っ飛ばした。
女は吹っ飛んだが、転ぶ事なく前によろけただけで済んだのでよかった。
隙間をすり抜けて進んで行くと、一人が待ち伏せしていた。
さっきの三人の内の一人に違いない。
俺は右に行くと見せかけたフェイントをかまして左へと逃げた。
後は駅前通りまで走ってひたすらまっすぐ走り、裏路地へと逃げ込んだ。
一応、ここの草影にCDを隠した。
裏路地は袋小路だったが、越えられない高さではなかったので、よじ登って乗り越えた。
その時に何かに引っ掛かったみたいで、来ていたアロハシャツがビリビリと破けてしまった。兄からもらった物だがかなり気にいっていたし、CDより高いので本末転倒だと悲しんだ。
CDを隠したので俺は安心して歩いて一旦家に帰って着替えてから、自転車でCDを取りに戻った。
俺から蛍に貸すのはおかしいので、情報をくれた男子生徒からという事にして蛍に貸した。
俺はかなり苦労した上に手柄も取られて馬鹿馬鹿しいと思った。
一週間後、蛍からCDが帰って来たがあまり嬉しくなかった。
そっち系の趣味はなかったのである。
俺から直接貸せていれば大いに意味があったのに、もったいない事をしたと思った……。