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底から出てもそこは底  作者: 三頭脳
中学二年生
12/117

短ランの入手方法

 

 兄の計算では、兄が着ていた短ランがゆくゆくは俺に渡るように、俺の一つ上の先輩、おしゃべり好きの山先輩に譲ったらしい。

 これにはイケメンの高先輩はとても悲しかったらしく

「なんで俺じゃなくて山なんですか!」

 と抗議したらしい。

 兄的には最終的に俺に渡れば誰でもよかったので、たまたまいた山に渡しただけとの事だった。

 ちなみに巨漢の仁村先輩に着れるはずはないので仁村先輩は除外したらしい。


 俺は山先輩に、その短ランをどうしたのか聞いたら

「仁村に取られた」

 と言ってきた。

 俺はサイズ的に着れない巨漢の仁村先輩が何で?と思った。

 俺が考えた結果、これは俺の勝手な予想だが、憧れの先輩の短ランを他の誰かに渡したくなかった(例え自分が着れなくても)のだと思った。


 兄の短ランは、極ランといって短ランの中でも一番丈が短く、ボタンが四つしかない(ちなみに三つしかないのもあるらしい)。

 もちろん実物を見た事があるがすごくカッコいい、俺もいつか着れると思っていたので残念で仕方がなかった。




 同級生に、茶坊主という男子生徒がおり、俺はこいつが嫌いだった。

 野球部で坊主頭の小柄な生徒だ。イケメンの高先輩との約束を破ったので(内容は忘れたが)、休み時間に教室の隅に座っている茶坊主の顔面を思いっきり蹴っ飛ばしたのを皮切りに、会う度にいじめていた。


 だが短ランを買ってくるように、メモに書いて渡すと、あっけなく警察に被害届を出されて警察に呼ばれた。

 まさか、いきなり警察に行くとは思っていなかったので、驚いた。

 メモで脅した為に、証拠があるので言い訳も出来なかった。

 その時、たまたま盗んで持っていたカイザーナックル(四つの穴に親指以外の指を通して握ると武器になる金属)を警察に没収された事もあり、茶坊主が許せなかったが、また警察に言われると厄介なので、仕方なく放っておいた。


 この件は警察的には未遂だし、大した事件ではないと判断されたのか、簡単な事情聴取だけで終わった。


 両親もこの頃から離婚するしないで、しょっちゅうもめていた事もあってか、この件ではあまり怒られなかった。



 大石中の一個上に本山先輩という、一見、筋肉質で強そうに見えるのだが、気が弱いというか、人のいい性格だった為、大石南中の先輩達からは、なめられていた。

 

 特にイケメンの高先輩は、パシリのように彼を使っており、俺は後輩ながら、なのになんでしょっちゅう大石南中に遊びに来てるんだ?

 と不思議だった。

 

 彼は常に頭にバンダナを巻いていた。


 高先輩は、俺同様、短ランが欲しかったらしく、このバンダナの本山先輩に盗んで来るように指示した。


 ちなみにおしゃべり好きの山先輩は、なぜかセミ短を持っていたし、巨漢の仁村先輩は、サイズ的に無理だと諦めてるのか、学ランを着ないで上だけ私服というスタイルだった。


 彼は了承すると、俺の方を見て

 「盗みに行くのを付き合ってくれないか?」

 と誘ってきた。

俺もちょうど短ランが欲しかったので

 「いいっすよ」

 と快諾した。

 

 俺らはさっそく、その日の内に、隣の大宮市に出掛けた。電車で二駅先だ。

 なぜなら地元の上尾市には売っていないからだ。


 とりあえず、自転車を盗まないと話にならないので、自転車を探した。

 ここが一番苦労するところだと思っていたが、道端に置いてある鍵付き自転車をなんなく見付ける事が出来た。

 店に向かってる途中に見つけたので探してすらいない。

 店の前を通り過ぎると、三十メートルくらい先に階段がある。

 十五段くらい登ると踊り場があって、さらに十五段くらい登りきると、道に出る。

 この階段を登りきった所で、バンダナの本山先輩が、逃げてきた俺を後ろに乗せる為に、自転車で待機した。

 道が高くなっているのは、線路を跨ぐ道だからだ。

 つまり店は大宮駅の東口にあって、その道を通れば西口へ行けるのだ。

 西口の遠くの方へ逃げると見せかけて、途中で自転車を捨てて、西口の駅入り口から電車に乗って帰る作戦だ。

 もちろん帰りの切符はすでに買ってある。

 この作戦は全てバンダナ本山先輩が考えた作戦で、俺はこの人は天才だと思い、ついてきてよかったと思った。


 店に着くと、店頭の端に短ランやセミ短がハンガーで吊るされている。

 しかも運のいい事に、逃げる方向側に吊るされていた。

 俺は買う客のフリをして、学ランを一つ一つ手に取って品定めをした。

 店頭の端っこに吊るされてる割には、なかなか質はよかったが、サイズがすごく大きいのばかりだった。

 唯一あった、普通のサイズのセミ短と形のいい短ラン(この時はそう見えた)の二つに狙いを定めた。

 二つを手に取って、思いっきり例の階段の方へ走った。

 階段を登り始めた時に後ろを確認すると、二人の若めの男たち(一瞬だが二十から四十歳くらい)が追いかけて来てるのが見えた。

 定番の

 「待てー」

 と言った台詞は聞こえなかった。

 もしかしたら言っていたのかもしれないが、駅前なので、騒音も凄いし無我夢中の俺には何も聞こえなかった。

 二十メートル以上差があったので、足に自信のある俺は余裕だった思った。

 もう後ろは振り向かない。

 階段には他に人はいない(そのタイミングを狙ったのだが)。

 転んだり盗品を落とす事なく上まで行くと、バンダナの本山先輩はすでに少し先まで走り出していた。

 俺が乗ってもすぐに走れるように加速していたのだ、

 ナイスだ!本山先輩!

 そう思いながら、自転車の後ろに飛び乗った。

 道は線路を跨ぐために大きく弧を描いているので、大宮駅の西口に渡る頃には階段付近は見えなくなる。

 見えなくなる直前に、後ろを振り返ったが、追って来てる様子はなかった。

 おそらく、自転車の存在に気付いて、階段を登り切る前に諦めたのであろう。


 後は作戦通りうまく行った。

 一番心配していたのが、電車の待ち時間だったが、それも運良くちょうど電車が来ていたので、待たずに乗れた。


 実行犯の俺に権限があるので、俺が普通のサイズのセミ短をもらって、イケメンの高先輩に大きいサイズの短ランを渡す事にした。


 さっそく俺らは、イケメンの高先輩に大きいサイズの短ランを渡しに行った。


 すると、てっきり喜んでくれるかと思いきや、俺がさっそく着てるセミ短の方を見て、

 「なんだよ、これ!俺もそっちのがよかったぞ!」

 と俺ではなく、バンダナの本山先輩にキレ出した。

 「おまえ、もう一回行って来いよ!」

 と言い出したので、俺はさすがにそれは可哀想だと思って

 「じゃあ、いいですよ、俺がそっち着るので、これは(俺が着てるセミ短)卒業するまで貸しますよ」

 この時は気付かなかったが、ちゃっかり両方俺の物にしつつ、恩まで着せていた(笑)

 すると、キレていたイケメンの高先輩は

 「まじかよ、ありがとう!」

 と機嫌が治り喜んでいた。

 

 結局、大きいサイズの短ランは、あのセミ短に比べると、ダサくてほとんど着なかった。

 なのでお手製の短ランで三年生になるまで我慢する事にしたのだ。

 今思えば、サイズがデカ過ぎるだけで、襟の部分とかはカッコよかったので、このデカい短ランの裾を短く切ればよかったのだが、この時は思い付かなかった。

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