エピローグのようなもの……
俺が執行猶予で出て来てから半年後、上尾市の福祉会館にて成人式が行われていた。
俺はすでに仕事して、この時には車の免許と軽自動車(兄が乗ってた物をもらった)を手に入れていた。
まだ父の死のショックが残っていたのと、狂った頭が治ったとはいえ、四ヶ月半もテレビも何もない個室にいた為、社会生活にあまり馴染めていなかった。
喜連川少年院から出た時とは、また違った状態だった。
これも優香とヨリを戻せなかった原因の一つと考えられる。
前回みたいに、すぐに逢いに行く事が出来なかったのだ。
成人式に出席するのもやめようかと思ったのだが、少年院で成人式に出席できず、無念な想いをしていた院生を何人も見てきたので、出れるのに出ないのは失礼だと思って、やはり出席する事にした。
スーツは、イケメンの高先輩に借りた上下黒のポール・スミスのスーツ、他の先輩に借りたグッチのコートとフェラガモの靴、全身、借り物の見せかけばかりの格好だったがそれで充分だった。
日サロに通って、金髪メッシュを入れて成人式に望んだ。
見た目だけは、それっぽくなっていた。
軽自動車で行くのは嫌だったので、ジャガーに乗ってる友達に一緒に乗せてもらった。
会場に着くと、成人者でごった返していた。
友達が建物の裏側にジャガーを停めようとした時、視界に黄色と美人顔の舞が視界に入った。
おいおい、いきなりかよ!
って思った。
というより、すっかり忘れていた。
そりゃ、そうだ、成人式なんだからいるに決まってるよな……。
黄色は二年半振りくらいだけど、舞は中学生以来だから五年振りだ。
心の準備ってものがまるで出来ていなかったので、俺はなかなか車を降りる事が出来なかった……。
なんせ、俺が降りたらすぐの所に二人ともいたからだ。
友達が不審がる限界まで降りなかったが、限界に達したので仕方なく降りた。
俺は二人に気付いていない作戦に出た。
二人とも、俺をめっちゃ見てるのが分かったが、話し掛けてくる事はなく、そのまま通り過ぎた。
その直後に中学で同じクラスだった康恵に会い、話しかけてきたので少しだけ話した。
俺はグルッと回って、建物の正面側に行った。
途中、何人もの知り合いに話し掛けられた。
正面にはキャデラックやらインパラなどが並んで停められていた。
誰のか知らないけど、どうせ知り合いの誰かのだと思って、俺はキャデラックのボンネットに座った。
俺はそのまま、ほとんどの時間、そこに座って周りの様子を見ていた。
元西中生達と焼きそば頭が派手な紋付き袴を来て、騒いで目立っていた。
元太平中の大島やタリ、秋森なんかは俺と同じくスーツ姿だったが、やはり元西中生達と一緒にいて目立っていた。
黄色と舞は、俺の場所から五メートル以内の所にいた。
黄色は二年前、冷たかったから特に話したくなかったが、舞は五年振りなので本当は俺も話したかった。
だが、この時の俺に話し掛ける勇気などなかった。
イカつい顔の竜が早紀と二人でキャデラックに乗って現れた。
早紀とヨリが戻ったとは聞いていたが、二人ともなぜか私服で、それが逆にすごく目立っていた。
早紀は俺と付き合っていた時とはまるで別人の大人の女性になっていた。
街中で見掛けても、もはや分からないレベルだった。
元西中のまさやが日本酒をどこからか持って来て、一人ずつ順番にラッパ飲みし出した。
あらかた飲み終えると
「三頭脳も飲めよ!」
と俺の所まで持ってきたので、仕方なく一口、二口頂いた。
はっきり言って、かなり効いたので飲まなければよかったと後悔した。
意を決したのか、舞が
「三頭脳!久しぶり!」
といきなり声を掛けてきた。
俺は今までずっと近くにいたのに気付いていないのは不自然だと思って、目が見えてない振りをした。
「え?誰?目が悪くてよく見えないんだよ……」
と言って舞に顔を近付けると
「ああ、舞か……」
と素っ気なく言った。
その時、俺はカラーコンタクトを付けてる事を思い出した。
カラーコンタクトを付けてるのに、目が見えないってどういう事だよ!
って思った。
先程の日本酒が効き過ぎて顔を近付け過ぎたのと、俺の意味不明な言動に驚いたのか、舞は元の場所に戻ってしまった。
いやいや、ちょっと待って!
舞!
さすがにこのままではまずいと思って俺は舞を追いかけた。
追いかけて行って舞の正面に立って向かい合った。
五年振りなので、何を話していいのか分からず、少しだけ沈黙の時間が流れた。
ちょっと酔っぱらってる事もあって、とりあえず中一の時の話をしようと思った時だった……。
元大石中の俺の知り合いの男が、どこからともなく現れ、横から舞に
「ねえ?彼氏いるの?」
とナンパみたいなノリで話し掛けた。
舞は少しとまどいながら
「……いるよ」
と答えた。
それだけ聞くと、元大石中の男は去って行った。
俺はなんだかショックだった。
まあ舞ほどの美人なら彼氏がいても不思議ではないが、急に五年の月日の流れという現実に戻された。
なら中一の時の話などするべきではないと思い、俺は精一杯強がって
「なんだ?あいつ!」
と元大石中の男の背中に向かって呟いてから、キャデラックのボンネットにまた座った。
昔から俺と舞が二人で話してると、必ず誰かが邪魔に入る。
これは彼女の持つ魅力がそうさせるのか、よく分からないが、これが俺の人生における舞との最後だった……。
元生徒会長と蛍を見掛けたら謝ろうと思って探した……。
実際、見付けたところで、この時の俺が話し掛けられるわけなどない。
本音は一目、二人の晴れ姿が見たかっただけだ。
結局、誰にも聞く事も出来ず、見付ける事は出来なかった……。
黄色と舞の晴れ姿が見れただけでもマシだと思った。
一応、舞とは話せたし……。
結局、元生徒会長と蛍の姿を最後に見たのは、中学三年生の時に俺が捕まる前のベランダだった……。
元西中生が、みんなで集合写真を撮ろうぜ!
と言い出した。
俺も散々誘われたが、頑なに拒否した。
なんだか知らないが、俺は写ってはいけない気がした。
お前らみたいな表の道を歩いてきた人間と俺は違う。
俺はストーリーにほとんど関わって来なかった裏の人間なのだ……。
それに俺はまだ執行猶予四年という
「底」
にいる状態だ。
ここから這い上がって、いつか俺もおまえらみたいに表の人間になれたら、その時は一緒に……。
この度は、私ごときの半生を最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。
最初は十万文字くらいでまとめるつもりだったのですが、思ったより長くなってしまいました。
二十歳以降は平凡な人生を歩んできたせいか、振り返ってみると、自分でも驚くぐらい二十歳までは濃い人生だったんだなと思いました。
振り返って、思い出したくない事や新たに気付いてしまった事など沢山ありましたが、これもきっと何か意味のあった事なんだと思います。
被害者の方々や迷惑をかけた方々には本当に申し訳なかったと思っています。
改めて、以前の私はとんでもない人間だったのだと思いました。
今後もこの悔いを背負って生きていきます……。
本当にありがとうございました。




