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底から出てもそこは底  作者: 三頭脳
三回目の少年院を出て
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四回目の審判

 

 鑑別所は四回目なので、なんだか落ち着けた。

 課題なんかはいっさいやらなかった……。

 俺はもう鑑別所を完全になめきっていた。

 ある日の朝、俺は眠かったので起きなかった。

 朝の点呼があるので、先生が俺の部屋にやってくると、当然寝てる俺を見て

「おい!」

 と怒鳴ってきたので

「ああっ?殺す気かよ!」

 とキレた。

 それに対して先生は、ドアをガチャッと開けて

「おい!今なんつったこの野郎!」

 と言ってきた。

 俺はギリギリのラインを心得ていたので

「生まれつきの心臓病のせいで発作が起きて起きれませんでした!無理やり起こして殺す気ですか?」

 と喜連川少年院方式で言った。


「ちっ、根性ねえな!」

 と捨て台詞を吐いて去っていった。


 これは後でもつに聞いた話だが、四回目ともなると出入りの激しい鑑別所でも、先生の中に俺の事を覚えている人が何人かいたらしく、もつの所に行って

「あいつ、今回、様子がおかしいけど薬でもやってるのか?」

 と聞いてきたらしい……。



 二週間くらいすると、なぜかテレビ付きの部屋に移動してくれた。

 相変わらず、おかしいと思われていたのか、一人部屋だったが……。

 だが、テレビ付きの部屋に来たのは俺にはあまりよくなかった。

 テレビの中の人が、やはり俺に話しかけて来るように感じたからだ。



 調査官との面接で、調査官に

「今回は歳も歳なので、久里浜少年院に行くか大人として裁判を受けるかどっちか選んでください。それによって考えますから!」

 と言われた。


 そう言われて、初めて気付いたが、もう半年もしない内に二十歳なってしまうのだ。


 それは、かつて前回の鑑別所の時に同じ部屋になった人に相談された内容そのものじゃないか!

 あの時は

「前科が付くから久里浜少年院行った方がいいですよ!」

 って適当に答えたが、それが自分に返ってきてしまった……。

 正直、この時はどっちだってよかった。

 なぜなら、どっちにしても、どうせまたすぐ捕まる気がしたからだ。

 俺はどのみち、このまま一生死ぬまで施設を出たり入ったりする事になるんだと思った。



 そんなある日、座布団一枚だと薄っぺらいので二枚使って座っていると、先生に見つかり

「おい!おまえ!座布団は一枚しか使っては駄目だ!」

 と注意された。


 俺は

「すみません、(先生が)行ったら一枚にしますよ!」

 と言ったのに

「駄目だ!今すぐ一枚にしろ!」

 と言ってきた。

 これには俺はムカついた。

 優香と俺の家に行った時に、父は素直に出て行ってくれたのに……って思った。


 なので、俺は引かなかった……。

「いなくなったら出てく!って言ってんじゃないっすか!」

 当然、先生も引かなかった。

「駄目だ!」


 騒ぎに気付いて、だんだん先生も増えてきた。

「早くどかせ!どかさないと監視部屋に移動させるぞ!」


 後に聞いた話だが、もつは向かいの部屋にいて、この様子をハラハラしながら見ていたらしい……。


 先生が四人増えた時に、もうこいつは駄目だと思ったのかドアをガチャッと開けた瞬間に俺は

「上等だよ!この野郎!」

 と、ブチキレて部屋を飛び出した。


 先生達は、やべえ!

 と思ったのか、驚いて咄嗟によけた。


 俺はもちろん、監視部屋の場所を知っていたので、勝手にその部屋の前まで行き、鍵が空いていたので中に入った。

 初めて入ったが、八街少年院の監視部屋と一緒で、洗面所の水のスイッチは床にあった。

 もちろん、カメラがついている。


 そこからは、やりたい放題だった。

 この鑑別所には、これ以上落とす

「底」

 がないのを知っていたからだ。


 ずっと寝たかった俺は、鑑別所専属の医者に、具合が悪いから寝たいと申し出た。

 すると

「仮病だろ?」

 と言われ

「は?」

 と言うと

「そうだな、具合が悪そうだから風呂は禁止だ!」

 と言われた。

 完全なる嫌がらせだった。


 俺はムカついたので部屋に戻ると、洗面台で勝手に石鹸を使って頭を洗った。

 カメラがついているので、当然すぐに先生にバレて

「おまえ!勝手に何やってんだ?」

 と言われた。


 俺は

「どうせ聞いたって許可されないじゃないっすか!」

 と返した。

「…………」

 それには何も答えずに先生は去っていった。



 畳んで重ねてある布団と毛布と敷き布団を部屋の真ん中に持ってきて、間に入り込み頭と両腕、両足だけ出して

「ガメラ!」

 と言って遊んだが、先生はもはや相手にしてこなかった。



 母が面会にやってきた。

 母は開口一番

「お父さんは来てないけど、別に見捨てたわけではない!って言ってたよ」

 と言ってきた。

 どちらかと言うと父には会いたくなかったので、どちらでもよかった。

 俺が

「今回の事件はでっち上げなんだ!」

 と言うと、母は動揺していた……。



 鑑別所では自由に手紙が出せるので、一応、優香に手紙を書いた。

 なぜ優香に手紙が出せたかと言うと、優香の実家のマンションの部屋の番号と俺が長年住んだ団地の部屋の番号が偶然一致していたので住所を覚えていたからだ……。

 内容は残念ながら全く憶えていない。


 どうせ返って来ないと思いきや、普通に返事が来た。

 これも内容は

「どうして捕まったの?」

 って冒頭に書いてあったのは憶えているが、それ以外は憶えていない。

 俺は大切にその手紙を持っていたので、そんなに悪い内容は書いてなかったと思う……。




 審判の日がやってきた。

 久里浜少年院に行くか大人として裁判を受けるかの結論を俺は結局出していないので、どうなるか分からなかった。


 審判は自分の私服で受けるので、鑑別所の先生に

「服は自由に選んでいいぞ!」

 と言われたので俺は迷わず赤い特効服にした。


 審判にも母しか来ていなかった……。


 裁判官が入廷してきて、俺の格好を見た時、あきらかに驚いた顔をした。

 女の裁判官だった。

 俺が中学生の時、本当は出れるはずだったのに、少年院送りにした裁判官だと思った。

 容姿が似ていたのでそう思い込んだが、実際そうだったかは分からない……。


 俺はこの裁判官を見て怒りが込み上げてきた。

 こいつのせいで人生が狂ったんだ!

 あそこで出れていたら、全然違った人生になっていたはずだ。

 確かに少し人生は変わっていたかもしれないが、懲りない俺では、おそらく大して変わっていなかっただろうに……。


 裁判官を敵視ながら、審判を受けた。


 わざと指を

「ポキポキ……」

 鳴らしてやった。

 これには裁判官は何も触れて来なかった。

 俺は裁判官の質問を全て反論した。

 事件の事はもちろん否認した。


 途中でなぜか優香の事が話に出て来た。

 俺が事件を起こした日の朝、彼女の家にいたからだったと思う……。

 裁判官が優香の事を

「少年」

 と言ってきたので俺は怒って

「女なのに少年って失礼じゃないですか!」

 と言うと

 民法何条何項目だかに少年も少女も一律少年とする、と書かれていると説明してきたので、ああ、そうですか!

 と思って無視した。


「あなたは素直でない……」

 と言われたので、また俺は怒り

「今、素直じゃないって言いましたけど、思った事をはっきり答える事を素直って言うんじゃないですか!?」

 と言ってやった。


 裁判官は、それには直接答えず

「…………分かりました、あなたには大人として裁判を受けてもらいます」

 と言われ審判は終わった。


 俺は勝った!

 と思った。

 何をもって勝ったのかよく分からないが、言いたい放題、裁判官に言ったのでスカッとした。


 こうして俺は拘置所へと移送された……。

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