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底から出てもそこは底  作者: 三頭脳
三回目の少年院を出て
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四回目

 

 今思えば、被害者の高校生くらいの男は、女の人に言われたから交番に来たものの、最初は被害届を出すつもりはなかったと思う……。


 なぜなら、五人くらいの警察に囲まれてはいたが、被害者と向かい合うように座らされ、話し合いの形が取られたからだ。

 被害届を出したならこんな形は取られない。

 それか、被害届を出すつもりで来たが、俺が現れたから気が変わったのかもしれない……。

 この時、謝って財布を返せばきっと許すつもりだったと思う……。


 俺は謝る気など、さらさらなかったが警察に囲まれた事で少し現実に戻った。

 警察に殴った事と財布の事を聞かれると

「俺は殴ってないし、財布は取ってない!落ちてたから拾ったんだ!」

 と目撃者までいるのに、かなり無理な言い訳をした。

 だが、そんなものが通用するはずはなく

「嘘ばっかついてんじゃねえぞ!」

 と一人の警察に思いっきりビンタされた。


「バチィ〜〜〜ン!」


「ふっ、痛くも痒くもねえな!」

 本当になぜか痛くなかった。

 だけど、警察がビンタしてくるとは思わなかった。


「お、おまえは痛くなくてもこいつは痛えんだよ!」

 と被害者の男を指さした。


 被害者の男は

「と、友達です」

 と、かなり動揺したのか、なぜか俺を庇いだした。


 これによって、話し合いの場はなくなり、被害者を説得する為か、俺とは離された。

 俺はパトカーに乗せられて上尾警察署に連れてかれた。



 取り調べ室に入れられそうになった時に、手錠を掛けられたもつとバッタリ会った。

 もつは上下、白い服を着ており、俺を見てかなり驚いていた(赤い特効服を着てるし)。

 俺は、この状況が嘘臭く見えて仕方がなかった。

 もつの驚いた演技はうまいと思ったが、前回の共犯者とまた同じ日に捕まる事などあるわけがない(留置場から来ただけで、この日ではないかもしれないが……)と思った。


 取り調べ室に入れられると

「おまえ、格闘技やってたのか?」

 と聞かれたのでボクシングをやっていたと答えた。

 実際はキックボクシングだが、トレーナーにボクシングを習っていたからか、そう答えた。

「かまえてみろ!」

 と言われたので、トレーナーに教わったやり方でかまえた。


 しばらくして被害届を出されたようで、俺は手錠を掛けられそうになった。

 意味もなくひたすら抵抗した。

 時間の無駄だと分かってはいたが、面白かったので抵抗を続けた。

 二、三分で飽きたので大人しく手錠を掛けられた。

 抵抗したせいか、黒い手錠でギチギチにきつく掛けられたので痛かった。

 武器も使ってないのに、格闘技経験者だと言ったせいか

「強盗致傷」

 と逮捕状に書かれていた。

 俺はまじかよ!

 ハメられた!

 と思った。



 どういうわけか、この時は久喜警察署に移動になった。

 格闘技経験者だと言ったからかは分からないが、十人以上の警察を導入されてパトカーも三台以上使っての大移動となった。

 そこまでするなら俺を上尾にして、今上尾警察署にいる誰かを他へ移動させた方がいいんじゃないかと思った。

 この移動中に、例の長年俺の担当をしていた少年課の黒海が亡くなった事を聞いたのだ……。


 久喜警察署に着くと取り調べが始まった。

 俺は相変わらず否認し続けた。

 少し頭が戻っていたようで、あれはやりたくてやったわけではないと思い、絶対に認めるわけにはいかないと思った。

 それに強盗致傷じゃ、当分出てくる事は出来ない……。



 留置場に入れられると、ひたすらシャドーボクシングをしていた。

 警察にどんなに注意されてもやめなかった。

 なんだか動いていないと落ち着かなかったからだ。


 二日後、検察庁に送られると、待機する小さな牢屋でもつと一緒になった。

 だけど、もつとは一言も口をきかなかった……。

 俺は二回目の鑑別所の時、同じ部屋になった人に見せてもらった二段蹴りをひたすらそこで練習していた。

 特効服の上はロングバージョンなので、蹴る度に

「バサバサッ!」

 とうるさかった。

 周りは耳障りだっただろうが、警察に一回

「うるせえぞ!」

 と注意されただけで、それ以上は誰も何も言って来なかった。

 きっと頭のおかしい奴だと思われたのだろう……。



 検察官にも今回の事件の事を質問されたが、否認した為に、勾留が十日間延びた。

 それと同時に

「強盗致傷」

 から

「傷害と恐喝」

 に落ちた。

 名前が違うだけだが、罪の重さはまるで違うのだ。

 俺は心底よかったと思った。


 だが十日間も留置場にいると、また頭の狂いがひどくなっていき、言動がおかしくなっていった。

 留置場の担当の警察に、太っていて髭がかなり濃いと

 みられる人がいた(青々としていた為)。

 俺はそれを見て隠れキングだと思った。

 こいつを倒せば、ここから出れると思いこんだ。


 俺は風呂の日に檻から出た瞬間、その警察に殴りかかった。

 だが、連日のシャドーボクシングのし過ぎか分からないが、体力がなくいつものキレがなかった。

 フラフラッとヘナチョコパンチを放つと、咄嗟にその警察はパーにした両手でガードしてきた。

 俺はさらに攻撃を加えようとしたのだが、その警察の顔を見て混乱してやめた。

 警察は泣いていたのだ。

 なんで泣いているのか、さっぱり分からなかった。

 今考えると、言動がおかしかったから、ついにここまできたのか、という同情の涙だろう……。


 風呂から出て檻に戻ると、別の警察が俺の所にやってきて

「おまえ、殴りかかったんだってな!」

 と言ってきた。

 この警察も泣いていた……。

 この件を大事にされていたら、俺は公務執行妨害で大変な事になっていただろうが、なぜか大事にはされなかった……。



 相変わらず否認し続けたが、検察官がもう時間の無駄だと思ったのか二十日勾留にしなかった為、俺は四度目の鑑別所へ送られた。

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