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底から出てもそこは底  作者: 三頭脳
三回目の少年院を出て
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三人目

 

 秋森とは、巨漢の仁村先輩の言い付け通り、仲直りした。

 完全に心が折れていた秋森に他の選択肢などなかった。

 空しかった……。

 秋森の白目の部分に血が溜まっていた。

 少し位置がずれていたら失明させていたかもしれない……。

 さすがにやり過ぎたと思った。


 だが時間のない俺は、立ち止まってなどいられない。

 気持ちを切り替えなければらなかった。

 俺にはまだやらなければならない重要な事が残っていたからだ。

 複雑な気持ちとは裏腹に、ここまでの出来事がまだ出院して三日目の出来事なので、俺がノリにノッていた事も確かだった……。



 タリに優香を紹介してくれと頼んだ。

 タリは、なぜか一瞬とまどった表情を見せたが

「いいよ!」

 と了承してくれた。

 理恵の情報は間違いで、彼氏はいないが、付き合いそうな男がいるという事だった。

 まだ付き合っていないなら俺にも充分チャンスがあると思った。

 その付き合いそうな男というのが、タリの元同級生だというが俺は名前も聞いた事がなかった。

 タリいわく、高校デビューで最近イキがっているという話だった。

 相手が真面目な男なら、優香の為に身を引く事もありかもしれないが、そんな中途半端な奴なら遠慮する必要はなかった。

 今回は結果はどうあれ、想いを告げる事が俺のゴールなので、どっちにしても退くつもりはなかったが……。


 優香と連絡取れたら俺の家に電話するという事になって俺達は解散した。

 俺は家に帰り、一階のリビングで、電話の子機を傍らに置いてタリからの連絡を待ったが、いつまで経っても連絡が来なかった……。

 俺はなんだか不安になった。

 こんなに連絡がつかないわけがないと思ったからだ。


 やっと連絡が来たのは十時を過ぎた頃だった。

 タリから

「遅くなってごめん、なんか夜中の二時過ぎなら会えるって言ってるけど、どうする?」

 と俺に聞いてきた。

 は?

 夜中の二時過ぎ?

 少年院で規則正しい生活を送ってきた俺は、すでに眠くて仕方がなかった。

 もう少しタリの連絡が遅かったら眠ってしまっていたところだ……。

 二時過ぎという事は、それ以降ならいつでもいいんだと勝手に解釈した俺は

「じゃあ、朝八時に会おうって言っといて。俺はもう寝るから」

 俺がそう言うと、なぜかタリは驚いた声になって

「え?……分かった!伝えとくよ‼️」

 と電話を切った。

 外にいた人間には理解などしてもらえないのだ。

 説明すれば分かってくれたかもしれないが、いちいち説明するのが面倒臭かった……。


 だけど

「二時過ぎ」

 ってのがすごく気になり、目が冴えて眠れなくなってしまった。

 外の事を全く分かっていない俺は、例の付き合いそうな男と優香が一緒にいるからだと思ってしまったからだ。

 でも結局は眠気に勝てず、寝てたのかウトウトしてたのか分からないが、十二時前くらいに家の電話が一コールだけ鳴った。

 俺は驚いて飛び起きた。

 絶対タリだと思った。

 時間が時間だけに一コールだけ掛けてきたんだとすぐに分かった。

 俺はタリにすぐに電話した。

 タリはすぐに電話に出て

「優香がファミレスに一人でいるみたいだよ……朝まで待ってるって言ってたよ!」

 と言ってたよ。

 俺は?マークでいっぱいになった。

 は?

 さっき二時過ぎって言ってたじゃないか!

 この時間に逢えるなら気合いで起きてたわ!

 と思った。

 だけど朝まで一人で待たせるのは可哀想だと思って

「じゃあ今から行ってくるよ!」

 と言って電話を切った。

 

 俺は電話を切って、すぐにイカつい顔の竜に電話した。

 竜は眠そうな声で電話に出て

「どうしたの?」

 俺はしまったと思った。

 タリが普通にこの時間に起きてたからみんな起きてるものだと誤解していたが、竜は寝ていたのだ。

「ごめん、竜、ちょっと逢いたい女がいたからカッコよくキャデラックで登場させてもらおうかと思ったけど、明日、仕事だよね、気にしないで!」

 と言って電話を切った。


 俺が優香に逢いに行く為に、『メキ』の服を巨漢の仁村先輩に教えてもらったやり方で着ていると、家の電話が鳴った。

 俺は即行で電話を取った。

 幸い親機もリビングにあるので、二階にいる父には聞こえなかったと思う……。

 うちの父は非常識な人間には、やたら厳しかったのだ(息子の俺が一番非常識な人間だったけど)。


「竜だけど!今から行くから待ってて!」

 と言ってきたので

「いやいや、歩いて行くから大丈夫だよ」


「もう向かってるから!」

 と一方的に電話を切られた。

 まじかよ!

 悪い事したなって思った。

 でも正直キャデラックで格好よく登場したかったので有り難いと思った。

 必ずいつかお礼をすると誓った。

 そういえば、どこのファミレスにいるのか聞いてなかったと思って、タリに電話した。

 電話に出たタリに、ジョナサンだと教えてもらった。


 え?

 よりによってジョナサン?

 俺はやっちまったと思った!

 ジョナサンは二階に店があるので、キャデラックで登場しても優香に気付かれないからだ。

 竜よ、ごめん、これじゃただのアシに使っただけじゃないか……。


 竜の実家は、俺が前に住んでた団地からは遠かったが、今の俺の実家からは近かったのですぐにやってきた。


「ドロドロドロドロ……」

 この時間にキャデラックはハタ迷惑なので、俺は通りの道で待っていた。


「ごめん、竜、ありがとう、でもジョナサンにいるらしいよ……」


「え?ジョナサン?」

 竜も全てを理解したようだが、その後は一切嫌そうな雰囲気を見せなかった。

 やはりこの男は他の奴らとは一味違う男だと思った……。


 ジョナサンに向かっていると、竜の携帯が鳴った……。

「もしもし!どうした?タリ?」

 相手はタリだった。

「今?今ねえ……」

 と竜が言ったので、俺が小声で

「謎の少年X28と一緒にいると伝えて!」

 と言うと、竜が笑いながら

「謎の少年X28だって!」

 と言った。


 竜がタリの返事を待ってから

「三頭脳だろ?だって!」

 え?

 何で分かったの?

 と俺はかなり驚いた。

「分かった」

 電話を切った竜が

「タリも来るって!」

 と言ってきた。

 俺は何でだよ!

 って思ったが、確かにタリがいた方が優香をすぐに見つけ出す事が出来る……。

 優香の顔と名前が一致していなかった場合は元より、理恵の一件があったからだ。

 別人のようになっていたら気が付かない可能性があるからだ……。

 俺の知っている優香だったら、捕まる直前にはコギャルになっていたのでそう変化はないと思うが自信は持てなかった。


 タリとタリの彼女も竜のキャデラックに乗り込んできた……。

 俺は優香との再会の時が近付いていたので、緊張して無言だった……。



 ジョナサンに着いた。

 俺達三人は竜にお礼を言ってキャデラックを降りた。

 くそ!

 ジョナサンじゃなければ最高だったのに!

 ごめんよ!

 竜!

 と思った。



 店の中に入ると奥の角に優香はいた……。

 とりあえず優香は、俺の知っている優香で、顔と名前が一致していたので安心した。

 優香は理恵とは逆で一年前より落ち着いた格好をしていた。

 水色のダッフルコートにセミロングの黒髪(前はショートだった)、あれから一年以上経っているが、まだ高二の歳のはずなのにやたら大人びて見えた……。

 というか、理恵の奴、どこがブスなんだって思った。

 優香は相変わらず、俺好みの顔をしていて可愛かった。



 最初が肝心なので、俺は勇気を持って

「朝まで待ってるつもりだったの?」

 と声を掛けて、優香の向かい側に座った。

 タリとタリの彼女がそれぞれ俺と優香の横に座ろうとしたので、俺は

 二人に向かって

「悪いけど、二人にしてくれないか!」

 と頼んだ。

 二人はえ?

 という顔になった。

 特にタリの彼女は四人で話したかったのか、残念そうな顔をしていた……。

 だが、俺にそう言われてしまえば仕方がない……。

 二人はしぶしぶ帰っていった。

 俺は二人には悪いと思ったが、これは仕方がなかったのだ……。

 なぜなら俺には時間がなかったからだ。

 照れ屋の俺は四人だときっと優香とほとんど話す事など出来ないと思ったからだ。

 二人きりなら、もう話すしかないのだ……。


 俺は頑張って優香に話しかけた。

 優香はずっと敬語で、理恵と違って礼儀正しかった。

 話す内容なんて、いくらでもあった。

 なんせ俺らはお互いの事をほとんど知らなかったのだから……。


 不意に優香が

「あそこに座ってるの、吉田さんの弟だよ!」

 って俺に言ってきた。

 優香が指さした方を見ると、若くてイケイケそうなカップルがいた。

 吉田というのは、俺が三回目に捕まる前、やたら名前が売れていた元宮原中の二個下の男の事だった。

 そう言われても、俺はへえ〜、弟なんていたんだって思っただけだった。

 そう言って来るって事は、優香の知り合いなんだろう……。

 もしかしたら、俺が来るまで一緒にいたのかもしれないと思った。

 中学の時に宮原中に一人で乗り込んだ話をしそうになったが、くだらないのでやめといた。


 俺らは朝まで語り合った。

 今思うと、よくそんなに会話が続いたなって思う……。

 つまらない話もあっただろうに、嫌な顔を一つ見せない優香を俺はますます好きになっていった……。


 俺にはどうしても朝まで一緒にいたい理由があったのだ……。


 上尾の駅前で一番早く開くゲームセンターに行きたかったからだ。

 朝八時がそのゲームセンターが開く時間だった……。



 朝八時になって、俺は優香を誘ってゲームセンターに行った。

 優香は元々背が高く、百七十センチ近くあるのになぜかハイヒールを履いていてかなり大きく見えた。

 俺は背が高くないが、背が高い女は好きだったのだ。

 一緒にプリクラを撮ろうと誘うと

「いいですよ!」

 とニッコリ笑って了承してくれた。

 ここで断られたら終わりだったが、俺はこの時、覚悟を決めた。


 プリクラを撮った後、ペンで書き込む時に、俺は

「付き合ってください!」

 と書き込んだ。

 優香は驚いていた。

「答えは任せるよ!」

 と言って、俺は近くにあったビートマニアというDJのゲームをやり始めた。

 もちろんビートマニアなんてやった事はなかったが、テトリスが得意な俺にはやれる気がした。

 だが優香の答えが気になり、全く集中出来なかった事もあって、かなり下手くそだった。


 優香が、出来上がったプリクラを持って俺の所にやってきて渡してきた。

 ビートマニアは途中だったが放ったらかした。

 俺はドキドキしながら、プリクラを見た。


「はい(ハート)」

 と書かれていた。

 俺はめちゃくちゃ嬉しかった。

 中学三年生の夏以来だから、四年半振りの人生三人目の彼女が出来た瞬間だった……。


 少し出来過ぎな気もしなくはないが、今回、行動を起こしたから結果が出たのだ。

 今まで俺はいったい何をやっていたんだ!

 って思ったが、その経験があったから今回に繋がったので決して無意味ではなかった……。


 夜が明けて、出院してから四日目になってしまったが、俺は早くも二つの目的を両方達成してしまった……。

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