二年生の始め
二年生になると、野獣がいなくなったので俺の格好もだんだんと派手になっていった……。
太めのボンタンと、手先が器用なエバに作ってもらった普通の学ランを改良した短ラン(高くて買えなかった為)を着て行った。
初めて自家製の短ランとボンタンを着て学校に行った日、野獣の代わりに生活指導となった先生に呼び出された。
この先生、身長百八十五センチくらいあり、体重はゆうに百キロを超えていたであろう、元円盤投げのオリンピック候補生とかで中学生の俺からしたら、化け物みたいな体格の人間だった……。
兄が在学していた時にもいて、スパルタンXの三面のボスと言われていたらしい……。
野獣に比べたら根が優しい性格なのだが、新年度早々という事もあり、パフォーマンスか知らないが、朝礼中なのに、真っ直ぐ俺の所にやってきて
「おまえ、そんな格好で来るなら帰れ!」
と言ってきた。
その為、俺は全校生徒に注目される羽目になった。
エバはその様子を遠くから見ていたらしく、立ち上がった俺の姿がカッコよかったと、俺を褒めるというよりは、エバ自身が作った短ランの出来栄えを褒めるような言い方で誇らしげに、後に語ってきた……。
その日はなぜか言われた通りに素直に帰った。
学校の近くに隠しておいた自転車で家に帰っていると、白バイとすれ違った。
白バイなんて珍しいな……
俺らの住む団地付近ではほとんど、というか全くと言っていいくらい白バイを見かけない。
と、のんきにそんな事を考えていたら、白バイがUターンしてきた。
俺はその時ハッとした。
やばい……その時乗っていた自転車が、盗んだ物だったからだ。
今朝、歩いて登校してきた時に、団地内で鍵付きの自転車を見かけたので盗んできたのだ。
白バイ隊員は俺の横に白バイをつけると、
「平日なのに学校はどうした?」
と声をかけてきた。
いつもなら警察は嫌いなので、適当か、ぶっきらぼうに接するのだが、変な態度を取って自転車を調べられたら困る。
なので
「いやぁ、学校に行ったんですけど、この格好で行ったら先生に帰れと言われたんですよ」
と俺は愛想よく接した。
白バイ隊員は、三十代くらいの男だ。
俺の全身を見て、半分納得したような顔をしている。
そして
「だからと言って帰すのはよくないな……」
と独り言のように呟いた。
その言葉から察するに、どうやら俺の言う事は信じたが、学校側に不満を持ったようだ。
「後で確認しておくので、生徒手帳を出して、学校名と学年と名前を教えて」
と言われた。
やべえ!
と思った。
なぜなら、この盗んだ自転車の前輪のカバーに、持ち主の名前がしっかり書いてあるからだ。
しかも、無駄にでかい字で内側に書いてあるので、俺からも白バイ隊員からも丁度よく見える。
「生徒手帳は持っていません」
と、とりあえず言った。
最初から俺みたいな格好した奴が、生徒手帳をまともに持ち歩いてるとは思ってなかったようで、まあそうだろうなといった表情をしている。
一瞬、この自転車の持ち主になりきるか迷ったが、一瞬では判断がつかず、ボロが出そうだしやめた。
正直に本当の名前等を告げた。
「ん?じゃあその自転車は誰のだ?」
やっぱり来たぁ!
結局、聞かれたので仕方なく
「◯◯君に借りました」
と自転車に書かれてあった名前を言った。
名前しか書いてないので、いくつぐらいの人が乗ってるのか分からないので、賭けだった。
だが、これにはさすがに疑いを持ったようで、無線で自転車の持ち主の照会を始めた。
聞き慣れてない無線は何を言ってるのかよく分からない。
しばらくして照会を終えるとニコッと笑って
「君の言ってる事は本当のようだね」
と言われた。
どこまでの照会を行えるのか分からないが、少なくとも今朝盗んできたばかりなのだから、盗難届けはまだ出ていなかったのである。
「学校には連絡しておくから気をつけて帰りなさい」
そう言って白バイ隊員は走り去っていった。
あぶねえっ!助かった!
なんとなく助かった事に感謝して、自転車は元の場所らへんに戻しておいた。
今思えば、たまたまだがこの行動は正しい(元々間違ってはいるが……)。
後で盗難届けが出て、呼び出される可能性がない事もないからである。
この件で警察から学校に連絡があり、家に帰した事を注意されたようで、同じ格好をしていっても帰される事はなくなった。
結果的には俺にはいい方に動いたのである。




