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底から出てもそこは底  作者: 三頭脳
三回目の少年院
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八街少年院 その⑥(読書感想文発表会)

 

 先生から読書感想文発表をやらないかと持ち掛けられた。

 俺は喜連川少年院の時に何の賞も取れなかった事が悔しかったので

「是非やらせてください!」

 と言った。

 読書感想文発表する本はすでに決まっていた

「明日をめざして」

 という川越少年刑務所について書いてある本にした。

 もうこれ以上捕まりたくないという俺にはピッタリの内容だった。

 これ以上捕まらなければ刑務所に行く事はないからだ。

 今回は水府学院や喜連川少年院の時の型にはとらわれず、淡々と感想を書き、最後に

「私はここで最後にして絶対に刑務所には行きません」

 という決意を強く記した。

 今書いているこの自伝の原点とも言える書き方だったと言えるだろう……。

 この時ももちろん全て暗記した。

 全て暗記した事を先生に言うと、予科生の前だけで練習会を開いてくれた。

 有り難かったが、予科のみんなには内容が全てバレるので二回聴かせるわけだから、正直これは有り難迷惑だったが……。


 八街少年院は映画を見る視聴覚室のような部屋で行い、マイクを使わない方式だったので、俺はこれならイケると思った。

 各寮から二名ずつ、計八人、俺は最後の発表者だった。

 七人の発表を聴きながら、心の中で何回も通しで練習した。

 はっきり言って間違えたり忘れたりしなければ俺は絶対に最優秀賞が取れると思った。

 三回目の少年院の集大成で、自分で言うのもなんだがあきらかにレベルが違うと思ったからだ。

 暗記している者も俺だけだった。


 俺の発表の順番になった……。

 俺の名前を呼ばれた時、他の七人の誰よりも大きな声で

「ハイ!」

 と返事をして壇上に上がった。

 壇上に上がると、自信があったので作文用紙すら出さなかった。

 この時、俺が階級降下になるより前に一寮西へ行った院生達は俺が何で赤バッチなのかと不思議に思った事だろう……。

 暗記している為、みんなの顔を見ながら発表出来たわけだが、喜連川少年院で一緒だった黒人とハーフと見られる院生(この時にはすでに希望寮にいた)と目が合った時は少しだけ動揺しそうになってしまったが、それ以外は完璧だった……。


 俺は見事、最優秀賞を勝ち取った。

 予科の先生からも誉められた。

 この時の経験は自分への自信につながり、後の人生でみんなの前で挨拶したりする機会に大いに役立つ事になった……。



 階級降下になると、謹慎が終わった日からちょうど一ヶ月経った日に黄色バッチを渡された。

 進級式に関係ないので変則的だと思った。

 四月の中旬の事だった。

 これはもしかしたら年内に出れるかもしれないと思って計算したが、来年の一月の中旬が出院予定なのでやはり無理だった。

 だがここで真面目になりさえすれば、まだまだ長い人生が残っているのだ。

 再来年からはずっとクリスマスと正月を外で過ごせばいいだけなのだ。


 五月になって、ようやく俺は一寮西への転寮が許された。

 十一月の頭にこの少年院に来たのだから、半年間も予科寮にいた事になる。

 予科寮だけで水府学院にいた期間を越えてしまったのだと考えると、なんだかせつなくなってしまった……。

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