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食堂警備隊

食堂警備隊1─探偵社をクビになったので自営業で飲食店の警備を始めました─

作者: 髙橋朔也

 俺、宮本誠二(みやもとせいじ)照本寛二(てるもとかんじ)探偵事務所で、依頼解決数トップのエースである。別に自慢ではない。俺みたいな優秀な者がエースにならないわけがないのだからだ。

 今もちょうど、俺は依頼人の夫の不倫の証拠をつかむために後を追っていた。すると、不倫夫が動きを見せた。待ち合わせをしていたらしい若い女と合流し、派手なフランス料理店に入っていった。ちょっと(?)値段高そうな店だが、依頼を解決するためには仕方の無いことだ。照本社長が代金を払ってくれるはずだ。いい機会だし、フランス料理店に入ってみよう。俺はそう思って店に入店した。

「お客様、何名様でしょうか?」

『見りゃわかるだろ、彼女いない歴=年齢の悲しい無一文だ! どっからどう見ても一名様だよ! 早く席に座らせろよ』と、言いたかった。だって、実際にそうだし......。生まれてこの方、彼女がいた時期などない。俺は東大大学院を卒業したほど頭も良いし、それにルックスだって悪い方ではない。身長も178センチメートルでそれなりには高い。なぜ、この俺がモテないのか。小学校五年生から不思議なのだ。バレンタインにチョコなど、一つも貰ったことはない。義理チョコすら、女子はくれなかった。あ、やっべ! 目から涙がこぼれてきた! 店員が変な目線を俺に向けてるよ! やっべ!

「えっと......い、一名です!」

「わ、わかりました。あちらの席にどうぞ」

 店員は空いている席を指差した。

 大きな声で一名だと言ったら、席に座っているバカップル共が哀れみの目で俺を見てきた。舐めてんのか、お前ら?

 メニューを渡された。それをパラパラとめくって絵柄がうまそうなものを注文した。会社持ちだから、値段を無視して注文が出来る。すがすがしい気持ちだ。こういうときは探偵で良かったと心の底から感じる。

 おっと、不倫夫が若い女とイチャついている。手を握った。よし。証拠写真としてはナイスな絵柄だぞ! 早速、胸ポケットから頭が少し飛び出した万年筆の頭頂部のボタンを一回カチッと押した。この万年筆には小型カメラが搭載されている。万年筆のボタンを二回ノックすると動画になり、一回だと画像になる。今撮った写真はほとんど差もなく、社長のパソコンに送られる。

 っにしても、不倫夫の隣りに座る若い女は美人だぞ! 童顔だ。俺の好きなタイプにドストライク! 外見についてはクリアだ。あとは性格だが、不倫夫がブスだが金持ち、という点から考えると目的は金だけか。性格はノーだな。

 あ、良いな。女が不倫夫に『あーん』ってやって、何かを食わせた。何てうらやましい!

「お客様、ご注文されたワインと料理をお持ちしました」

「ありがと」

 昼からワイン。神様はお許しくださるだろうか。いや、休みなしで毎日働いた俺だから神様も笑って許すはずだ。うん。よだれ出てきた。

 店員が目の前から失せたら、すぐに飯を口の中に運んでいった。うまい。何かわからんが口の中でドロドロの液体の旨みが広がった。うまい!

 俺は食レポ向いてないことがわかった。

「すんません。ワイン、同じものをもう一つください」

「承知しました」

 最近ワインを飲んでいなかったから、どんどんワインを飲んでいくことが出来る。このフランス料理店はうまいワインを置いてんな。まあ、値段かくっそ高いから二度と来ることはなさそうだ。

 ちょうど俺が全て胃に入れた時に、ターゲット達も会計を済ませていた。俺も椅子から立ちあがって、値段を尋ねた。

「三万五千円です」

「三万五千か」

 サイフの中を覗き込んだ。千円札三枚、その他紙幣や小銭はない。結論、所持金三千円で選択肢は食い逃げしかない。

「あのさ、照本寛二探偵事務所って会社に請求してよ」

「?」

「じゃあな!」

「あ! 食い逃げだ! 誰か!」

「違ーよ、馬鹿!」

 だが、俺の言い分も聞かずに店員二人が追いかけてきた。今日はこれぐらいで、事務所に戻るのも悪くない。そうしよう。俺は全速力で事務所に向かって走り出した。

 階段を駆け上がって、事務所に入った。

「宮本、戻りました!」

 そのまま社長室の扉をノックした。とうぞ、と聞こえたからドアノブをひねって部屋に足を踏み入れた。

「君か」

「社長、送った写真を見ましたか?」

「ああ、見たとも」

「本日は引き上げてきました」

「何を言っているんだい?」

「へ?」

「君は今朝、解雇したんだよ」

 ごめん、もう一度言ってくんない? まったく言葉の意味が理解出来ないんだけど。

「社長、どういうことですか?」

「早朝にメール送ったはずだよ。君、見てないの?」

 俺は急いでポケットに入っているスマートフォンの画面を指でスライドさせた。一通のメールが来ている。解雇通知だ。

「私がなぜ、クビ切りなのですか?」

「うーんとねぇ、他の社員とまったく連携を取ろうとしないからだよ。探偵で重要なのは、連携だよ」

「え? 俺、クビですか?」

 2020年5月2日、宮本誠二は探偵社をクビになりめでたく無職になったわけだ。

「では、先ほど不倫夫を追いかけるためにフランス料理店に入って注文した代金は?」

「君はその時点でここの社員ではないから、君が払うことになる」

 終わった。銀行の預金残高は一万円。二万二千円足りないじゃないか!

 それから、二万二千円親から借金してフランス料理店に代金を払った。今住んでいる家も家賃が高いから、家を引き払って実家に無理矢理転がり込んだ。

「誠二! 会社をクビになったとは本当なのか!」

 こいつは、俺の馬鹿親父。俺と同じで今は年金暮らしの無職のくせに、偉そうにしやがって。

「そうだけど、何か悪いのか?」

「悪いぞ! また母さんを困らせるのか!」

「職業見つかるまではフリーターやってくつもりだ。実家広いし、一部屋借りるくらい良いだろ」

「ならん! お前は男のくせに股にチンが付いてない! フリーターなど、男の考えることじゃない」

「下ネタかよ......」

「あと半年で定職に就け。それまでは三階の奥の部屋を使ってもいい。半年を過ぎても定職に就いてなかったら、あの部屋にいる場合は家賃を取る」

「普通、実の息子にそんなこと言うのか?」

「俺のムスコはチン一つだ」

「また下ネタだよ、まったく」

 何とか半年は実家に住めそうだから安心した。三階に上がって荷物を運び込んだら、ノートパソコンで職探しを始めた。中古車屋とか楽しそうだ。リサイクルショップとか、あとは教師の免許持ってるから先生でもやってみようか。

 そんなこんなで晩飯の時間になった。腹が鳴り出したから、唇を舐めて一階まで降りていった。

「親父、晩飯まだ?」

「何を言っている。ここは言わばアパート、お前は入居者で俺は大家。なぜ大家が入居者のために飯を作ってやるんだ?」

「このくそ親父! コンビニで何か買ってくるから金貸してくれ」

「すでに二万二千円借りている。貴様に渡す金はない」

「俺は何を食えばいいんだよ......」

 こうなったら、夜にこっそり冷蔵庫の中の飯を食ってやろう。そう思った。そして、夜を迎えた。俺は足音を出さずに一階まで降りたら、冷蔵庫を開けて皿に取り分けられた唐揚げをタッパに数個詰めた。もう一つタッパを出すと、炊飯器からご飯をたっぷりとしゃもじで取って詰めた。ニヤリと笑って、三階へと上がっていった。タッパを皿の代わりに、鉛筆二本を箸の代わりとして使って腹を鳴り止ませた。

 タッパはこっそり一階のキッチンで洗った。首尾は上々である。

 次の日、寝ていた俺は誰かに頭を蹴飛ばされて起きた。頭を蹴った輩は、皆さんおわかりだと思う。

「親父! テメェ、痛えよ!」

「勝手に唐揚げと白飯食っただろ!」

「......いや、食ってない」

「炊飯器のご飯が一部欠けていた」

 あちゃー! ご飯の上の部分を薄く取り出せばバレなかったのか......。次からは気をつけよう。

「その顔、次もやる気だろ? 次やったら、強制退去だ」

「へい」

 頭を掻いて時計に目を向けた。正午ぴったりだ。枕元で充電していたスマートフォンを手に取った。昨日バイト募集してた近くのラーメン店からメールが送られていることに気づいた。そういえば、バイトに応募したんだった。

 メールの内容は、今日の午後二時に面接。時給五百円と給料が超高い。だから応募した。

 相手の言って欲しいことを予測して答えるのが特技の一つにある俺は、面接など余裕だ。すぐに採用されるだろう。バイト内容も簡単そうだし、このラーメン店で定職に就きたいくらいだ。

 スマートフォンでゲームを一時間ほどして、午後一時になると服を着替えた。リュックにサイフ、スマートフォン、実家の鍵などを入れると革靴を履いて玄関から外に出た。スマートフォンで地図を確認しながらラーメン店まで到着すると、門扉をくぐった。

「アルバイトに応募した宮本です」

「おお、来たか。週何日で来れるかな?」

「週六で来れますよ。頼みとあらば週七でも大丈夫です」

「うん。採用だ」

 え? 今ので採用?

「採用、早くないですか?」

「バイト応募がなかなかないから、面接に来たら即採用と決めているんだ。じゃあ、厨房に立って手伝いをしてくれればいいから」

「わかりました。厨房に立てば良いんですね?」

「そうだ」

 俺は渡された白衣を着用して、厨房に立った。

「君、帽子をかぶってくれ」

「は、はい」

 白い帽子を頭に乗せた。やがて、ラーメン店は『開店』と店の前に表示された。

 このラーメン店は客足が少なく、仕事もあまりないから楽だった。しかし、その一時間後にこのラーメン店の過酷さを知った。サングラスを付けた人相の悪い奴らがゾロゾロと入ってきて、ラーメンを頼んでから大声で叫び始めていた。『ここのラーメンはまずい』だの『内装が汚い』だのと言って、それからラーメンを一斉に厨房に投げてきた。嫌がらせじゃねーか!

「おい、バイト! こんなまずいラーメンで金取る気かよ?」

「いや、あんならまだ食ってないだろ!」

「あぁ?」

 店長は俺の頭を叩いてから、こいつらに何度も頭を下げた。だからバイトも来ないし客足も少ないのか。

 グラサン集団が帰ってから、俺は店長に言った。

「何で謝るだけなんですか!?」

「君にはわからないかもしれないが、大人の事情というものもあるんだよ」

 俺は四十半ばだぞ。まったく、失礼な店長だぜ。

「それで、君はバイトを辞めたりはしないのかね?」

「不躾ではありますが、辞めさせてください!」

 店長は涙目になっていたが、こんなことに関わりたくはない。素早く着替えて店をあとにした。 親父には今日のことを説明して、またバイトを探し始めた。が、そう簡単には見つかるわけがない。暇だから他の飲食店でも今日のような嫌がらせがあるのか調べてみた。すると、他の飲食店でもかなり嫌がらせということはあるらしい。飲食店の経営者は大変な職業だと知った。

 一週間が経ち、二週間が経っていった。親父も結構キレてきていた。そろそろこの部屋に乗りこんでくるかと考えていたら、その予感は的中してしまった。

「誠二!」

「うん」

「前に、ラーメン店に嫌がらせがあると言っただろ?」

「ああ、言ったが......」

「調べたら他の店でも嫌がらせはあるんだ」

「うん」

「飲食店の嫌がらせをする輩を捕らえる仕事をしたら儲かるんじゃないか?」

「うん......え?」

「飲食店の警備員を自営業でしてみたらどうだ? それならば、無期限無償でこの部屋を事務所として使わせてやっても良いぞ」

 この部屋が無期限無償で使えるなら、じゃあ自営業やってみようということになった。

 そうなると今の時代は便利である。インターネットで『食堂警備隊』というサイトを作り、自営業用に購入したガラパゴスケータイの電話番号を書き込んだ。二日後、ガラケーが鳴り出した。一週間は電話はないと思っていたから焦ったが、一応電話に出てみた。半ば迷惑電話かもと感じたが、ちゃんとした依頼の電話だった。

「もしもし」

「どうも、えっと、食堂警備隊の電話で合っていますか?」

「はい、食堂警備隊です」

「今日から三日間、食堂警備を頼みたいです」

「わかりました。では、お店の住所と店名を言ってください」

「店名はフランス料理店『ボンジュール・タカノ』で、住所は──」

「え? 店名をもう一度言ってください!」

「ボンジュール・タカノです」

 もしかして、その店は......。


 親父のミラジーノを勝手に拝借して、住所のところまで向かった。そしてわかった。依頼してきた店は、俺が食い逃げしたフランス料理店だ。おどおどしながら、言われた通り裏口から入店した。

「食堂警備隊です」

「あ、君は食い逃げの......」

 こいつはあの時レジ打ちやってた奴だ。「店長さんは?」

「僕が店長の高野玉谷(たかのたまや)だけど?」

「こ、これは失礼」

 レジ打ち、店長だったのか!

「それで、今回は私はどのようにすれば良いんですか?」

「別に嫌がらせに困っているわけではないんだ。だけど最近は外国人のお客様も増えたので他のお客様の安全を考えて、今回食堂警備を依頼した」

「なるほど。では、私は客として客席で監視しているので怪しい人物がいたら教えてください。インカムを使うので、逐一不審人物がいるのなら共有しましょう」

「わかりました」

 俺は客席に座り、客一人一人をじっくりと観察していた。元々人間観察が好きだから、これくらい苦でもない。店長いわく、外国人とハゲのおっさんは要注意。ハゲのおっさんが要注意なのは見た目がアウトなだけで、金持ちかもしれないだろ。

 午後二時になってあくびをしたら、店長からインカムで連絡が入った。外国人が一人来店したのだという。入り口に目を向けると、少し肥満した外国人が現れた。金髪で、六十代というところだろう。痩せたら渋みがあって格好が良いはずだ。

 腕を組みながら、横目で外国人を見ていた。席に座ってワインだけを頼み、ゴクゴクと飲んでいった。俺も飲みたくなってきたから、店長に許可を取って一番安いワインを注文した。金髪外国人はワインを二本飲み干すと、次に料理を注文。勢いよく食べていった。その後すぐに店を出た。迷惑客ではなかったようだ。

 腹も減ったが、値段が高いから料理を注文したくはなかった。それを知ってから知らずか、店長は無料で料理をごちそうしてくれた。

 またインカムから店長の声が聞こえてきた。ハゲジジイ入店に厨房は荒れているのだと言っていた。見てみると、ハゲと言えばハゲだが側頭部にはかすかに髪が残っている。ジジイ、その髪だけは命に代えてでも大切にしてくれよ。

 さて。店長がハゲハゲうるさい。悪い人には見えないが、直視できない。なぜ直視出来ないのか考えてみたら、照明が頭に当たって明るく光っていてまぶしいからだ。ポケットからサングラスを出して、かけた。ハゲがちゃんと直視出来た。

「店長。ハゲって何で要注意なんですか?」

「僕の親父がハゲなのだが、親父は嫌がらせが得意なんだ」

 くだらねぇ理由だったか。そういえば、俺の親父はハゲてないな。髪の量が、俺が大学生の時と遜色(そんしょく)ない。あ、でもカツラかもしれない。今日帰ったら確かめてみよう。

 ハゲはワイン飲んで店を去った。ハゲと外国人は何人か来たが、いずれも嫌がらせなどはやらずに店を出た。食堂警備、必要ないと思ってきた午後五時頃。一人の長髪外国人が入ってきて、椅子に腰を下ろした。値段の高いワインと値段の高い料理を注文した。着ているスーツからも金回りが良いことがわかる。嫌がらせはしないだろう。

 喉が渇いたから、サングラスを外してワインを飲んでいった。するとインカムの奥が騒がしい。

「店長、どうしましたか?」

「長髪の外国人が店員ともめたみたいです。あなたから見て、左斜めの方です」

 顔を左に動かした。「いました。怒っていますね。あの、私が店員になって対応したいのですが良いですか?」

「かなり怒っているようですし、ここはプロにお任せします。裏口から回ってきてください」

 ここからは俺のターンだ。 裏口から入って店長と合流し、着替えてから長髪外国人の元に向かった。

「失礼しました。内の店員が何かしましたか?」

「Who are you(誰だ君は)!?」

 バリバリ英語か。だが、英語なら少し出来る。

「Can you explain what happened(何があったのか説明していただけますか)?」

「I was eating, but I took that meal with me(食事中だったのに、その食事を持って行かれたんだ)」

「So that's it (なるほど)」

 そのことを店長に伝えるために、長髪外国人にはその場で待ってもらって厨房まで帰った。

「店長。あの長髪外国人は、店員に食事中だったのに食事を片されたと言っていました」

「そのことはさっき店員に聞いた。だが、あの外国人が片してくれ、と言ったらしい」

「なら、あいつを捕らえますね」

「いや、待ってくれ。店員が嘘を言っていた場合、あのお客様には悪いし店に悪い噂が流れてしまう」

「用心深いな」

「どちらが噂を言っているのか見分けてくれ」

「といっても、英語は少ししか出来ない。英語がうまく出来る店員はいますか?」

「いるよ」

「なら、その店員をあの外国人の元まで向かわせて情報を引き出してください。あと、お皿に食事がどれだけ残っていたか知りたいです」

「お皿を片付ける最中に長髪外国人が怒ったらしいから、空いた席のテーブルにあの人の食事を置いたと言っていた」

「空いた席?」

「あそこだよ」

 店長が示した空いた席のテーブルには、お皿が一枚置かれていた。ナイフとフォークの先を屋根の形みたいに、皿の中央でクロスさせている。海外の食事中のサインだ。その皿には食べ物が少し残っている。微妙な量だが、長髪外国人が怒るのはわかる気がする。

 店長と話して、俺は皿を片付けた店員と話すことになった。

「初めまして、食堂警備隊の宮本です」

「店員の片山です」

「あの長髪外国人は、君に何と言って片付けさせたんだ?」

片言(かたこと)な日本語で『皿ヲ片付ケテクレ』と言っていました」

「何か、怒ってお金などを要求されたりはしましたか?」

「マネーが何とかって言ってました」

 やっぱり、長髪外国人の方が怪しいな。ただ、この店員が嘘を平然と言っている可能性もあるし、見抜くことは難しいな。

 防犯カメラがあったら良いわけだ。店長に聞いてみたが、防犯カメラ一台しか設置されてないし、その防犯カメラの映像は粗いから拡大してみてもはっきりとはわからない。どのように判定すればいいかわからんし、嘘発見器もないからなぁ。頼みの綱は英語が出来る店員が長髪外国人からいい情報を引き出してくれることを願うばかりだ。

 十数分経つと、英語が流暢(りゅうちょう)な店員が戻ってきた。

「長髪外国人はなんて言っていた?」

「名前はホープ・バングレー、アメリカ人だそうです。日本には旅行で来ているらしく、この店に入ったけど店員の態度が酷いと怒っていました」

「それだけ?」

「ずっと同じことを繰り返し言って怒ってました」

 ホープは無駄なことしか言っていなかったようだ。これは解決不可能だと思った時、あることが気になってスマートフォンで調べてみた。何分か経過し、ホープが嘘をついていることを理解した。高校では柔道をやっていたから格闘術は心得ている。百均で見つけたアルミ製の手錠をポケットに入れて、警備服に着替えて厨房から飛び出した。

 客はガヤガヤ騒いでいたが、それにも関係なくホープを床に倒して両手を後ろに回して手錠を掛けた。動きを封じるように太ももに乗っかった。店長はすぐに警察を呼び、事情を説明してからホープの身柄は警察に引き渡された。ちなみに俺は、新米なのだから危険なまねはするな、と警察に怒られた。また、パーティー用の手錠だからこれからはちゃんとした武器を使え、とも言われた。百均のあの手錠、パーティー用なのか。

 ホープが警察と一緒に去った後、店長が(うな)っていた。

「どうしたんですか、店長?」

「君、君だよ宮本君」

「私ですか?」

「何でホープが嘘をついているとわかったんだ?」

「食事のマナーです。ホープの食べていたお皿のナイフとフォークの置き方は欧州、つまりヨーロッパの置き方です。調べてみたら、アメリカで食事中にナイフとフォークを置く場合のやり方は皿の中央ではなく縁で屋根の形みたいにするらしく、ホープのとは違います。つまり、ホープは『ヨーロッパの人間(多分イギリス人)』なのに、『アメリカの人間』と偽っているとわかりました。で、ホープが嘘を言っている可能性が高いと判断して捕まえたのです」

 おそらくホープは、身元がバレると後々逮捕されるかもしれないと考えてアメリカ人だと偽ったのかもしれない。そこんところは、警察がくわしく取り調べるから俺の領分じゃない。

「さすがはプロだ」

 今日が初仕事だが、それは伏せておくか。

「では、食堂警備隊のサイトの方の口コミで褒めちぎってくれれば嬉しいです」

「わかった。口コミで褒めちぎっておくよ。あと二日も頼んだよ」

「はい!」

 翌日、翌々日は何の問題もなく終わった。初日が一番大変だったのだ。

 店長は脱帽した。「三日間が終わったね。三日の代金はいくらくらい?」

「まだ決めてませんでした......うーん?」

「なら、10万で良いかな?」

「え? 飯食ってあくびしていただけですよ!?」

「いや、いてくれただけで安心した。これからも頼むことはあるかもしれないから、よろしく」

「ありがとうございます!」

 初仕事、給料は10万円。この仕事がかなり儲かると知った。

 次回作、投稿してます。広告欄の下の方にリンクがあります。

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