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未来の嫁を最強にしてみた  作者: 寺田 秋
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第1章-7話 なりたい自分

「やめろ!」


 俺が叫ぶと、鬼童丸は振り返ってこちらを睨んできた。


「小学生の時に四年間野球をやってた俺の肩を、なめるなよ!」


 俺は石を鬼童丸の顔面に向かって投げる。しかし、石はペチッと肌に当たり跳ね返っただけで、全くダメージは無さそうだった。


「何やってるの与正くん⁉ やめて!」


 未来ちゃんは泣きながら俺の手を掴んできた。


「だってさ、このまま見殺しにするなんて、俺にはできないよ!」

「だからって、そんな意味のないこと────」

「意味がないかどうかは俺が決める!」

「えっ⁉」

「ここで逃げたらかっこ悪い……。そんなの……俺がなりたい俺じゃない!」

「…………っ!」


 未来ちゃんは目を開き、ハッと衝撃を受けたような顔をする。


「……って……私だって! なりたい自分になりたい!」

「だったら!」

「でも! 私にはできない……!」

「えっ⁉」


 一言目を聞いて内心ガッツポーズをしていた俺にとって、それは衝撃の言葉だった。


「与正くんはちょっと体力がないだけで、大体何でもできるから、何もできない私の気持ちなんて分からないんですよ!」

「はぁ⁉」

「ただ名家に生まれ育っただけで、周りから期待の視線を向け続けられて、いつもみんなと比べられて、上手くいくのは当たり前で、ちょっと失敗すれば怒られて……」


 (うつむ)く未来ちゃんは頭を抱え、へたり込むようにその場に座り込む。


「私は……私じゃない誰かになりたい……」


 俺は何も言えなくなった。

 今日知り合ったばかりの赤の他人にここまでの心の闇を見せられたら、俺には掛けてあげられる言葉が何も見つからない。


「何やってるんだ、こいつら……」


 鬼は呆れた様子でこちらを観察していた。

 鬼童丸も同様に動きを止めている。


 茫然と立ちつくしていた俺は突然、猛烈な吐き気に襲われた。


「うっ……!」


 吐きそうになり、手を口で塞ぐ。

 激しい頭痛がする。


(ダメだ! ダメだダメだダメだ!!)


 頭の中で知らない声が響く。


(お願いだ……彼女を……助けてあげて!)


 誰の声だ……?

 いや、そんなことはどうだっていい。

 俺だって思いは同じだ。

 彼女を助けたい。

 プリピュアは、目の前で悲しんでいる人のことを見捨てたりはしない。

 立ち止まってなんかいられない。


 急にスッと吐き気が治まった。

 少し困惑したが、そんなことはお構いなしに俺は再び未来ちゃんの正面に立つ。


「未来ちゃん。実は俺、笛有与正じゃないんだ」

「……?」

「俺はこことは違う世界の人間で、何故か今はこの子の身体に乗り移ってる。だから、笛有与正じゃない」

「…………」

「俺もキミと同じ、何もできない奴だった。いや、キミと違って変わろうとする努力もしていなかったから、ただのクズだね」


 未来ちゃんはただ黙って俺の話を聞いている。


「そんなんだったから俺は、楽しいことが何もなくて、上手くいくこともなくて、生きることも面倒臭くなってた。何でもできる人って羨ましいなぁ、何をやっても楽しいんだろうなぁ、生きることが苦じゃないんだろうなぁって勝手に思ってた」

「……」


「でも、そうじゃないって、俺の大好きな人が教えてくれた」

「……?」


「何でもできるから楽しいんじゃなくて、楽しいと思うから何でもできるんだって」

「あっ……」


「俺は気付かされたよ。ただ羨ましがってたただけで、自分から何かを楽しもうとすることなんてしてなかったって」

「…………」


「俺は無理矢理にでも楽しもうと、色んなこと経験しに沢山の場所へ行き、沢山の人と出会った。そしたら、少しずつだけど本当に俺の心は変わっていったんだ」

「…………」


「けど、今まで楽しいと思えなかったことを、自分一人で楽しいと思えるようにするのはやっぱり難しいって分かった」

「…………」


「だから未来ちゃんには、俺がまた楽しいと思えるように、何でもできる俺になれるように──── 手伝ってほしい」


 俺は笑いながらそう言って、スッと手を差し出した。


「私……は…………」


 未来ちゃんはゆっくりと顔を上げ、俺の目を見つめる。


「私も……」


 未来ちゃんはゆっくりと手を伸ばす。


「私も、楽しいと思えるようになりたい……!」


 伸ばされたその手は、しっかりと俺の手を掴んだ。

 俺はその手をしっかりと握り返し、未来ちゃんの身体をグッと引き上げた。


「未来ちゃんとならなんでもできる! なんでもなれる! さぁ、行こう!」

「うん!」


 俺たちは再び互いの手を強く握りしめる。


「「あやかし纏身!!」」

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