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未来の嫁を最強にしてみた  作者: 寺田 秋
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第1章-6話 鬼

 文字通りの鬼の形相を目の前で見た俺は息が詰まった。

 「殺される」と本気の殺意を感じたのは、今まで生きてきた中で初めてのことだった。


 鬼は脚を鞭のようにしならせ、俺を蹴り飛ばそうとする。

 その瞬間、鬼の脇腹を捉えるように高速で飛んできた棍が直撃し、鬼を森の奥へと吹き飛ばしていった。


「はぁ……はぁ……ほんと、馬っ鹿じゃないの⁉ まともに戦えもしないのに、前に出てくるなんて!」

「す、すみません……」

「まぁ、そういうの、嫌いじゃないけどね……。ここは、あたしたちに任せなさい!」


 鬼童丸を目前にし、俺たちの前で構える玲さんのその背中はとても大きく、頼りがいのあるものだった。

 だが、玲さんの声には気迫だけでなく、焦りの色も混ざっていた。


「「噴き荒れろ! 七点(しちてん)溌灯(はっとう)!」」


 玲さんたちは再び棍を召喚し、それを地面に叩きつけると、地面から七つの炎の柱が噴き上がった。炎の柱は鬼童丸の足を捉え、体制を崩させる。


「これで……!」

「「舞い踊れ! 剣乱(けんらん)業火(ごうか)……!!」」


 棍から噴き出した炎がいくつもの火の剣を作り出し、それを鬼童丸へと叩き込もうとする。

 が、火の剣を振り下ろそうとしたところに先ほどの鬼が現れ、玲さんの腹に拳を叩き込んだ。


「がっ……!」


 勢いよく飛ばされた玲さんは岩を砕くように壁に激突する。

 変身は解除され、気絶した二人はその場に倒れ込んだ。


「悪ぃな。割と善戦してたから手を出したくなっちまったぜ」


 鬼は首をコキコキと鳴らしながら二人の方を見て言った。


(あ、駄目だ……これ)


 あの二人が太刀打ちできないのなら、俺たちが対抗できるはずもない。

 ただ、殺されるのを待つしかなくなった。


「どしうたお前ら、変身しないのか?」


 鬼が俺たちの方を見て尋ねてきた。


「ん? その家紋……もしかしてお前が四ツ目んとこの娘か? だったらさっさと変身して戦え! 俺はお前と戦いに来たんだ!」

「……っ!」


 鬼は未来ちゃんの服に描かれた家紋を見て、四ツ目家の人間だと気付いた。

 未来ちゃんは怯え、頭を抱えてしまっている。俺は未来ちゃんの前に立ち塞がったが、恐怖で脚が震えてしまっていた。


「……まさか、変身できないとか言わねぇよな?」

「くっ……!」


 鬼は冗談まじりに尋ねてきたが、その予想はズバリ的中していた。

 俺たちは、戦えない……。


「おいおい冗談じゃねぇぞ! 俺は強い奴と戦いに来たんだ! だから四ツ目家があるこの村に来たってのに……クソッ!」


 鬼は荒れ狂い、傍にあった大木を殴る。 大木はメキメキと大きな音を立てながら倒れた。


「もういい、お前ら帰れ」

「えっ……?」

「今のお前らを倒しても意味がない。変身できるようになったらまた相手してやるから、今回は助かったと思って大人しく帰れって言ってんだ」


 見逃された。

 その無力さ故に。

 悔しい。何もできないことが、こんなに悔しいと思ったことはなかった。

 目の前でみんなが必死に戦っていても、俺たちにできることは何もなかった。


「あの、この後この人たちをどうするつもりですか……?」

「あ? 殺すに決まってるだろ。本物の馬鹿かお前は」


 そりゃそうだ。反抗してきた者たちをそのまま放っておけば後々面倒なことになるのは間違いない。奴からすれば、ここで始末しておくのが最も賢い選択だ。

 俺たちは、みんなを守ろうと戦った人たちを見殺しにする代わりに生き残る権利を貰った。


「鬼童丸、そいつらを始末しろ」


 鬼は鬼童丸に向かって、倒れた玲さんたちを始末するように指示をした。

 俺は手の震えが止まらなかった。

 これから目の前で人が殺されてしまうというのに、俺は、何もできない……。


 俺がヒーローだったら、特別な力を持っていたなら、こいつらと戦ってみんなを助けられたかも知れない。

 でもそうじゃない。

 ただ無力であるという現実が俺に突きつけられる。


 鬼童丸が一歩ずつ玲さんたちの方へ近付く。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……私が出来損ないなせいでごめんなさい……私がもっと努力できたら、私がもっと心を強く持てたら、私が……もっと……」


 未来ちゃんは泣きながら頭を下げて謝っていた。


 俺にとっては未来ちゃんは十分に凄い人間だ。

 でも本人は、本当に自分に自信がないんだ。

 正直、その気持ちは分かる。俺も同じ、自己肯定感の低い人間だったからだ。

 でも俺は変われた。プリピュアのおかげで。

 未来ちゃんにもプリピュアを見せることができたなら、彼女も変われたかも知れない。

 だが、今そんなことを考えたって意味がない。


 いや、プリピュアは生き様だ。

 俺はその生き様を見て感動し、自分も変わりたいと思えたんだ。

 だったら……



 俺がプリピュアになればいい!

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