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未来の嫁を最強にしてみた  作者: 寺田 秋
3/10

第1章-2話 ヨセイ

 (かわや)と呼ばれてイメージするような雰囲気のトイレに行った俺は、用を足しつつ頭の中で情報を整理していた。


 プリピュアが好き。

 大空あおいちゃんは可愛い。

 俺の嫁は最高に可愛い。

 プリピュアの最終回が見たい。

 なのに気がつけばこの世界へ。

 そして、誰かの身体に乗り移っている。

 更には知らない美少女が幼馴染になっていた。


 この身体の本来の持ち主は今どうなっているのだろうか?


…………。


「そんなことはどうっでもいい!! 帰りたい! 元の世界に帰りたい! 帰って最終回が見たい!!」


 俺はトイレから飛び出して叫んだ。この気持ちを押し殺しておける訳がない。

 こんなの、アニメの最終回を見られずに死んだも同然の状態だからだ。

 大好きな嫁の物語の結末を見ずに死ねるだろうか? いや、死ねない。


「そうだ! 俺をこっちの世界に飛ばした神様! 居ますか⁉ 居る感じですか⁉ 居たら返事してください!!」


 主人公がいきなり異世界に飛ばされてしまうというアニメをいくつか見てきた。大体の作品には、異世界へと飛ばされる要因となった神様的な存在がいる。主人公に干渉したりしなかったりするらしいのだが……。

 俺はわずかな希望に賭け、天に向かって声を張り上げた。


「お願いします! 俺を元の世界に返してください! 最終回をリアタイしたいなんてわがままは言いません! 録画で我慢するんで、どうか! どうか俺を元の世界に!!」


────返事は無かった。


「こらぁヨセイ!!」


 代わりに、背後から男の怒声が聞こえてきた。

寄井(よせい)拓男(たくお)」が俺の名前。

 図らずも俺の苗字が呼ばれてしまったので、身体がビクッと反応してしまう。

 振り返った直後、竹刀を持った小柄な男が飛び跳ねて、俺の脳天に拳骨をかましてきた。

 ゴンッという鈍い音が響く。


「痛ってぇぇぇ!」

「なにが痛いじゃ馬鹿もん! 訳の分からんことを大声で叫びおって! 近所迷惑じゃろうが!」


 あんたも大概うるさいぞ……と言いたくなったが、怪我をしている頭に拳骨を喰らったので、痛くてそれどころではなかった。

 俺の目の前では、白髪交じりな短髪に道着を着た高齢の小柄な男が仁王立ちをしている。


「はぁ……、ただでさえ先が心配だというのに、遂に頭までおかしくなってしもうたか?」

「頭がおかしいのはそっちでしょう⁉ いきなり他人の頭を殴るなんてどうかしてますよ! 痛たた……」

「他人じゃと? 冗談も大概にせい! それとも、お前は爺ちゃんの顔も忘れられるほど不義理な男なのか⁉」

「爺ちゃん⁉」


 もしかすると、この高齢の男性はこの身体の持ち主の祖父なのかも知れない。面倒なことになってしまった。


「……ヨセイ、事故のせいで本当に頭がおかしくなってしもうたのか?」

「えっと……確認なんですけど、ヨセイって俺のことですよね……?」

「…………」


 『爺ちゃん』は口を開け絶句する。


「俺、事故のせいで色々と記憶が飛んじゃってるみたいでして……」


 話をややこしくしないために、俺は記憶喪失だという設定に徹することにした。


「なるほど、だからか……」


 爺ちゃんは腕を組み、ふむふむと一人で納得するように頷いた後、深くため息をついた。


「ワシはお前の部屋から泣いて出ていく未来ちゃんを見て、まさかお前が何かしたんじゃないだろうかと探しに来たんじゃ」

「未来ちゃん……?」


 あぁ、あのピンク髪の子の名前は『未来』っていうのか。


「ワシは悲しいぞ……」

「ごめんなさい、記憶喪失になんかなっちゃって」

「いや、自分の名前すら忘れとるのは確かに悲しいことじゃが、何より悲しいのは、女の子を泣かせておいてそのまま放ったらかしにしていることじゃ! ワシは悲しいぞ! 男なら追いかけんか!」

「えっ⁉ あっ、はい!」


 俺は突然の怒声とあまりの正論に驚き、即答した。

 確かに、女の子を泣かせたままにするなんて男として情けない。そんなんじゃ、俺のなりたい『俺』になれない。

 俺は未来ちゃんを追いかけるためにその場から走り出した。


「よし! それでこそ笛有(ふえあり)家の男じゃ!」


 爺ちゃんがまたも腕組みをうんうんと頷いている。

 俺は家の敷地から出て、村の道を走り抜ける。


────つもりだった。


 しかし俺は、家から出て3秒で爺ちゃんところへと戻った。


「あの、未来ちゃんはどこに居ますか?」


 爺ちゃんは、とんでもない早さで戻ってきた俺を見て、呆れ顔でずっ転けた。

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