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未来の嫁を最強にしてみた  作者: 寺田 秋
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第0章 嫁

 俺には『嫁』がいる。

 嫁とはつまり『大好きな人』ということ。

 俺の人生を変えてくれた、大好きな人だ。


────────────────────


 俺の名前は寄井(よせい)拓男(たくお)。19歳の大学生だ。


 高校生までの俺は、勉強もできず、運動もできず、誰かから褒められたり評価されることはなかった。そんな状態で、学生生活が楽しくなるはずもなく……。

 楽しいことはテレビゲームをすることくらい。毎日、学校から家に帰ってはゲーム機の電源を点けていた。

 そんな生活をしていれば当然、親からは「勉強しろ」と言われてしまう。勉強をすることで、将来の選択肢を増やすことができ、自分のためになることは馬鹿でも分かる。

 だが、その「将来」に希望を持てない者は、勉強どころか生きることすら億劫なのだ。


 当然、そんな俺の進路希望調査票は白紙。

「やりたいことはない?」と親や教師から聞かれても、無いものは無いのだ。

 このペラペラな紙と同じ、悪い意味で真っ白な人間だった。


 流れに身を任せ、近場の大学へと進むことが決まった俺は、退屈で鬱屈とした日々を送っていた。


 そんなある日、俺はとあるアニメに出会った。

 日曜朝に放送されている女児向けアニメ『プリピュア』だ。

 俺はその女児向けアニメにハマってしまった。


 今振り返ると、何故こんなに女児向けアニメにハマってしまったのか、その理由はハッキリとは分からない。

 でも、キャラクターたちがイキイキと、キラキラと太陽のように輝き、一歩ずつ前へと進んで行く様を見て、真っ暗闇だった俺の心に光が差し込んだんだ。


 このアニメの主人公は「大空あおい」という女の子。

 彼女こそが俺の『嫁』だ。

 『嫁』は現実の妻ということではなく、ネットスラングで「最愛の二次元キャラ」という意味だ。


 彼女は言った。


「ここで逃げたらかっこ悪い……。そんなの……私がなりたい私じゃない!」


 その言葉を聞いて驚いた。

 キャラクターではあるが、こんな13歳の子供が明確に「理想の自分」を持っていて、それを実現するために行動を起こしていることに。

 もうすぐ大人の仲間入りをしようかという年齢の自分には無いものを、彼女は持っていた。

 何だかとても恥ずかしくなった。

 そして、彼女のことを猛烈にカッコいいと思った。


 この時、俺の中にも「なりたい自分」が生まれた。


 それからの俺は変わった。

 彼女が笑えば俺も笑う。

 彼女が泣けば俺も泣く。

 傍から見れば俺はとんでもない変人だが、これこそが俺の心に光が差したという証拠なのだ。

 

 プリピュアにハマってからは色々と目標ができた。

 アルバイトを始め、身だしなみに気を使い始め、十人十色なオタクたちと交流を始めた。母親からも「最近変わったね」と言われるくらいに変化していた。

 生きる活力に溢れ、前向きになったと自分でも思えるほどに。

 どれもこれも彼女のおかげ。

 彼女に恥じない男になるためだ。


 そんな俺の人生を変えてくれたプリピュアが、最終回を迎える。


 俺は不思議と寂しくなかった。彼女から貰ったものはあまりにも大きく、俺の人生が終わるまでずっと、心の中で支え続けてくれると思えていたからだ。

 最終回、俺はそれをリアルタイムで見たい。そこで彼女に感謝の気持ちを送りながら、最後を見届けたい。そう考えていた。


 そして、最終回放送当日。


 俺は人生最大のやらかしをした。前日深夜にバイトのシフトを入れてしまっていた。


「やっちまったぁぁぁぁぁ!!」


 夜勤のアルバイトを終え、大雨が降る中、家への道を全力で走る。

 退勤が朝の8時。放送開始は8時半。

 バイトを終え、着替えを済ませて全力で帰ったとして、家に着いてから自室のテレビを点けるまでに掛かる時間を加味して、合計約25分。間に合うはず……。


 頭上を雨雲が覆い、ゴロゴロと雷が鳴っている。

 俺はそんな天気のことに構いもせず、交差点で信号待ちをしている時も、もも上げをしてしまうくらいには焦っていた。

 歩行者信号が青になり、誰よりも速く道路へと飛び出す。


「はぁ……はぁ……もうすぐ家だ! 行ける! 間に合う!」


 その直後、強烈な吐き気に襲われた。俺は横断歩道を渡る脚を止め、腹部を手で抑えた。

 頭上では雷の音が鳴り響いている。

 吐瀉物を吐き出しそうになった瞬間、とてつもない轟音が耳に入ってきた。

 そして、俺の身体から自由が奪われた。


 鮮やかな景色を消し去るように、俺の視界は真っ白に染まっていった。


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