18 窮地
『正直あの狙撃手が一番厄介でした。ですので彼? 彼女? には早めに退場して頂いた次第です』
「ケイヤ……ミチルは本当に」
「あの爆発じゃ……くそっ!」
ケイヤは握りしめた拳を地面に思い切り叩きつける。
(何故、気づかなかった俺は?! あいつの秘術はどう考えても長距離も射程に含めるものだった。少し考えれば分かった事だろう! なのに俺は!)
危険の知らせかた、詠唱の止め方、後から思えばいくらでも思いついた。
だが、現実は一人の優秀な狙撃手をなくしてしまった。
その事にケイヤは深く後悔する。
しかし、そんなケイヤの腕をハヤトは掴み立ち上がらせる。
「何を諦めているんですか」
「ハヤト……」
「こんなところで諦めたらいつものミチルにどやられますよ。「ほら、リーダーならしっかりしなよ」って」
その言葉にケイヤは失われた狙撃手について思い出す。
(ああ、そうだ。そうやっていつもあいつは「朝焼けの団」を支えてくれた……なら)
ケイヤは脚に力を込めて立ち上がる。
「リーダーがいつまでも倒れてちゃあいけないな!」
そうやって折れかけた心を奮い立たせケイヤは再び戦闘に戻る。
だが、依然と状況は厳しいままだった。
もし、ユウイチを一人で逃せば間違いなく阿修羅はケイヤ達を無視して追う。
しかし、このまま行けば、助けが来ればいいが来なければジリ貧の状態。
そんな中、ケイヤは思考を巡らせ一つの作戦をハヤトに小声で提案する。
「ハヤト、これから俺がありったけのソウルをチャージする、そして「爆風の鉄槌」で隙を作ったうちに全力で逃走するのはどうだ?
その間、お前には堪えて貰わなければならないが……」
「ふふっ、何を今更。私はこの団の盾役ですよ?」
「そうだったな、悪い。それじゃあこの作戦で行くぞ」
「了解です」
『話は纏まりましかぁ?』
痺れを切らせたのか阿修羅は二人の会話に割り込む。
「ああ、待たせて悪かったな!行くぞハヤト!」
そう言った瞬間、ケイヤが後ろに飛び去り太刀を突きの状態に構え、ハヤトが大盾を持ってケイヤの前に出た。
「はぁああああ!!」
ケイヤは体内にあるソウルを風に変換し、太刀に集中させる。
「爆風の鉄槌」はチャージした風の量と集中させた具合によって威力が大きく変化する。
故にケイヤは残されたありったけのソウルを太刀に流し込む。
『そう簡単にさせるとお思いですか?』
阿修羅が一本踏み出すが、その前にハヤトが堂々と立ち塞がっている。
「ここは行かせません!」
『そうですかぁ。クフフッではさっきの続きと行きましょう』
そう言うと阿修羅はその剛腕全てをゆるりと構える。
構えられた大砲の様な腕の標準が銀の大盾に集まった。
『果たしたてどこまで耐えられますかねぇ!』
瞬間、ハヤトに暴力の嵐が降り注ぐ。
一撃、一撃が常人が食らえば即死レベルの攻撃が絶え間無くハヤトち打ち込まれる。
まるで重さ何百キロの岩が延々と降り注ぐような状態を繰り広げていた。
「ぐっーーぶっーーぐはっ!」
しかし、ハヤトはそれを意地で受け続ける。
もはやこの時ハヤトには、ほぼソウルは残っていなかった。
ソウルで強化した肉体は徐々に元に戻り、「鉄壁」のスキルもほぼ消えかかっている。
しかし、ハヤトは阿修羅の攻撃を一歩も引かず受け続ける。
全てはケイヤに時間を稼ぐため、そして自分に出来た後輩を守りきるため。
『クフッ、素晴らしですねぇ。よもや私の攻撃をここまで受け切ろうとは、感服しました』
そう言うと阿修羅は攻撃の手をピタリと止める。
そして、一本の右腕を高らかに掲げる。
するとその右腕に阿修羅が放っていた黒いソウルが凝縮され始め、遂には拳にとどまる。
阿修羅の行った行為をハヤトは知っており、傷だらけの満身創痍の中、力なく呟く。
「まさか……そこまで」
『あなたに最大限の敬意を込めて』
拳に纏う黒いソウルは歪な音を発し、ハヤトの息の根を止める。
その時、ケイヤのチャージが限界にまで達した。
足元に発生させた疾風に乗り、拳を振り抜こうとする阿修羅に渾身の一撃を叩き込む。
「【剣技】【風ノ型】爆風の鉄槌!!」
恐らくそれはケイヤのプロフェッショナルとしての人生最高威力の一撃だった。
極限にまで集中された風はケイヤの突きとともに阿修羅の胸部へ超近距離で解放される。
その一撃は爆風で阿修羅の巨体を遥か後方に吹き飛ばすーーはずだった。
『ふんっ』
ケイヤが放った渾身の一撃は阿修羅から放たれた二つの掌底にいとも簡単ににかき消された。
(そんな……馬鹿な)
自信もあった、勝算もあった。
しかし、その両方はかき消された爆風と共に消えた。
そして、突きを放ったケイヤの背に死神がまとわりつく。
阿修羅は滞空するケイヤを下から拳で突き上げる。
「ぶふっーー!!」
更に少し浮かび上がったところで右手と左手を合致させハンマーのように浮かび上がったケイヤを容赦なくはたき落した。
「ーーーー」
叩きつけられた地面は小さなクレーターを作り、それからケイヤが起き上がる事なかった。
「ケイヤ……」
ハヤトは後方に叩きつけられた仲間に視線を送る。
普段ならばあれは自分が受け切らなければならなかった。
だが、満身創痍である身にハヤトは自分の力不足にただ歯をくいしばるしかなかった。
『お待たせしました。それではあなたの健闘を讃え何か言い残すことはありますか』
目の前の六腕の怪物が死を告げる。
そんな怪物に対してハヤトははっきりと言った。
「くたばれ、クソ野郎」
『さようなら』
そして、死の鉄槌は下った。
阿修羅の手に凝縮された黒いソウルはまるで火柱のごとく、ハヤトに直撃して天高く立ち上がった。
『……死にましたか、クフフッ。ですが、あなたは相性が悪そうなのでここまでにしておきます』
そうして打ち抜いた拳を戻して、鋭い視線を遠くで見守っていた少年に向ける。
『では、あなたの番ですーーおや?』
阿修羅は少し驚いたような顔をする。
それは阿修羅の視線の先に立ち上がる影があったからだ。
それは、先程の盾役を倒した少し前に恐らく致命傷を与えた男ーーケイヤだった。
『クフフフフッ! 大人しく寝ていれば見逃してあげたものを!』
阿修羅は脚に力を込めて跳躍、そして血だらけの男の前に立つ。
もはやどう言う原理で立っているのかも分からない、だが黒髪の剣士は両の脚で立っていた。
『一応聞きますが、まだ逆らう気はありますかぁ?』
「…………」
ハヤトは言葉を返すことはなかった。
しかし、両目で鋭く睨みつけ反抗の意を示す。
それを受けとった阿修羅は何も言わず自身の鋭い爪を刀を上段に構えるように上げた。
そして、勢いよく振り下ろす。
『初めからそうしていれば良かったものを。
クフッ……クフフフフフフッ』
だが、振り下ろされた爪はケイヤを断ち切ることは無かった。
何故ならーー
「もう、止めろよ。俺が狙いなんだろ!」
阿修羅とケイヤの間にユウイチが割り込んでいたからだ。
十八話を読んでいただきありがとうございます。
どうだったでしょうか今回の話?
あまりにも圧倒的な力に敗れ去る「朝焼けの団」そしてケイヤの間に割って入ったユウイチ。
次回はいったいどうなるのでしょうか……
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