17 それは突然に
『それでは行きますよ、精々足掻いて私を楽しませて下さいねぇ。クフフフフフッ』
そう言うと阿修羅は自身の剛腕で近くにある折れた電柱を片手で鷲掴みにする。
「ハヤト、十秒間耐えてくれ!」
「分かった!」
ハヤトに十秒間任せたケイヤは素早く離脱してユウイチの元へ急ぐ。
「ユウイチしっかりしろ!」
ケイヤがユウイチの肩を激しく揺さぶり、正気に戻す。
すると硬直状態だったユウイチが正気に戻った。
「はっ……お、俺は」
「いいかユウイチ、なるべくここから離れるな、遠くに行かれると俺たちでも守りきれない」
「でもケイヤさんは!」
ユウイチの心配を受け取ったケイヤは出来るだけ恐怖を悟られぬよう力強く言葉にする。
「安心しろ、絶対にお前のところまで行かせねぇよ!」
ハヤトは大盾と剣を構え阿修羅と相対した。
二人が相対することによってその体格の差が歴然となった。
阿修羅の体格は約十メートル近く、ハヤトの軽く五倍近くの体格差があった。
(体格差から予想して先ほどの巨大猪の膂力の倍以上と考えて良いでしょう)
ハヤトにとってSSランクとの戦闘はこれが人生初だ。もちろん他の「朝焼けの団」の団員もSSランクの怪物との戦闘経験などない。
故にハヤトはいつも以上に相手の体格から力量を慎重に推測した。
間違いなく力は巨大猪以上、もしかしたら全てのステータスが遥か上を行く可能性さえある。注意すべきはあの六腕。どこから攻撃が飛んできてもおかしくはない。顔が三つあるので死角はほぼ無いでしょうね。
立てた推測に対してハヤトは冷や汗を一つかく。
『それでは……さようなら』
高らかと掲げられた電柱が勢いよく振り下ろされる。
(速い!!)
想像以上の速度で振り下ろされた電柱が大盾を構えたハヤトを捉えた。
「ぐっーーーーーー!!」
阿修羅の膂力が加えられた一撃はハヤトの想像の遥か上をいった。
建物の倒壊に巻き込まれたかのような重みが大盾を持つハヤトを押しつぶす。
盾が鮮やかな火花を散らし、受け止めたハヤトの足元に亀裂が走る。
「かはっ」
しかし、『朝焼けの団』の盾役は見事に防ぎきった。
その事実に阿修羅は満足そうに微笑む。
『クフッ、今の一撃を受け止めますかぁ。あなたスキル持ちですねぇ』
「…………随分と人間に詳しいんですね」
『ええ、貴方達はとても興味深いです。それ故にーー』
再び阿修羅は電柱を高く構える。
『是が非でも私のものにしたいッ!』
阿修羅は先ほどのよりも更に力強く振り下ろす。
(連続はきつい!)
だが、振り下ろされた電柱がハヤトを直撃することは無かった。
それは振り下ろされる過程で爆散した。
そして更に阿修羅の顔、右腕一本、左腕二本に無色の衝撃波が生じる。
(ありがとう、ミチル)
ハヤトは心の中で桃髪の狙撃手に感謝する。
普段はああでもミチルは戦闘ではとても役に立つ。
ミチルは師を銃の天才と言われる「狙撃神」とし、その実力は折り紙付きでシングルランクへの昇格はほぼ確定であった。
「私も負けてられません!」
そう言うとハヤトは剣を放り捨て大盾を両手で握り、両脚をソウルで強化。
そして、そのまま脚の力を大盾に乗せ阿修羅に突撃する。
「【盾技】【無ノ型】盾の衝撃!」
『クフッ』
阿修羅はそれの攻撃に対して空いていた右腕で打ち迎える。
『!』
だが、阿修羅の右腕はハヤトの大盾に軽く弾かれて腕に鈍い痛みを与えた。
そんな痛みが残る右腕を見て阿修羅は何故か満足げに頷く。
『クフッ……クフフフフフフッ! やはり素晴らしいあなた達、人間は! その小さな体で良くここまで私の様な怪物と渡り合う!』
「満足してくれたなら大人しく引いてはくれないか?」
そこでユウイチを戦闘から遠ざけたケイヤがハヤトの隣に並び立った。
『それは出来ない相談ですねぇ』
「だろうと思った」
『では、私を気を昂ぶらせてくれたあなた方に敬意を込めて。少し面白い物を見せて差し上げましょう』
「何?」
すると阿修羅は剛腕の先にある岩の様な手の人差し指を立てる。
そして、それは紡がれ始める。
怪物の身である自分ができても当然と言うように。
『【火よ、炎よ、煌々と燃え上がれーー】』
それを聞いた途端、ハヤトとケイヤは驚愕する。
怪物が人間の技である【秘術】を詠唱している事に。
普通ではそれは絶対に成功などするはずがない、そもそも詠唱から推測するに火の秘術である。
属性持ちでない限り発動など絶対に不可能である。
だが、驚くべき事に阿修羅の指先に火の玉が顕現した。更にその火の玉は徐々に巨大化を始める。
「な?! 秘術の詠唱だと?!」
「馬鹿なあり得ません!」
「まずいハヤト! あれを何としても止めさせる!」
危機を感じたハヤトとケイヤが詠唱を即時、止めにかかる。
「【剣技】【風ノ型】乱風刃!」
ケイヤの太刀が風を纏い、鋭い風の刃が放たれる。
しかし、それを阿修羅は全て手のひらで受け止める。
更にその手のひらからは血の一滴も出ていなかった。
先程戦った巨大猪とは桁違いの防御力である。
『【我の炎は全てを焼く、恵をもたらさず、破滅を与えるーー】』
阿修羅の詠唱は止まらず、まるで迫り来る時限爆弾のカウントの様に刻一刻と進む。
その、カウントを止めるべく遠方より銃声が響く。ミチルの衝撃弾である。
だが、それさえも阿修羅は正確無比に弾の弾道に手を置いて全ての衝撃波を手のひらで封じ込めた。
「嘘?!」
遠方の狙撃手はその事実に動揺する。
『【全て燃え去り、灰燼に帰すがいい】』
「朝焼けの団」の抵抗も虚しく、遂に阿修羅の詠唱が完成してしまう。
指先にあった炎の小球はすでに何倍にも膨れ上がり小さな太陽と化している。
「くそっ! ハヤト頼む耐えてくれ!」
「任せてください!」
詠唱の阻止はこれ以上不可能と判断したケイヤは盾役のハヤトの背に素早く身を隠した。
ハヤトは自身の身に残る全てのソウルを盾と肉体に回し強化に当てる。
そして、六腕の怪物からその暴虐的な術は放たれた。
『【秘術】【火の型】滅炎』
それは阿修羅の指から放たれ全力の防御の姿勢を取っているハヤトに直撃せずに、ハヤトの遥か後方に放たれた。
放たれた小さな太陽は凄まじい速度で飛びそして炸裂した。
凝縮された炎は巨大な爆発を巻き起こす、そして炎は膨大な熱量を放ち辺り一帯を炎で巻き込み全てを焼き尽くした。
「どう言う事ですか、わざと外したのですか?」
自分を狙わず何故か遥か遠くを爆発させた事にハヤトは疑問を持つ。
だが、ケイヤは全てを理解しそして青ざめ、その方向を見る。
そこはーー
「てめぇええええ!!」
『邪魔なハエは殺しておかないと、クフフフフフフフフッ』
「朝焼けの団」桃髪の天才狙撃手。
ミチルが狙撃地点にしていた方角だった。
十七話を読んでいただきありがとうございます。
読んだら分かると思うのですが、え?まじで?って言う展開になりました。
いったいこの怪物はなんなんだ?
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