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プロフェッショナルズ!!!〜世界最強の弟子が英雄になる話〜  作者: 向野ソーリュー
第一章 旅立ち編
16/35

16 帰路

「これがプロフェッショナルの本気……」


 何というか、さっきも思ったけど次元が違うなぁ。

 ミチルさんの技と言いケイヤさんの技と言い。あれを一人の人間がやってのけたのと思うと本当に俺は大丈夫なのかと思ってしまう。


 でも大丈夫だろう。

 この人達に教わればきっと成れる筈だ。

 そう思って不安になる気持ちを押し付けた。


「ふぃー、流石に疲れたなぁ」


 先ほどの強烈な一撃、【破滅の吐息】を放ったミチルさんが力を出し尽くしたように地面にヘタリ込む。

 しかし、その顔には疲れでは無く喜びの色で包まれていた。


「お疲れ様です師匠!」


「あははは、師匠て」


「正直めちゃくちゃかっこ良かった……俺もミチルさんみたいに強くなりたい!」


 敬語を忘れ興奮した勢いで言い切るとミチルさんは少し驚いた顔をしたあと目を優しく細めた。


「それをケイヤ達にも聞かせてあげて。きっと照れ臭く喜ぶから」


「分かりました、師匠はもう少し休んで来ますか?」


「うん、そーするよ」


「いってらっしゃーい」と軽く手を振ってミチルさんは俺を送り出す。

 早くこの感動をあの人たちに伝えたい。その一心で荷物を担いで古びた階段を駆け下りる。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「ケイヤさーん!」


「おっ、ユウイチ」


 戦闘があった場所までは直ぐに着いた。


 そこには巨大猪と繰り広げた戦闘の爪あとが生々しく残っていた。

 倒壊した家屋、陥没した道路、散らばるレンガブロック。

 これら全ての破壊を怪物との戦闘で出来たものと考えると少し恐怖を覚える。

 俺は本当にあんなのと渡りあえるのか?

 一度決めた覚悟が揺らぎそうになる光景がそこにはあった。


 だけど今言うことはそれじゃない今言うべき事は、


「ケイヤさん、めちゃくちゃかっこ良かったです!」


「そうかありがとうな」


 ケイヤさんはそう言うとニッと歯を見せて嬉しいそうに笑った。


「ところでこの後はどうするんですか?」


「疲れたから帰る! 以上!」


 ズコッと転ぶ。


「そうですか、他にやる事とか無いんですか?」


「いやー、特に無いな。この牙は解体班が後で回収して買い取ってくれるしな。今はハヤトがこの場所がどこら辺が地図に記しているところだ」


 確かにハヤトさんはさっきから辺りを見回してどこら辺か確認しているようだった。


 なるほど、これもプロフェッショナルの仕事

 なのか……しっかり覚えておこう。


「ケイヤ終わりましたよ」


「ありがとうハヤト。それじゃあ地図を解体班の人に渡して帰るとするか」


 そう言ってケイヤさんが帰るために歩き出そうとすると。


 銃声が素早く三発モトノキに響いた。


 この銃声は……ミチルさんのもの?


 すると銃声を聞いたケイヤさんとハヤトさんが素早く武器を抜いて場は張り詰めた空気に包まれた。


「どうしたんですかケイヤさん?!」


「ユウイチ動くなよ! ミチルからの三発の銃声……これは怪物発見の合図だ!」


「え、つまりそれって」


「この近辺に怪物がいる!」


 ケイヤさんがそう言った瞬間だった。


 数十メートル先の家が潰れた。

 比喩表現抜きで上から落ちて来た何かによって原形を止める事なく完璧にに潰れた。

 そして家を潰した黒い毛に包まれた物体がゆっくりと立ち上がる。


「なんだあれは……」


 それを見た俺はおそらく人生で初めて、本当の意味で戦慄を知る事になる。

 端的に言えばさっきまで暴れ回っていた巨大猪が可愛いくらに思えるほどのプレッシャーをそれは放っていた。


 だけど、俺はこの怪物に似ているものを知っているような気がした。

 

 体格は巨大猪よりも一回り以上大きく、見た目は一番似ているもので言ったらゴリラだ。

 だが、ただのゴリラで無い。

 それには腕が六本備わっていた。

 どの腕も一本一本がドラム缶のような太さだ。

 それに加えて猿の顔が正面に一つ、左右に一つずつの計三つ。正面の顔は金のシンプルな造りをした冠を被っている。

 臀部から生える尻尾は先端が棍棒の様に太く、それの攻撃を食らえば致命傷は必至。


 ここまで来れば誰でも分かる。これは怪物だ。だけどさっきの巨大猪とは決定的に違うところが一つある。


 それは……


「黒いソウルを纏っていないだと」


 ケイヤさんが声を震わせながらそう吐き捨てた。

 そう目の前の怪物は黒いソウルを纏っておらず、その体表は黒く滑らかそうな毛皮で覆われていた。


「黒いソウルを……纏っていないってことはどういう意味ですか……」


 ダメだ、目の前の怪物のプレッシャーで声が震える!

 気を抜くと胃の中のものを全て吐き出してしまいそうだ!


「黒いソウルを纏っていない。それに加えて明らかに異形。つまりこいつはーー」


 するとケイヤさんは一拍あけて深刻に告げた。


「こいつはSSランク相当の怪物ってことだ」


「あ……」


 ここで俺はようやく気付いた。


 そうだこいつは「阿修羅」に似ている。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 悠然と立ちはだかる怪物に『朝焼けの団』は身動きを取れずにいた。


 動かずともその肉体から放たれる心臓を握られる様なプレッシャー。

「蛇に睨まれた蛙」という状況が存在するなら正しく今の状況をさすのに相応しい。

 悠久の時が流れるかごとくその場には静寂が流れていた。


 しかし、両者の沈黙を破ったのは「朝焼けの団」団長ケイヤだった。


「……ユウイチ今すぐここから離れろ」


 ケイヤは振り絞る様な声でそれを伝えた。


 実績ある者に贈られる『シングル』の称号持ちであるケイヤでさえも場を支配する空気に飲まれていた。

 今この危機的状況で取るべき選択肢は一つ。逃走の他にない。

 逃走が出来なければこのパーティの全滅は必至とケイヤの経験が勧告していた。

 しかし、


「ーーーーっ!」


 ユウイチは動けずにいた。

 それもそのはず、つい先日まで弱肉強食の世界とは無縁の世界で生きていたユウイチ。

 そんな彼が突然、真の捕食者と出会いどうなるかなど結果は火を見るより明らかだ。


(くそっ動けよ……動けよっ! 何を突っ立ってるんだ俺はッ!)


 心ではそう叫んではいるが、遺伝子に刻みこまれた本能がそれを許しはしない。

 足が竦み、ユウイチの体に口から臓器が出そうなほど緊張がはしる。


(くそっ、そりゃそうなるよな。こうなったら俺が出来るだけ時間を稼ぐしかない)


 ユウイチを逃す為に捨て身の覚悟を決めた、ケイヤが両の手に握る太刀を構え直すーーその時だった。


『お辞めなさい』


 声が聞こえた。

 中年の男の声。

 滑らかな発音言葉が。

 この場にいる三人の誰の声でもない声が。


「誰だッ!」


 ケイヤはその声の主を探す。

 だが、辺りを見渡すも人の影は見当たらない。

 すると再び。


『ここですよ、ここ。あなたの目の前』


 目の前と言われたケイヤがゆっくりとその声の方向に首を曲げる。

 目の前にいるのは六本腕を堂々と組んだ巨大な怪物だ。

 すると視線を向けられた六本腕の怪物は鋭い牙が並ぶ口を横に引き裂く。


『どうも皆さんこんにちは。私は「猿王・阿修羅」と申します。以後お見知り置きを……クフッ……クフフフフフフフフフ』


 狂気的な相貌とは裏腹に丁寧な挨拶をした六腕の怪物、阿修羅は不気味な笑い声を響かせる。


「怪物が喋っただと……」


『クフフフフフ。随分と驚いていらっしゃいますねぇ。まあそこら辺は深く考えなくてよろしいですよ、私が特別なだけです』


 阿修羅は愉快そうに指を口にあて笑う。

 そんな阿修羅の行動を見てケイヤはさらに驚愕の色に顔を染める。


(ここまで意思疏通が出来る怪物なんて聞いたこと無いぞ……)


 歴史上、確認された高位な怪物では僅かではあるが言葉を話した怪物がいたらしい。

 しかし、ここまで流暢に会話をする怪物などケイヤの知る範囲ではどこにも存在しない。


「……話が通じるようだから一応聞く。用件はなんだ?」


 会話が成立すると判断したケイヤは恐る恐るながらも六腕の怪物に用件を尋ねる。


『クフフフフ。話に応じる気があるようで何よりです。では私からの用件はたった一つ。そこの固まっているあなた』


 すると阿修羅は右中腕の人差し指をユウイチに向ける。

 指を指されたユウイチはビクッと肩を震わせゆっくりと視線を上げる。


『あなた上等なソウルをお持ちですねぇ』


 阿修羅がより一層不気味な笑みを浮かべた。場の空気が重く淀む。


『そんなあなたを頂きに来ました』


「「「!!」」」


『故にあなた以外の人に興味はありません。素直にその子を渡してくれるなら手出しせずに引きましょう』


 怪物は上質なソウルを食らうほど強くなる。そのことはプロフェッショナルならば誰でも知っている常識、故に阿修羅が言っている事はごく普通の事だった。

 だがーー


「そうか……ユウイチが欲しいのか……」


 ケイヤは後ろにいるユウイチに視線を向けた。

 すると次にふっと笑い阿修羅を正面から捉えてキッパリと言い切った。


「ならお引き取り願おう。俺たちはどんな恐怖に晒されようとも、どんな絶望の淵に立たされようともーーこいつは絶対にわたさねぇ」


 すると阿修羅の顔から笑みが消え、俯き、組んでいた両腕を静かに下ろした。


「クフフフフ。交渉決裂ですかぁ、残念です。では強硬手段と行きましょうか」


 そう言った次の瞬間、阿修羅から黒いソウルが爆発するように溢れて出す。

 それが阿修羅が臨戦態勢に入った証拠だった。

 重くのしかかっていた空気がさらに濃密となり呼吸すらも辛い空間を作り出す。


 その時再び上空に炸裂音が響く。

 ケイヤが空を見るとそこには赤と黄の点滅する光の玉が上がっていた。


(ナイスだ、ミチル! 赤と黄の点滅は救援の意。もし、この周辺にプロフェッショナルがいれば応援に駆けつけてくれるはず!)


 だが、それは希望的観測であった。

 第一にこのモトノキは無人でほぼ、人が寄り付かない。

 更にこの地帯は危険度が低くプロフェッショナルのノーマルランク、即ちプロフェッショナルとしてひとり立ちした人達に人気がある。

 故にこの推定ランクSSの怪物と渡り合える様な強者がいる可能性はとても低い。


(早く……早く来てくれ!)


 だが、それでもこの危機的状況にケイヤは心の底から応援の到着を願った。

 願わずにはいられなかった。








十六話を読んでいただきありがとうございます。


ユウイチの元へ現れた推定ランクSS怪物、阿修羅。はたして「朝焼けの団」の運命やいかに!


え、この先どうなるん?って思った方はブックマーク登録もよろしくお願いします。


それでは次話もよろしくお願いします!

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