15 決着
巨大猪は自身の両腕を地面につけ姿勢を低くし、大きく鼻息を吹く。
それは自身最強の技を放つ姿勢。
ケイヤは巨大猪の行動を察知しハヤトの後ろに下がる。
「おそらくあれが奴が出す最強の技。自身の質量と筋力を、そのままぶつける突撃だろう。避けても相手が死ぬまで何回も続けるだろうな」
巨大猪の攻撃を読み取り、ケイヤは脳内で作戦を立てる。
(おそらく一撃だけならハヤトでも防げるだろう。しかし連続となると……)
不利な状況に陥ったケイヤの額に汗が滲む。しかし、不利な状況でも打開するのがリーダーの役目でもある。ケイヤはありとあらゆる策に思考を巡らせる。
(あとはミチル次第なんだがまだなのだろうか)
ユウスケがそう考えたときモトノキの上空に乾いた炸裂音が響く。ケイヤが素早くそちらに目を向けるとそこには紅く燃える閃光が灯っていた。
一般人から見ればただの明かり、しかし「朝焼けの団」にとってそれは、
「準備完了の合図」
意を決したケイヤは前方で大盾を構えるハヤトに作戦を伝える。
「ユウジン、フォーメーションVだ」
「了解ですッ」
ケイヤは手に持っていた太刀を鞘にしまい、巨大猪に人差し指を向けはっきりと宣言する。
「さあ、幕引きと行こうか巨大猪ッ!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「【我が身は鋼、幾度も打たれし強靭な鋼ーー】」
ハヤトが剣を鞘にしまい、銀の大盾を両手で握り締め詠唱を始める。
技やスキルの発動において最も重要なのは想像。いかに大量のソウルを込めようとも、想像が疎かであれば技やスキルは威力が低くなる。
故に完璧な想像を作るとするのならば詠唱や決まった構えを取る行為は最高の手段である。
「【鋼は盾となり、背の万民、故国を救う最強の盾と化すーー】」
ただ、詠唱するとした場合、欠点があるとすればそれは高い集中力を必要とするため動きが鈍る事だ。
(頼むぞハヤト……)
自分の前で盾を構える仲間を信頼し、ケイヤも右手を前に突き出し詠唱を始める。
「【その光景は天下一の絶景なりーー】」
しかし、詠唱の完成を巨大猪が待ってくれる道理はない。
「ブルアアアァアアアアアアアッッ!!」
遂に巨大猪が猛々しい咆哮と共に地面を爆発させ突進する。
恐ろしい程の質量と速度。
その突撃は貨物列車の衝突となんら変わりの無い威力を放ち相手を貫くであろう、正に最強の矛の一撃。
巨大猪の突撃は確実に相手を殺すーー相手が常人ならば。
だが、巨大猪の目の前にいるのはプロフェッショナルだ。
「【護王の盾】」
ハヤトの詠唱が完成する。
想像したのはかつて一国の危機を盾一つで守り抜いた護王の姿。
その王は人生の最後まで故国を我が身と盾で守り抜いた伝説の王。
ユウジンが放つ最強の護りであった。
「ブォオオオオオオオオオオ!!」
巨大猪は渾身の力を込め、その護りに突撃した。
大盾と牙が衝突し、あたり一帯に轟音と衝撃が共鳴し、どちらも一歩も引かず均衡が保たれていた。
しかし、
「ッッッ!」
ハヤトの大盾が徐々に押され始める。本人も気づいてはいなかったが先ほどの連撃が鈍く肉体に響いていた。
必死に足腰に力を込めるが少しずつ押される。
好機と読んだ巨大猪が更に力を込め押し込み始めた。
そんな絶対絶命のなかハヤトは、
「うぉおおおおおおおおおおおおおお!」
叫んだ。
するとハヤトの体内からさらなるソウルが爆発的に湧き出る。
誰かが言った「ソウルは感情の源である」と。
漲るソウルの全てをハヤトは盾と己の肉体に注ぎ込む。
「ブォオオオオオオオオオオオオオッッ!」
「うぉおおおおおおおおおおおおおおッ!」
二匹は渾身の咆哮を放ち最後の力を振り絞った。
そして遂に最強と最強の決着が着く。
巨大猪の突撃は止まっていた、奥で詠唱を連ねるケイヤの手前で。
その間、僅か五メートル。
自身の最強の一撃を受け止められた巨大猪の顔が驚愕に染まる。だが、巨大猪は冷静だった。
(コノ人間ハ次デ終ワリ)
目の前で辛そうに肩で息をするハヤトを見てそう判断した巨大猪はもう一度、攻撃を仕掛けるため距離を取ろうとする。
だがすでに手遅れ。
ケイヤの詠唱が完成する。
「【しかしそれは偽りの姿。真の姿はあらゆる生命を閉じ込める爆風の檻】」
ケイヤのソウルが風に変わり巨大猪の真上に集まり、渦巻く薄緑の風がうめき声を上げる。
そして、ケイヤの想像と詠唱が完成した瞬間、技が発動する。
「【秘術】【風ノ型】天ノ滝!!」
猛威。
巨大猪の上に集まった風が爆風の滝のごとく降り注ぎそのまま巨大猪に襲いかかる。
上からかかる驚異的な風圧によって巨大猪は片膝をつき、その場に縫い付けられる。
脱出を図るが降り続ける風の檻がそれを許さない。
ケイヤは左手で突き出した右腕を握り、技を発動し続ける。
強力な技をではあるが故にソウルを大量に消費するため長くは続かない。
ソウルを振り絞っている影響で鼻血か滴るがケイヤはそれでも技を緩めない。
全ては彼女の一撃に託すために。
「ミチルッッ!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ケイヤの「天ノ滝」発動の直前ミチルは手中のライフルを目の前に掲げた。
そして目の前のライフルに力を込めるように神妙な声で歌う。
「【かの龍は世界の脅威と呼ばれし、民草の恐怖の象徴ーー】」
ミチルが詠唱を始めると体内のソウルが炎に変換されだす。
炎となったソウルはミチルの体から真紅の蛍火のように放出され手に構えるライフルに吸収されて行く。
(凄い……綺麗だ……)
目の前で起こる神秘的な光景にユウイチは息を呑み視線を奪われる。
「【龍の吐息は海を焼く吐息。民草の積み上げた文明を無慈悲に焼く破壊の吐息ーー】」
掲げたライフルの弾をリロードし、標準を風の檻に囚われた巨大猪に合わせる。
炎の光は更に吸収され続け吸収するライフルが淡く光輝く。
そして、最後の詠唱が紡がれる。
「【龍に焼かれし先人達よどうか許してほしい。我は今、悪しき敵を討つためその暴虐な一撃を今一度、再現させる】」
ミチルはライフルのトリガーに指をかけ、詠唱を完成させる。
「【銃術】【火ノ型】破滅の吐息ッ!!」
銃口から放たれた真紅の炎は辺りを赤い閃光でつつむ。
銃弾は爆音を上げながら寸分の狂いもなく巨大猪の眉間に直撃し、込められた炎のソウルが炸裂。
巨大な火柱が天高く立ち上がる。
ミチルが想像したのは、ランクSSのサラマンダーの吐息ーー数多の街を焼いた暴虐の吐息。
ミチルはその吐息を見事に顕現させた。
「はは、やっぱ何度見てもすげぇや」
ミチルが「破滅の吐息」を放つ瞬間、「天ノ滝」を解除し距離をとっていたケイヤは立ち上がる火柱を見て感嘆の声で呟く。
火柱が消えた後、巨大猪がいた場所を見ると特徴だった大きな牙が二本そこに落ちていた。
ミチルの一撃は肉体を消し飛ばし、巨大猪の最も堅い部位以外全てを炭に変えた。
その事実にユウスケは多少戦慄しながらも張り詰めていた緊張をとく。
「俺たちの勝ちだッ!」
ユウスケは両手両足を投げだし、地面に寝転がった。
モトノキ西区での戦闘は「朝焼けの団」の完全勝利に終わった。
十五話を読んでいただきありがとうございます。
遂に巨大猪との決着をつけることが出来ました。
何とか書き終えることができてホッとしています。
読んでいていかがでしょうか?もっとこうした方がいいなどご意見があれば感想お待ちしております!
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