14 激闘
巨大猪が放つ大咆哮に気圧されながら目の前で起こった異常事態にケイヤは判断を余儀なくされる。
形態変化した場合その力は変化する前のものとは全く別のものとなる。速度が上がったり膂力が上がったり、形態が変わったため戦闘の仕方もガラリと変わってくる。
故にケイヤは人型になった巨大猪の戦闘の仕方を見るため陣形を変える。
「ハヤト、フォーメーションAで行ーー」
形態変化した巨大猪に対応すべくケイヤがハヤトに指示を出す瞬間。
巨大猪が地面を蹴った。
人型になった事によりそのスピードは前の猪型とは比べものにならかった。
そしてケイヤとの間合いをあっという間に詰め、大木の様に太く変化した自身の腕を振り抜く。
予想外のスピードで攻撃を仕掛けられたケイヤは回避出来ずそれを正面から食らった。
ケイヤの体は子供に蹴られた小石のように吹き飛び、そのまま後方にあった瓦礫の山に突っ込む。
「ケイヤッ!」
突然の出来事にハヤトは反応できず、攻撃を食らった仲間を助ける為、ハヤトはケイヤの元に駆ける。
しかし、巨大猪は早かった。
巨大猪は決定的な一撃を加えるべくハヤトよりも先に瓦礫の山に移動する。
殺す、食う。
巨大猪の感情はその二つのみ。
もはや巨大猪は猪ではなく、人を殺す為に生まれてきた狂戦士と成り果てていた。
そして、振り上げた巨大な腕でとどめを刺すーーその時だった。
鋭い銃声。
遠方より銃声が響き、振り上げられた巨腕が無色の衝撃波により後ろに弾かれる。
姿勢の崩れた巨大猪に再び連続で銃声が二回鳴り響く。次は頭部と胸部に衝撃波が走る。
まともに受けた巨大猪はその巨体を背から倒された。
巨大猪が倒れた数秒後、瓦礫を風で吹き飛ばし中から薄く傷を負ったケイヤが現れる。
ケイヤは直撃の瞬間、風で体を後方に飛ばし巨大猪の一撃をいなしていた。
それに加え【風の鎧】によりダメージを大幅に軽減し、致命傷には至らなかった。
しかし、今の一撃を食らっていたらヤバかったと感じケイヤは苦笑いする。
「助かったミチル」
自分を助けてくれた腕利きの狙撃手に感謝をして再び武器を構える。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「今の狙撃は何ですかミチルさんっ?!」
強力な狙撃を目にした俺は興奮した声でミチルさんに聞いた。
ミチルさんはライフルに弾をリロードしながら得意げに言う。
「【銃術】【無ノ型】衝撃弾。自身のソウルを弾に込めて放つ。そしてソウルを纏った弾丸は直撃の瞬間に衝撃波を放つっていう技。また、威力は込めたソウルの量によって変わる。結構、便利で強い技だよ」
「凄いです! あんな巨体を弾き倒すなんて」
「いや〜それほどでも〜」
ミチルさんは照れ臭く笑って桃色の髪をかく。
「あ、そうだユウイチ君にこれを渡しておくよ」
するとミチルさんは腰のホルダーから黒い拳銃に似た形の銃を取り出しそのまま俺に手渡しする。
そして、ミチルさんは渡した銃の説明をする。
「それは打つと赤い閃光が出る弾でね、私がそれを「撃て」って言ったら真上に打ち上げてね」
「わかりました。ところで何の合図をするんですか?」
そう聞かれたミチルさんはニヤリと笑いこう言った。
「私が必殺技を撃つ合図だよ」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ハヤト、さっき言い損ねたがフォーメーションAで行く」
「分かりました、次こそは守ってみせます」
「頼んだぜ」
互いに意思共有した二人は陣形を組む。陣形と言ってもハヤトが前に出てケイヤが後ろで構えるという簡単なものだ。
巨大猪は倒れた巨体を起き上がらせ、鼻息を不機嫌に吹き荒らし、自身の両腕の蹄を打ち鳴らし威嚇する。
巨大猪はいまだ黒いソウルを体から放ち殺意に闘志を燃やしている。
殺す、殺す、殺す殺す殺す殺す殺すッッ!
殺意が絶頂に高まった瞬間、巨大猪は地面を爆ぜさせ目の前の標的に突貫する。
「来るぞッ!」
巨大猪の殺意を感じたケイヤはハヤトに声を張り上げる。それを感じとったハヤトは手に持つ盾と剣に力を込め防御の姿勢に入る。
「ブルアアアァッ!」
巨大猪はその巨大な腕を銀の盾に向かって振り抜く。
先ほどケイヤを吹き飛ばした凶悪な一撃だったがハヤトはそれを真っ向から受け止めた。凄まじい火花が飛び散り衝撃音が響く。
「ふっ!」
その一撃をハヤトは完璧に受け止めて見せたた。
だが、巨大猪の攻撃はそれでは終わらなかった。自分の一撃を止めた銀の大盾にさらに連撃を加える。圧倒的な威力と速度を持った攻撃が雪崩のごとくハヤトに襲いかかる。
「くっ」
ハヤトは自身のスキルを発動させ破壊の波を受け止め続ける。
全ては後ろにいる仲間を守るため。
しかしそれでも完璧に抑え込む事は出来ず火花を散らしジリジリと押し込まれる。
「ハヤト左に回避しろッ!」
そんな猛撃の中、後ろのケイヤから合図がかけられる。
その合図を受け取ったハヤトは右の大振りをスレスレで回避し、左に逸れる。
巨大猪の目の前には刺突の構えをしたケイヤがいた。さらに握る太刀には吹き荒れる旋風を乗せて。
「【剣技】【風ノ型】爆風の鉄槌ッ!」
ケイヤの突きと同時に爆風が放たれる。
放たれた薄緑色の爆風は鉄槌の一撃のごとく巨大猪の巨体に衝撃を与えぶっ飛ばす。
攻撃を受けた巨大猪の巨体が遥か後方に飛び、勢いを殺しきれず弾み、建物を破壊しながら転がる。
数十メートル飛びようやく破壊の波は止まった。
しかし、強烈な一撃を食らったにもかかわらず巨大猪は己の蹄を地面にたて立ち上がろうとする。
そんな巨大猪にケイヤはさらなる追撃を加えた。
「まだまだ!【剣技】【風ノ型】乱風刃」
風を纏った太刀から振り抜く度に風の刃が放たれ、風の刃は巨大猪へ肉を断つ勢いで飛翔する。
巨大猪はその斬撃を腕でガードする。屈強な腕で防がれたことにより「乱風刃」は少量のダメージに終わるが、切られた部位からドス黒い血が滲んでいた。
(少しはダメージは入ったようだな)
ゆっくりと立ち上がる巨大猪を見てケイヤはそう思った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
巨大猪は焦っていた。
「何故コノ生物ハ死ナナイ?」
ありとあらゆる生命を自前の強靭な蹄と牙で瞬時に葬り去ってきた巨大猪には今の状況はとても理解出来なかった。
会心の一撃を食らったと思えば立ち上がり、自身よりも一回りも二回りも小さい体でこの巨体を吹き飛ばす。
このモトノキで頂点に位置する存在であると自覚していた巨大猪には驚愕の出来事であった。世界は広く自分よりも強い存在がたくさんいるそう思えるほどに。
しかし、そんな驚きを受けるものの巨大猪は一つだけ確信していることがあった。
「俺ノ方ガマダ強イ」
だって自分には最強の一撃があるのだから。
十四話を読んでいただきありがとうございます。
巨大猪との決闘も中盤戦にさしかかってきました。この戦いの決着やいかに?
技カッコいいと少しでも思った方はブックマーク登録もよろしくお願いします。
次話もよろしくお願いします!